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2024.06.03

配偶者居住権とは?制度の概要やメリット・デメリットを解説

配偶者居住権とは?制度の概要やメリット・デメリットを解説

配偶者居住権とは、令和2年4月1日以降に発生した相続から適用できる制度です。被相続人の配偶者にとって有利な制度であるため、利用を考えている方もいらっしゃるでしょう。

配偶者居住権には大きなメリットがある一方で、デメリットもあります。メリットとデメリットの両方を理解しておかなければ、思わぬトラブルが起きたり後悔したりする可能性もあるでしょう。遺産分割だけでなく、税金も絡んだ問題であるため、正しい知識を元に、慎重に検討する必要があります。

今回は、配偶者居住権の概要と設置された背景、取得方法、メリット・デメリット、登記の必要性などについて解説します。

配偶者居住権とは?設置された背景と要件

まずは配偶者居住権とはどのような制度なのか正しく理解しておきましょう。ここでは、この制度が作られた背景と成立要件について解説します。

1.残された配偶者が自宅に無償で住み続けられる制度

配偶者居住権とは、被相続人が所有していた物件に、残された配偶者が、生涯、または一定期間、無償で住み続けられる制度です。建物の価値を所有権と居住権に分けて考えるのが特徴で、この制度によって配偶者が得られるのは居住権です。遺言、または遺産分割協議で取得できます。

ただし、対象となるのは被相続人の生前に同居していた物件に限られます。何らかの理由で別居していた場合は利用できません。

2.残された配偶者の生活を保証するために設置された

配偶者居住権は、令和2年4月1日から施行された制度です。この制度が設置された背景には、残された配偶者の生活の困窮がありました。

これまでの遺産分割では、配偶者が被相続人所有の自宅不動産に続けて居住するには、その所有権を取得するしかありませんでした。しかし、不動産を取得してしまうと、現金や預金など、他の遺産をあまり多くは相続できません。そのため、残された配偶者は、住むところは確保できても、生活していくための資本が十分にないという事態に陥りがちだったのです。

配偶者居住権により、自宅不動産の権利を所有権と居住権に分け、それぞれの権利に財産的価値を算出し、遺産分割ができるようになりました。権利が分かれる分、居住権の価値を低く見積もれるようになり、残された配偶者は、自宅に住み続けながら、現金や預金などの生活資金もしっかり確保できるようになったのです。

【例】父が亡くなった場合
遺産:自宅不動産(評価額3,000万円)、預金(3,000万円)
相続人:母、子

【配偶者居住権設置前の遺産分割】
母が取得する遺産:自宅不動産のみ(評価額3,000万円)
子が取得した遺産:預金(3,000万円)

【配偶者居住権設置後の遺産分割】
母が取得する遺産:自宅不動産の居住権(1,000万円)、預金(2,000万円)
子が取得する遺産:自宅不動産の所有権(2,000万円)、預金(1,000万円)

3.配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権が成立するには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 被相続人の法律上の配偶者であること(内縁関係ではない)
  2. 対象の不動産に被相続人の生前から居住していたこと
  3. 遺産分割・遺言による遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判の4つのうちのどれかの方法で取得したこと

配偶者居住権を取得する方法

配偶者居住権は以下のいずれかの方法で取得できます。

1.遺言によって遺贈する

ご自身が亡くなられたときのことを考えている場合は、遺言書を作成し、配偶者居住権の遺贈について言及しておくとよいでしょう。

また、生前に贈与を約束する死因贈与でも設定できます。口頭の約束だけでも有効ですが、トラブルを予防するためには死因贈与契約書を作成しておいた方がよいでしょう。

2.遺産分割協議によって取得する

遺言がないまま配偶者が亡くなってしまった場合は、遺産分割協議の中で主張できます。他の財産と同様に遺産分割の対象であるため、財産としての価値を評価する必要がありますが、定められた算定方法はありません。どのように決めるかは自由であり、相続人全員が納得さえすれば、評価しなくてもよい場合もあります。

算出の仕方がわからない場合は、下記の公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会の公式サイトや法務省が公開している例を参考にするとよいでしょう。

参考:
「配偶者居住権等の鑑定評価に関する研究報告」の公表について(日本不動産鑑定士協会連合会公式サイト)
配偶者の居住権を長期的に保護するための方策(配偶者居住権)(法務省公式サイト)

3.家庭裁判所の審判

遺産分割協議で話がまとまらなかった場合は、家庭裁判所に審判の申し立てをしましょう。裁判所が、相続人それぞれの主張を聞いた上で、配偶者居住権の取得が妥当か判断を下します。

配偶者居住権のメリット・デメリット

配偶者居住権の取得には、大きなメリットもありますが、デメリットもあります。両方を理解した上で、適切に利用しましょう。

1.配偶者居住権のメリット

配偶者居住権の主なメリットとして以下の3つが挙げられます。

  • 登記によって権利を主張できる

配偶者居住権を取得したら登記が必要です。手続きの手間はかかりますが、第三者に権利を主張するためには必要なため、所有者に義務づけられています。登記をしておけば、配偶者と所有者の仲が悪く、自宅を売却されてしまったとしても、出ていく必要はありません。所有者が誰であろうと、配偶者は住み続けることができます

ただし、登記ができるのは建物のみです。土地は対象ではないため、登記はできません。

  • 配偶者が生活資金や納税資金も相続できる

配偶者居住権の財産的価値は、所有権よりも低いものです。また、価額の算定方法に決まりはないため、場合によってはより低いものとして扱うこともできるでしょう。そのため、残された配偶者は、遺産分割において、自宅の他にも多くの遺産を取得できます。十分な生活資金や相続税の納税資金を確保することもできるでしょう。

  • 遺留分請求のリスクを低減できる

配偶者居住権は、所有権ほど財産的価値がないため、配偶者が居住権と他の財産を相続しても、遺産全体に対する割合が過度に大きくならずに済むはずです。他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクも低くなるでしょう。

2.配偶者居住権のデメリット

配偶者居住権を取得する主なデメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

  • 相続税がかかる

配偶者居住権は、相続税の課税対象です。

所有権とは別に評価されるため、二次相続まで考えると節税効果がある場合もありますが、小規模宅地の特例を利用して相続した方が得である可能性もあります。節税を優先させるなら、配偶者居住権を利用するのが適当かどうか、専門家に相談しながら決めるとよいでしょう。

  • 配偶者居住権が有効な間は処分できない

配偶者居住権が有効である限り、原則として売却などの処分はできません。終身有効な権利であるため、長期間処分できない可能性もあることに注意しましょう。

  • 所有者とトラブルになる可能性がある

所有者と配偶者との関係が悪い場合、トラブルが生じる可能性があります。たとえば、建物の劣化や損傷などを理由に所有者が配偶者に損害賠償請求をする、リフォームなど建物の変更を巡って争いになるなどの可能性が考えられるでしょう。

誰が所有者になるかはよく検討したうえで決める必要があります。

配偶者居住権を取得するのがおすすめであるケース

配偶者居住権には、メリットだけではなくデメリットもあるため、デメリットを理解したうえで慎重に検討することが大切です。しかし、以下のようなケースでは、積極的に検討するとよいでしょう。

  • 残された配偶者に住居を確実に取得させたい場合
  • 残された配偶者に住居だけでなく、生活資金なども取得させたい場合
  • 遺産が自宅不動産くらいしかない場合

配偶者居住権についてよくある質問

配偶者居住権についての理解をさらに深めるため、ここではよくある質問とその回答を紹介します。

1.配偶者短期居住権との違いは何ですか?

令和2年4月1日から配偶者居住権と一緒に設けられたのが配偶者短期居住権という制度です。この制度も配偶者が被相続人と居住していた住まいに無償で住み続けられる点では共通しますが、以下の点において配偶者居住権とは異なります。

 
配偶者居住権 配偶者短期居住権
取得方法 ・遺言

・遺産分割協議

・家庭裁判所での審判

自動的に付与される
存続期間 原則として終身 遺産分割協議がまとまるまで、または、被相続人の死亡から6ヵ月
登記 所有者に義務付けられている できない
相続税 課される 課されない
対象となる建物の部分 全体 実際に居住・使用している部分

2.配偶者居住権を設定できないケースはありますか?

配偶者居住権は以下のような場合には設定できません。

  • 相続発生時に、配偶者が対象の建物に居住していない場合(例:介護施設に入居していたなど)
  • 建物が配偶者以外の人との共有名義である場合(例:被相続人と子どもとの共有名義など)

3.介護施設に入居する場合はどうなりますか?

介護施設への入居など、配偶者が居住しなくなった場合は、配偶者居住権を放棄することができます。ただし、その場合、居住権を所有者に譲ったとみなされ、贈与税が発生することに注意しましょう。

まとめ

今回は、配偶者居住権の概要と設置された背景、取得方法、メリット・デメリット、登記の必要性などについて解説しました。

令和2年4月1日より施行された改正民法で定められた配偶者居住権によって、残された配偶者の経済的な不安を軽減しやすくなりました。自宅にそのまま住みながら、ある程度まとまった財産を手にできるため、安心して生活できます。

一方で、配偶者居住権の設定によって、売却などの処分ができなかったり、所有者とのトラブルが発生したりする可能性があるほか、途中で放棄された場合は贈与税がかかるなど、デメリットもいくつかあります。デメリットを知らずに利用してしまうと、後悔する可能性もあるので、専門家などに相談しながら検討することをおすすめします。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。配偶者居住権に関する相談にも応じておりますので、お気軽にご相談ください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一