親が亡くなり、実家の遺品整理を始めようとした際、「どこから始めればよいかわからない」「忙しくて時間がとれない」などと悩んでいる方もいらっしゃるでしょう。
遺品整理は大変な作業です。大量の物を仕分けして処分しなければならず、時間や手間がかかります。効率良く進めるためには、基本的な流れを知り、計画的に進めることが大切です。
今回は、実家の遺品整理の前に確認が必要なこと、遺品整理の基本的な手順や注意点などについて解説します。
実家の遺品整理の前に確認が必要なこと
遺品整理は相続手続きに影響することもあるので、遺品整理を始める前に以下のことを確認してください。
1.遺言書はないか
まずは故人が遺言書を残していないか確認しましょう。遺言書の内容によっては、遺品整理の進め方に影響する可能性もあります。「本人から遺言書のことは何も聞いていないし、どこにあるのか検討もつかない」という方は、以下のような場所を探してみましょう。
【遺言書が保管されている可能性が高いところ】
- 金庫
- 仏壇
- 本棚
- 机などの引き出し
- (故人が経営者の場合)会社の机などの引き出しや金庫
- 銀行の貸金庫
- 信託銀行
- 公証役場
2.相続するのか
遺品の片付けを始める前に相続するのかどうかを決める必要があります。遺品を処分すると、相続放棄ができなくなってしまうからです。遺品の一部を処分すれば、マイナスも含めた全ての遺産を相続する「単純承認」をしたとみなされてしまいます。多額の借金があっても相続放棄を選択できなくなるため注意が必要です。
遺品整理を始める前に必ず相続財産の調査をしっかり行い、プラスとマイナスのどちらの財産が多いのか、できる限り正確に把握しておきましょう。
3.相続税が発生するか
相続性が発生する場合、相続発生から10ヵ月以内に相続税の申告と納税をしなければなりません。遺品やその売却益は、相続税の計算の基準となる相続財産に含めることもあるため、速やかに遺品整理を完了させる必要があります。
また、持ち家の場合は、相続税が高額になる可能性もあります。実家を売却して、相続税の支払いに充てたい場合は、早急に完了させることが望ましいでしょう。
4.遺品整理のスケジュール
効率的に遺品整理を進めるためには、事前にスケジュールを立てておくとよいでしょう。以下のことを決めておくとスケジュールの進捗管理がしやすくなります。
- 開始日
- 完了予定日
- 片付ける順番
- 遺品整理をする日時と回数
ごみの収集日を確認し、収集日に合わせて進めるとよりスムーズに片付くでしょう。
5.用意するもの
遺品整理を始める前に、以下のものを用意しておきましょう。あらかじめ用意しておけば、買い出しに出かける時間を節約できます。
- マスク
- 軍手
- スリッパや厚手の靴下
- ゴミ袋
- ダンボール
- ガムテープ
- ハサミやカッターナイフ
- 油性マジック
- 台車
- 脚立
実家の遺品整理の基本的な手順
遺品整理は、基本的に以下のような手順で進めるとよいでしょう。
1.近隣住民へのあいさつ
遺品整理を行う際は、ご近所に迷惑をかけることもあります。騒音がしたり大量のゴミが出たりすることもあるでしょう。悪臭や害虫が発生することもあるかもしれません。何の断りもなく始めれば、苦情が出ることもあるでしょう。ひどい場合は自治体などに通報されてしまうかもしれません。
そのようなトラブルを未然に防ぐためにも、始める前に、必ずご近所にあいさつをしておきましょう。
2.遺品の仕分け
実際の作業は遺品の仕分けから始めます。保管するものと処分するものを分類しながら片付けましょう。特に以下のような貴重品は、相続財産の調査の際や、相続手続きの際に必要なので大切に保管しておきましょう。
- 通帳、キャッシュカード
- 現金
- 不動産の権利証
- 不動産や保険に関する書類
- ゴルフ会員権やリゾート会員権に関する書類
- 宝石などの貴金属や骨董品、美術品
- クレジットカード
- 住宅ローンなど借り入れに関する書類
- 税金に関する書類
3.不用品の搬出・処分
家具や家電などの不用品は搬出し、処分します。自治体のゴミ収集日に出すという方法以外に、まとめて業者に引き取ってもらうという方法もあります。
ただし、以下のものはリサイクル家電に該当するため、購入店に引き取ってもらうか自治体指定の方法で引き取ってもらわなければなりません。処分方法は自治体によって異なるため、自治体の公式サイトなどで確認しましょう。
【リサイクル家電に該当するもの】
- エアコン
- テレビ
- 冷蔵庫
- 洗濯機、衣類乾燥機
実家の遺品整理をする際の注意点
実家の遺品整理を行う際は、以下のことに注意しながら進めましょう。
1.人手や時間が足りない場合は業者への依頼を検討
遺品整理には時間と人手が必要です。「家族や兄弟の予定がなかなか合わない」「仕事などで忙しくて時間がない」「実家が遠くて大変」など、自分たちで行うことが難しい場合は、遺品整理の専門業者に依頼することを検討しましょう。
専門業者に依頼すれば、費用はかかりますが、時間も労力もかけることなく遺品整理を完了できます。特に期限がある場合は、積極的に検討するとよいでしょう。
2.つらいからといって、いつまでも放置しない
「思い出が詰まった遺品を処分するのはつらい」「親の面影を感じる実家は、しばらくそのまま残しておきたい」など、片付けをしようとしても、思い出が蘇り、進められない方もいらっしゃるでしょう。
しかし、いつかは片付けなければなりません。葬儀や四十九日などを区切りとし、気持ちの整理をしてから取り組みましょう。他の相続人の協力も仰ぎながら進めるとよいでしょう。
3.遺品を誰が相続するかは遺産分割協議で決める
遺言書が残されていない場合は、相続人同士の話し合いによって、誰がどの遺産を相続するかを決める必要があります。相続税が発生する可能性がある場合は、早めに遺品整理を終え、遺産分割協議を始める必要があります。
しかし、不動産など価値の高い財産がある場合は、その処分方法をめぐって争いになる可能性もあります。相続人同士で争いが起きた場合や、話がまとまりそうにない場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
実家の遺品整理を速やかに完了すべき理由
遺品整理は、相続発生後、できる限り速やかに完了することが望ましいといえます。特に実家が持ち家の場合、以下のようなリスクがあるからです。
1.誰も住まなくても固定資産税は発生する
所有者が亡くなり、誰も住まなくなっても、固定資産税は変わらず発生します。請求先は所有者の相続人です。遺品整理をしないまま放置すれば、売却も活用もできません。固定資産税の支払いだけを続けることになるので、期間が長くなるほど負担を負うことになります。
2.家の資産価値が下がる可能性が高まる
将来、実家の売却を考えている場合、長期間放置すれば、実家の老朽化が進み、価値が下がる可能性があるという点に注意が必要です。人が住まなくなった家は、急速に劣化が進みます。その結果、売却額が低くなる可能性も高いでしょう。
また、社会や周辺地域の影響で価値が下がる場合もあります。相続発生時よりもデフレが進行したり、急激に過疎化が進んだりして、数年で大幅に下落するかもしれません。「あの時、すぐに売ればよかった」などと後悔しないためにも、速やかに遺品整理を進めることが大切です。
3.特定空き家に指定された場合はペナルティを受ける
長期間空き家として放置を続け、老朽化が進んだ結果、景観や衛生状態の悪化など周辺地域に迷惑をかけるような状態になれば、自治体から「特定空き家」に指定される可能性があります。「特定空き家」に指定された場合、固定資産税が6倍になるなどのペナルティが課されます。ただでさえ無駄に支払っている固定資産税の負担がさらに大きくなってしまうのです。
遺品整理後の実家はどうするべきか
実家の遺品整理が完了した後はどうすればよいのでしょうか。遺品整理後の実家の処分や活用などの選択肢について説明します。
1.空き家のまま維持する
遺品整理が完了した後、実家を空き家にしたまま放置してはいけません。老朽化が進めば周囲の住民に迷惑がかかる可能性があり、犯罪の温床になるなど重大なリスクもあるからです。
空き家のまま維持する場合は、最低でも月に一度は清掃と点検に訪れ、必要があれば修繕するなど、適切に管理しなければなりません。遠方に住んでいて通う時間がない場合は、空き家管理サービスを利用するなど、ご自身で管理しなくて済む方法を検討しましょう。
2.売却する
実家が空き家になるなら、売却を検討してもよいでしょう。思い切って手放してしまえば、管理の手間や、空き家をめぐるトラブルの心配がなくなります。現金化することで遺産分割もしやすくなるため、相続人同士のトラブルを防ぐことにもつながります。
ただし、買主を見つけるのに苦労する場合もあるので、信頼できる不動産業者に相談しながら進めるとよいでしょう。
3.活用する
実家を手放さず、活用するという方法もあります。賃貸物件にすればご自身で管理する必要はありません。古い建物でもリフォームをすれば借り手が見つかる可能性があるでしょう。また、建物を取り壊して駐車場にすれば、管理の負担が軽くなります。
ただし、どのように活用すればよいかは、その土地の事情などを調べて判断する必要があります。地元の不動産業者に相談しながらベストな方法を模索しましょう。
まとめ
今回は、実家の遺品整理の前に確認が必要なこと、遺品整理の基本的な手順や注意点などについて解説しました。
実家の遺品整理は手間も時間もかかる作業なので、事前に段取りを決めてから取り組みましょう。また、実家が空き家になる場合は、空き家のまま維持すると管理などの負担がかかるので、処分または活用をする方法を検討するとよいでしょう。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。空き家になる予定の実家に関する相談にも応じておりますので、どうするべきか悩まれている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一