建築基準法6条1項4号に該当する、いわゆる「4号建築物」は、これまで、特例によって、建築士が設計を行なえば、大規模な修繕やリフォームを行う際の確認申請を省略できました。
しかし、2025年以降は法改正により、4号建築物自体がなくなり、4号特例の適用範囲が縮小されます。これにより、着工までにかかる時間が長くなったり、リフォームができなくなったりするなど、建築やリフォームに大きな影響が及ぶことが考えられるでしょう。
相続についても、特に再建築不可とされる4号建築物を相続する場合は、改正内容をよく理解したうえで対処する必要があります。
今回は、4号特例の概要と導入背景、2025年の法改正による4号特例の縮小による変更点、縮小される理由、一般的な建築物への影響、相続における影響などについて解説します。
4号特例とは?その概要と導入背景
まずは4号特例とはどのようなものか確認しておきましょう。
1.4号建築物とは
4号建築物とは、建築基準法6条1項4号で定義された建物のことで、主に以下のような特徴があります。
建物の構造 | 条件 |
---|---|
木造 | ・2階建て以下
・延べ面積が500㎡以下 ・高さ13mまたは軒高9m以下 |
木造以外 | ・平屋
・延べ面積が200㎡以下 |
また、劇場や映画館、病院、学校など「特殊建築物」に該当する建物は、上記の条件を満たしていたとしても含まれません。
2.4号特例とは
4号建築物を建築する際に行われる審査を緩和したものが4号特例です。この特例によって、4号建築物は、以下のような場合に自治体への建築確認申請が不要とされています。
- 建築士が設計した場合
- 設計図書通りに建物が施工されたことを建築士が確認した場合
つまり、建築士が設計したことを担保として、申請の省略が認められていたのです。
3.4号特例の適用を受けるメリット
4号特例の適用によって建築確認審査を省略できることで、以下のようなメリットがありました。
- 着工までの時間を短縮できる
- 再建築不可物件であっても、大幅な修繕やリフォームができる
4.4号特例の導入背景
4号特例は、1983年、日本の高度経済成長期に制定された特例です。この時期は、多くの建物が建設され、その分、建築確認審査も数多く申請されていた時期でした。審査のための人手が大幅に不足した結果、緩和を検討することとなり、特例が導入されたという背景があります。
2025年の法改正による4号特例の縮小で何が変わる?
2025年の法改正によって4号特例はどのように変わるのでしょうか。具体的な変更点について解説します。
1.4号建築物という分類がなくなる
まず、4号建築物という分類自体がなくなり、以下のように分けられることになります。
4号建築物の種類 | 新分類 |
---|---|
・木造2階建て
・木造平屋建てのうち延べ面積が200㎡超 |
新2号建築物 |
・木造平屋建てのうち延べ面積が200㎡以下 | 新3号建築物 |
2.建築確認・検査、審査省略制度の対象が変わる
今回の改正により、新2号建築物に該当する場合は、これまで省略されていた建築確認の検査や審査の対象となります。つまり、対象外となるのは、非木造の建物と同様、延べ面積が200㎡以下の平屋建ての場合のみになるのです。
新分類 | 建築確認・検査 | 審査省略制度 |
---|---|---|
新2号建築物 | 全ての地域で必要(大規模な修繕やリフォームの場合も含む) | 対象外 |
新3号建築物 | 都市計画区域内に建築する場合は必要 | 対象 |
3.確認申請の際に必要な提出書類が変わる
新2号建築物に該当する場合は、建築確認申請の際に必要な書類も以下のように追加されます。
【必要書類】
改正前 | ①確認申請書・図書(一部図書省略) |
---|---|
改正後 | ① 確認申請書・図書
② 構造関係規定等の図書 ③ 省エネ関連の図書 |
新3号建築物の場合、変更はありません。これまでと同様、確認申請書と図書の提出だけで足り、一部図書の省略も継続されます。
改正前に4号建築物に該当する建物の建築やリフォームなどを行なった場合は、構造関係の図書は保存しておきましょう。2025年の改正後に、新たにリフォームなどを行うことになった際に必要になるからです。改正前の構造図を確認の上、新たなリフォームの審査が行われることになるでしょう。
なぜ4号特例が縮小されるのか?
4号特例が縮小される背景として、以下のようなことが挙げられます。
1.省エネ住宅の基準の適用の全面義務化
一つは、「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」、いわゆる「建築物省エネ法」によって、省エネ基準への適合が全ての住宅に対して義務付けられるためです。
日本では、2050年にカーボンニュートラル、2030年度に温暖効果ガス46%排出削減の実現に向けて、各分野で省エネ化が進められています。住宅分野では、2025年から全ての新築住宅に対し、省エネ基準への適合が義務付けられます。
具体的には、エネルギー消費量を抑えるため、断熱材を使用したり、省エネ設備を搭載したりすることになるでしょう。その分、建物の重量が増えるため、それに耐えうるだけの安全な構造設計が求められます。
従来のように、構造図を提出する必要がなく構造計算をしないで済むようなケースがあっては、建物の安全性は確保できません。リスク回避のためにも、全ての建物について、もれなく検査や審査を行い、構造図によって安全性の確認をすることになったのです。
2.住宅のより高い安全性の確保
新たに設定される建物の安全基準で考慮されるのは、省エネ基準だけではありません。これから新築される建物には、地震や台風など自然災害に対するより高い耐性も求められます。省エネ基準の適合による重量化に耐えられるだけではなく、自然災害による倒壊被害が生じないための安全性確保を目指しているのです。
4号特例の縮小による一般的な影響
4号特例の適用範囲の縮小は、住宅の建築や売買において、どのような影響を与えることが予想されるのでしょうか。一般的な影響について解説します。
1.工期が延びる
4号建築物が新2号建築物に変更されることで、必ず建築確認審査を受けなければならなくなります。検査や審査には、ある程度の時間を要するため、これまでより着工までに時間がかかるケースもあるでしょう。
また、申請書類を省略できなくなる分、その作成や計算にも時間がかかります。新しい基準の適用によって、省エネ関連の計算なども増えるため、設計者にかかる工数が増え、負担も増えるでしょう。
着工までの工程に時間がかかる分、完成までにかかる時間はこれまでよりも伸びてしまいます。
2.住宅の売買価格や工事費用が高くなる
住宅の建築にかかるコストが高くなることも挙げられます。
これまでより設計者にかかる負担が増すこと、申請前の確認作業でこれまでより人手が必要になることなどが原因です。さらに、新しく設けられた基準に適用するために、資材や工事の追加が必要になる可能性もあります。
その結果、これまでよりも工事費用や売買価格は高くなるでしょう。
4号特例の縮小による相続への影響と対策
4号特例の縮小は、相続にも影響する場合があります。特に、建物が再建築不可物件であった場合は、その影響は無視できません。あらかじめ対策を知っておくことが望ましいでしょう。
1.再建築不可物件の場合、売却が難しい
これまでは再建築不可物件であっても、4号建築物に該当すれば、大規模な修繕やリフォームができました。4号特例によって建築確認申請を省略できたからです。
しかし、法改正後は、新2号建築物に分類される場合は確認申請が必要になります。リフォームやリノベーションの許可を得ることが難しいため、どんなに古い建物であってもそのまま使用するしかありません。そのため、老朽化していれば売却価格は大幅に下がる可能性が高いでしょう。また、買い手を見つけること自体が難しいケースもあるかもしれません。誰も住まない場合は、管理負担と固定資産税の支払い義務を負うだけの負の遺産となる可能性があるため注意が必要です。
2.再建築不可物件の場合、活用も難しい
相続した物件に誰も住まないのであれば、貸し出すなどして活用する方法があります。
しかし、再建築不可物件の場合はリフォームなどができないため、老朽化が進んだ物件であれば借り手が見つからない可能性も高いでしょう。
取り壊す際も、通常の物件よりも費用がかかりますし、土地だけにすると、住宅用地の特例が適用されなくなるため、固定資産税が最大で6倍になります。そのため、活用できないまま、コストだけがかかってしまう可能性があります。
3.相続における対策
4号建築物の相続において最も大切なことは、まず建物が再建築不可物件かどうかを確認しておくことです。あらかじめ建て替え可能な物件かどうかを把握しておくことで、相続するかどうかを適切に判断しやすくなるでしょう。
相続不動産が再建築不可かどうかは、公図や地積測量図などの書類を取得し、市町村役場に尋ねるなどすれば確認できます。遺産分割協議を行う前に、ご自身で確かめておくとよいでしょう。
また、再建築不可物件であれば、以下のような対策が考えられます。
- 相続放棄をする
- 相続して買い取りを検討する
- 隣地を買い上げて再建築可能な状態にした上で売却や活用を検討する
再建築不可物件の買い取りや活用については、専門的なノウハウを持つ不動産業者に相談しながら検討することをおすすめします。
まとめ
今回は、4号特例の概要と導入背景、2025年の法改正による4号特例の縮小による変更点、縮小される理由、一般的な建築物への影響、相続における影響などについて解説しました。
2025年4月から実施される4号特例の縮小について、相続で注意したいのは、4号建築物に該当する物件が再建築不可である場合です。売却や活用が難しく、相続してもいわゆる「負の遺産」となる可能性もあるため、事前に専門業者に相談するなどして対策を検討しておいた方がよいでしょう。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。4号建築物の相続に関する相談にも応じておりますので、お気軽にお問い合わせください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一