「田舎の農地を相続することになったけれど、農業をする予定はない場合、どうすればよいのだろう?」
「農地を相続する際の手続きは、一般的な土地と違うのだろうか?」
などと、農地の相続についてお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
特に実家から離れた場所で生活していて、今後も農業をする予定のない方にとって、農地の相続は頭を抱える問題となるかもしれません。農地だけを相続放棄することはできませんし、相続して空き地のまま放置するとさまざまなリスクを伴います。相続をするなら、処分や活用の方法を検討する必要があるでしょう。
今回は、農地を相続するメリット・デメリット、農地を相続する場合に必要な手続き、農地の相続税の計算方法と特例、農業をしない人が農地を相続した場合の選択肢、農地の相続放棄をする場合の注意点などについて解説します。
農地は相続すべき?メリットとデメリット
まずは農地を相続するメリットとデメリットについて説明します。
1.農地を相続するメリット
農地を相続する主なメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
①農業を始められる
「いつか農業に挑戦してみたい」という方にとっては、農地を相続することは、農業を始めるよい機会となります。ただし、農業を始めるには機械や用具などの設備投資が必要なほか、維持管理費もかかります。手間もかかるうえ、未経験では最初から上手くいかないことも多いため、覚悟をもって始めましょう。
②売却して利益を得られる
相続した農地を売却すれば、売却益を得られます。ただし、都市部の土地ほど需要がないことも多く、売却が難しい場合も少なくないでしょう。不動産会社に相談しながら検討することをおすすめします。
③賃貸して収益を得られる
相続した農地を農家の方に貸し出せば、賃料による収益を得られます。借り手を自分で探すのが難しい場合は、自治体や地域のJAに仲介してもらえるので、相談してみるとよいでしょう。ただし、農地の貸し出しには農業委員会への申請が必要です。また、可能であれば、宅地などに転用して貸し出すという方法もあります。
2.農地を相続するデメリット
農地を相続する主なデメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
①活用できなければ負担になるだけ
農地の活用はなかなか難しいものです。駐車場などに転用しても借り手が見つからず、当初想定していた程の収益を得られないケースもあります。上手く活用できずに、コストばかりがかかる負の財産となる可能性もあるでしょう。
②維持管理に手間がかかる
相続した農地は空き地にしておくわけにはいきません。農地が荒れると、鳥獣被害が起こる可能性が高まります。周囲に迷惑をかけないためにも、草刈りや水路のメンテナンス、害虫の駆除などを定期的に行う必要があるでしょう。維持管理にかかる手間が大きく、相続人にとって重い負担となる可能性もあります。
③処分が難しい
農地は処分が難しいケースも多いです。買い手が見つかりにくい上、農業委員会への申請も必要なので、通常の土地よりも手間がかかります。処分したくてもできずに困る可能性もあるでしょう。
農地を相続する場合に必要な手続き
農地の相続手続きは、農業委員会への申請手続きが必要な分、一般的な不動産よりも手間がかかります。ここでは農地を相続する際に必要な手続きについて説明します。
1.相続登記
不動産を相続した場合は、相続登記手続きが必要です。農地の所在地を管轄する法務局に以下の書類を提出して申請しましょう。
【必要書類】
- 登記申請書
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本類
- 被相続人の住民票除票、または戸籍附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 農地を相続する方の住民票
- 農地の固定資産評価証明書
- 遺産分割協議書または遺言書
さらに、登録免許税として固定資産税評価額の0.4%にあたる金額分の印紙を納める必要があります。
管轄の法務局は、法務局公式サイトの以下のページで調べられます。
参考URL:管轄のご案内(法務局公式サイト)
2.農業委員会へ相続の届け出
農業委員会は、農地法に基づいて農地の売買や貸借の許可などの事務を行う行政委員会です。農地を相続した際は、農業委員会へ相続開始を知った日から10ヵ月以内に届け出をしなければなりません。
届け出をし忘れた場合や、虚偽の内容で届け出をした場合は10万円以下の過料を課せられます。期間内に忘れず届け出をしましょう。届け出には、所定の届出書と相続登記済みの登記事項証明書の提出が必要です。
農業委員会は基本的に各市町村に一つ設置されていますが、中には農地が少ないために一つも設置されていない地域や、逆に農地が多いために複数設置されている地域もあります。どこに届け出をすればよいのかわからない場合は役所に問い合わせましょう。
農地の相続税の計算方法と特例
相続の際には相続税の金額も気になるでしょう。農地の相続税の計算方法と、適用できる特例について説明します。
1.相続税の控除額と基本の計算手順
相続税は、基本的に以下の手順で算出します。
- 各財産の相続税評価額を合算し、遺産総額を求める
- 遺産総額から相続税の控除額(=3,000万円+(600万円×法定相続人の数))を差し引く
- 法定相続割合によってそれぞれの相続税額を算出し、合計する
- 相続税の合計額を、各相続人が実際に相続した額に応じて分割する
2.農地の相続税評価額の算出方法は種類による
農地の相続税評価額の求め方は、農地の種類によって異なります。農地の種類とそれぞれの算出方法は以下のとおりです。
農地の種類 | 概要 | 相続税評価額算出方法 |
---|---|---|
純農地 | 生産性の高い第1種農地や甲種農地に該当する土地 | 評価倍率方式 |
中間農地 | 鉄道駅が500m以内にあるなど、市街化の区域などにある第2種農地などに該当する土地 | 評価倍率方式 |
市街地農地 | 市街化区域にある農地 | 宅地比準方式または評価倍率方式 |
市街地周辺農地 | 農地転用が認められる土地 | 市街地農地の評価額の80% |
評価倍率方式の場合、相続税評価額は以下の計算式で求めます。
農地の相続税評価額=固定資産税評価額×倍率
上記式中の倍率は、国税庁公式サイトの以下のページで調べられます。
参考URL:路線価図・評価倍率表(国税庁公式サイト)
また、宅地比準方式の場合は、以下の計算式で求めます。
農地の相続税評価額=(その農地が宅地であるとした場合の1㎡あたりの価額-1㎡あたりの造成費の価額)×地積
「その農地が宅地であるとした場合の1㎡あたりの価額」は、路線価地域であれば路線価、倍率地域の場合は当該農地に最も近接し、かつ、道路からの位置や形状が最も類似する宅地の評価額で求めます。
また、「1㎡あたりの造成費の価額」は国税庁の「路線価図・評価倍率表」のページで確認できます。市街地農地や市街地周辺農地の相続税評価額の算出は複雑なので、不明な点については専門家に相談しましょう。
3.納税猶予の特例で相続税免除の可能性も
引き続き農地として土地を利用する場合、一定の要件を満たせば、「納税猶予の特例」によって一定の相続税額の納付を猶予してもらえます。相続人が終生農業を営めば、本人が亡くなるまで相続税を納める必要はありません。
しかし、途中で農業をやめた場合や、他人に譲渡した場合は、猶予分を一括で納付しなければならないため注意しましょう。
農業をしない人が農地を相続した場合の選択肢
農業をしないにもかかわらず、農地を相続した場合はどうすればよいのでしょうか。考えられる選択肢を紹介します。
1.売却する
売却すれば維持管理の手間はかかりません。売却による利益を得られますし、使う予定がない場合はベストな方法といえるでしょう。
しかし、農地は需要が限られるため、一筋縄ではいきません。買い手が見つかりにくい上、農地委員会に売却の届け出をする必要があるなど、手続きに手間もかかります。売却を希望する場合は、専門家に相談しながら進めるのがよいでしょう。
2.転用する
農地以外に転用可能な土地であれば、転用を検討するとよいでしょう。宅地にしたり、駐車場にしたりして貸せば収益も得られますし、売却もしやすくなるでしょう。
ただし、転用の際も農地委員会での手続きが必要です。忘れず行いましょう。
3.相続土地国庫帰属制度の利用
売却も転用もできず、維持管理の手間だけかかるなら、相続土地国庫帰属制度の利用を検討するのもよいでしょう。
相続土地国庫帰属制度とは、相続によって取得した使わない土地を国に引き渡せる制度です。活用方法のない土地の処分方法として有効ではありますが、全ての土地について利用できるわけではなく、一定の要件を満たさねばなりません。また、負担金として10年分の土地管理費用相当額を納めなければならない点にも注意が必要です。
農地の相続放棄をする場合の注意点
「相続しても困るだけなら、いっそ相続放棄をしてしまおうか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、安易に相続放棄を選択することはおすすめできません。相続放棄を選択する場合の注意点について説明します。
1.農地だけの相続放棄はできない
相続放棄をすると、全ての財産についての相続権を放棄することになります。農地の相続のみを放棄することはできないので、他に相続したい財産がある場合には選択できません。相続放棄を選択するか判断する際は、他の遺産についてもよく精査のうえ検討しましょう。
また、相続放棄の手続きを行う場合は、以下のことにも注意する必要があります。
- 相続放棄の申請手続きは相続開始を知った日から3ヵ月以内に行う必要がある
- 遺産を処分したり費消したりすれば、単純承認をしたとみなされ、相続放棄はできなくなる
2.全員が相続放棄をすれば農地は国のものになる
全員が相続放棄をした場合、農地は相続財産清算手続きを経て最終的には国に帰属します。
手続き中の管理については、以前は、本来の相続人に責任があるとされていました。しかし、法改正により相続発生時点で利用していない限り、管理責任は問われないことになりました。
現在は、相続人の代わりに、裁判所によって選任された相続財産清算人が管理することになっています。ただし、相続財産清算人の選任には予納金などの費用が必要です。数十万円から100万円近く必要な場合もあるため、相続放棄を検討する際は、相続放棄後のことも含めて考えるようにしましょう。
まとめ
今回は、農地を相続するメリット・デメリット、農地を相続する場合に必要な手続き、農地の相続税の計算方法と特例、農業をしない人が農地を相続した場合の選択肢、農地の相続放棄をする場合の注意点などについて解説しました。
農地の相続は、引き続きその土地で農業をするなら、猶予の特例もあるため相続人にとって有利です。しかし、農業を行う予定がない方が相続した場合は、売却も活用も難しい可能性が高く、デメリットが大きいケースが多いでしょう。
農地の相続について不明な点や迷うことがある場合は、専門家に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。農地の相続に関する相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一