「親が亡くなり、誰も住まない実家をどうするか悩んでいる」
「親の遺産に別荘があるが、誰も利用しないし、相続したところでどうすればよいのか」
など、空き家の相続でお困りの方は多いでしょう。
相続しても負担が増えるばかりで、相続すべきなのか悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、特定の財産の相続だけを放棄することはできないため、相続放棄を選択できない場合も多いでしょう。その場合は、処分するか、何らかの形で活用するしかありません。
今回は、空き家を相続するデメリット、空き家の相続放棄、相続する場合の活用法、相続の流れ、相続における注意点などについて解説します。
空き家の相続はデメリットが多い
空き家を安易に相続してしまうと、思いのほか大変な目に遭うこともあるでしょう。「こんなに大変なら相続しなければよかった」と後悔する方もいらっしゃるかもしれません。
以下のようなデメリットも理解したうえで、慎重に検討することが大切です。
1.管理負担がかかる
空き家を相続したら、管理のために定期的に訪問しなければなりません。掃除や修繕を怠れば、あっという間に老朽化してしまうでしょう。建物の一部が壊れたり、倒壊したりして周辺住民に迷惑をかけた場合、損害賠償請求をされる可能性もあります。
しかし、遠く離れたところで生活していたり、不便な場所にあったりすれば、通うのが大変です。思いのほか労力が必要になり、大きな負担となるでしょう。
2.固定資産税がかかる
空き家を相続すると、固定資産税や都市計画税は相続人が負担しなければなりません。これらの税金は毎年発生するものであり、所有者の負担は、所有し続ける限り続きます。
また、空き家を解体すれば、課税対象は土地だけになるので税負担が減るのではないかと思われるかもしれませんが、安くなるとは限りません。上に住宅が建っていれば、固定資産税は最大で6分の1、都市計画税は最大で3分の1に減額するという特例を受けられなくなるからです。空き家を解体するかどうかは慎重に検討した方がよいでしょう。
3.放置はできない
2015年に空き家特措法が施行され、以下のような空き家は、自治体によって「特定空き家」に指定されることになりました。
- そのまま放置すると倒壊するリスクがあるなど危険な状態にある
- そのまま放置しておくと衛生上有害なおそれがある
- 著しく景観を損なっている
- 周辺の生活環境を保全するためにも放置し続けるわけにはいかない状態にある
空き家を放置して特定空き家に指定された場合、固定資産税や都市計画税の課税標準額軽減の特例を受けられず、税金が大幅に増額する可能性があります。それでも放置し続ければ、行政罰が科され、50万円以下の過料の支払いを求められることになります。
空き家を相続したくない場合は相続放棄を検討
「相続後の負担を思うと、空き家の相続は避けたい」という場合は、相続放棄を検討するとよいでしょう。相続放棄を検討する際は、以下の注意点を念頭に置きながら慎重に検討してください。
1.放棄するなら全遺産!空き家だけはできない
相続放棄は、全遺産が対象になります。特定の財産のみを対象に相続放棄をすることはできません。そのため、積極的に検討すべき場合は、以下のようなケースに限られるでしょう。
- 空き家以外に大きな遺産がない
- 債務などのマイナスの財産がプラスの財産を明らかに超過する
安易に決めると後悔する場合もあるので、遺産全体のバランスを見ながら検討することをおすすめします。判断が難しい場合は、専門家に相談しましょう。
2.相続放棄をするなら期間は3ヵ月
相続放棄をする場合は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続放棄の申述を申し立てます。この申し立てには期限があり、自分に相続権があることを知ったときから3ヵ月です。期限内に申し立てなければ、原則として受け付けてもらえないので注意しましょう。
3.一度受理されたら撤回できない!慎重に検討を
一度家庭裁判所に相続放棄が許可されると、撤回はできません。後から大きな遺産が見つかっても相続できないので、相続財産調査をしっかり行ってから判断しましょう。
空き家を相続したらどうする?5つの対処法
相続放棄ができず、空き家を相続せざるを得なかった場合は、どうすればよいのでしょうか。ここでは、5つの対処法をご紹介します。
1.売却する
売却すれば管理する労力も維持費や固定資産税などのコストもかかりません。現金化によって遺産分割もしやすくなるでしょう。
ただし、需要の乏しい地域では、売却したくてもできない可能性があります。難しい場合は買い取ってくれる専門業者を探してみるとよいかもしれません。売却よりも安い金額になるかもしれませんが、手放せる可能性が高まります。また、自治体が運営する「空き家バンク」を利用してみるのもよいでしょう。
不動産を売却すると、譲渡所得に対して譲渡所得税がかかります。
空き家を売却した場合、特例の適用によって、譲渡所得から3,000万円もの控除を受けられるため、大幅な節税効果が期待できます。ただし、この特例の対象になるのは、2016年4月1日から2027年12月31日までに売却したケースのみです。空き家を相続した場合は早めに売却を検討するとよいでしょう。
2.貸家にする
賃貸すれば、毎月家賃収入を得られます。築年数が古い建物であっても、リフォームやリノベーションをすれば問題ありません。古民家に住みたいといったニーズもあるため、大幅に改修しなくても貸し出せる場合もあるでしょう。
ただし、工事やハウスクリーニングなどの初期費用がかかる、居住に関するトラブルが発生すれば家主として対応する必要があるなどの負担も生じます。
3.解体して貸地にする
空き家を解体して駐車場などの貸地にすれば、賃料を得られます。空き家を貸し出すより初期費用も安く済むでしょう。
ただし、収益は建物の場合よりも低く、貸地上に借主が建物を建てれば、基本的に長期契約になります。なかなか返却してもらえなくなるため、専門家などに相談しながら、慎重に検討することをおすすめします。
4.相続人が住む
売却や賃貸が難しい場合は、相続人が自宅やセカンドハウスとして利用するのもよいでしょう。古くて住みにくい住宅であっても、リフォームすることで快適に暮らせることもあります。
セカンドハウスとする場合は、所在地の自治体の認定が必要です。自治体ごとに手続きや認定条件が異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。
5.寄付をする
国や自治体に寄付をするのも一つの方法です。特例の適用によって、寄付した空き家は相続税の課税対象から外すこともできます。
特例を受けるための要件や手続きについては、国税庁公式サイトの以下のページをご確認ください。
参考:No.4141 相続財産を公益法人などに寄附したとき(国税庁公式サイト)
空き家を相続する流れ
空き家を相続する場合の基本的な流れを説明します。
1.相続人全員で遺産分割協議を行う
誰が空き家を相続するかを決めるためにも、相続人全員で遺産分割協議を行いましょう。遺産分割協議は必ず相続人全員で行わねばなりません。誰か一人でも欠けた状態で決めた内容は無効になります。後になって新たに相続人が出現することのないよう、相続人調査はしっかりと行いましょう。
また、遺産分割協議で決まった内容は、遺産分割協議書を作成して記録しておきます。金融機関などでの相続手続きや相続登記の際に必要なものなので、必ず作成しましょう。
2.相続登記をする
空き家の相続人が決まったら、所在地を管轄する法務局で相続登記をします。
相続登記は、2024年4月1日より義務化が始まったため、必ず行わなければなりません。遺産分割協議成立後3年以内という期限もあるため、手続きは早めに行いましょう。
3.相続税を納付する
相続財産の評価額の合計が、相続税の基礎控除額を上回る場合は、相続税の申告、納付をしなければなりません。基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で求められます。
納付が必要な場合は、小規模宅地の特例など節税効果を期待できる制度が利用できる可能性もあります。売却の際の空き家特例との併用もできるので、適切に活用すれば、大きな節税効果が期待できるでしょう。
空き家を相続する際の注意点
空き家を相続する場合、以下のことにも注意する必要があります。
1.相続人が決まるまでの管理責任は相続権のある人全員
遺産分割協議が成立するまでの間は、空き家の所有者は相続人全員です。すなわち、相続発生から遺産分割協議成立までの間に、何らかの事故によって他人に損害を与えてしまった場合は、相続人全員の責任になります。
その間の固定資産税も全員で負担することになるので注意しましょう。
2.相続するなら相続登記は忘れずに
2024年4月1日から相続登記の義務化が始まり、遺産分割協議の成立から3年以内に相続登記の手続きをしなければならなくなりました。
正当な理由なく手続きをしないまま放置していると10万円以下の過料が科せられます。空き家を相続することになったら、速やかに相続登記の手続きを行いましょう。
まとめ
今回は、空き家を相続するデメリット、空き家の相続放棄、相続する場合の活用法、相続の流れ、相続における注意点などについて解説しました。
空き家は安易に相続すると、金銭面でも労力面でも負担を強いられることになります。相続放棄ができればよいかもしれませんが、特定の財産の相続のみを放棄することはできません。不本意ながらも相続せざるをえないケースも多いでしょう。
その場合は、売却、賃貸などいくつかの対処法がありますが、どの方法を選択するのがベストなのかは状況によって異なります。判断が難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。空き家の相続に関する相談にも応じておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一