不動産の売却によって得た利益には譲渡所得税が課税されます。不動産の売却益のことを「譲渡所得」といいますが、譲渡所得は不動産の所有期間に応じて「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に分類されます。
両者の違いは、所有期間だけではありません。譲渡所得税の税率が異なります。長期譲渡所得であれば、短期譲渡所得の半分程度の税率になるため、断然有利です。
また、不動産の譲渡所得については、節税効果の高い特例がいくつかあります。適切に活用すれば、さらに得をすることができるでしょう。
今回は、長期譲渡所得・譲渡所得とは何か、長期所得と短期所得の違い、長期譲渡所得の場合の譲渡所得税の計算手順、長期譲渡所得の税額をさらに引き下げられる特例、所有期間に関係なく適用できる特例などについて解説します。
長期譲渡所得とは?そもそも「譲渡所得」って?
長期譲渡所得とはどのようなものなのでしょうか。譲渡所得と長期譲渡所得の定義について説明します。
1.譲渡所得とは資産を譲渡して得た所得のこと
不動産をはじめ、株式や会員権などの資産を売却して売り主が得た利益のことを「譲渡所得」といいます。譲渡所得に対しては、所得税と住民税がかかり、これらの税金を「譲渡所得税」と呼びます。譲渡所得税は分離課税であり、給与所得や事業所得に対してかかる税金とは別に計算されます。
2.所有期間が5年を超える場合「長期譲渡所得」
譲渡所得は、売却した資産の所有期間に応じて「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に分類されます。長期譲渡所得とは、所有期間が5年を超える資産を売却した場合に得られた譲渡所得のことです。
長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いとは?
長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いの一つは所有期間です。しかし、納税者にとって最も大きな違いは、その税率でしょう。ここでは二つの譲渡所得の違いについて解説します。
1.資産の所有期間が違う
長期譲渡所得と短期譲渡所得では、対象の財産を所有していた期間が違います。それぞれの所有期間は以下のとおりです。
- 長期譲渡所得:売却した年の1月1日時点で所有期間が5年超
- 短期譲渡所得:売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以内
特に注意したいのは、所有期間の起点です。たとえば、2019年4月1日に購入した財産を2024年3月31日に売却したとしましょう。この場合、その所有期間を日数どおりに数えれば、満5年を経過しています。しかし、譲渡所得について考える場合は、売却した年の1月1日時点で考えるため、所有期間は4年とみなされ、短期譲渡所得に分類されます。売却のタイミングによっては思わぬ損をしてしまう可能性もあるため注意しましょう。
また、相続の場合は被相続人が取得した時を起点とします。売り主が相続人であっても、相続によって取得した日ではありません。
2.譲渡所得税にかかる税率が違う
譲渡所得税は、譲渡所得に税率をかけて求めます。税率は、長期譲渡所得と短期譲渡所得で異なり、それぞれ以下のとおりです。
所得税率 | 住民税率 | 復興特別税率 | 合計税率 | |
---|---|---|---|---|
長期譲渡所得 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
両者の税率は倍近く異なります。余分な税金を支払わないためにも、売却時期は所有期間も考慮して決めるとよいでしょう。
長期譲渡所得の場合の譲渡所得税の計算手順
譲渡所得税は以下の手順で計算します。
- 譲渡所得を計算する
- 譲渡所得に税率をかけて譲渡所得税を求める
各ステップについて詳しく解説します。
1.譲渡所得を計算する
譲渡所得は、売却によって得た金額から、購入したときの金額、売却のためにかかった費用を差し引いて求めます。計算式は以下のとおりです。
譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除
①譲渡価額とは
譲渡価額とは、物件の売却金額のことです。固定資産税や都市計画税の清算分も加算されます。
②取得費とは
取得費は、対象となる財産を取得するのにかかった費用のことです。
不動産の場合、土地であれば購入金額がそのまま取得費となりますが、建物の場合は減価償却費を考慮しなければなりません。建物は年月の経過とともに劣化し、資産価値が下がっていくものだからです。建物の取得費は以下の計算式で求めます。
建物の取得費=購入価額-減価償却費
さらに減価償却費は下記の計算式で求めます。
減価償却費=建物の購入価額×0.9×償却率×経過年数
また、償却率は建物の構造によって以下のとおり定められています。
建物の構造 | 償却率 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造 | 0.015 | |
れんが造、石造又はブロック造 | 0.018 | |
金属造
|
骨格材の肉厚4mm超 | 0.020 |
骨格材の肉厚3mm超4mm以下 | 0.025 | |
骨格材の肉厚3mm以下 | 0.036 | |
木造又は合成樹脂造 | 0.031 | |
木骨モルタル造 | 0.034 |
参考URL:「減価償却費」の計算について(国税庁公式サイト)
経過年数は、1年未満の端数については、6ヵ月以上であれば切り上げて1年として数え、6ヵ月未満であれば切り捨てて数えます。
他にも、取得費には、所有権登記費用や不動産取得税、土地の造成費用や建物取り壊し費用など購入した不動産を適切に利用するためにかかった費用を含めることが可能です。
取得費が小さくなるほど譲渡価額が大きくなるので、できる限り正確な値を算出して計上しましょう。
③譲渡費用とは
不動産を売却する際にかかった諸経費にあたるものが譲渡費用です。例として、以下の費用が挙げられます。
- 不動産業者に支払った仲介手数料
- 売買契約書に貼付した印紙代
- (建物を解体して土地のみを売却した場合)建物の解体費用
- (土地の売却のために測量した場合)測量費用
譲渡費用も小さくなるほど、譲渡所得税額が大きくなってしまう値です。可能な限り正確に計上するようにしましょう。
④特別控除
特別控除がある場合はここで差し引きます。
2.税率を用いて税額を計算する
譲渡所得税は以下の計算式で算出します。
譲渡所得税=譲渡所得×譲渡所得税率(=20.315%)
長期譲渡所得の税額をさらに安く抑えられる特例
特例が適用されると、譲渡所得税額をさらに安く抑えることができます。ここでは、長期譲渡所得の税額をさらに引き下げられる特例を3つ紹介します。
1.マイホームを売ったときの軽減税率の特例で税率がさらに低くなる
10年以上所有していたマイホームを売った場合、長期譲渡所得よりもさらに低い税率で税額を計算できます。譲渡所得税額の算出方法は、課税対象となる長期譲渡所得額によって異なり、計算式はそれぞれ以下のとおりです。
長期譲渡所得額(=譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除) | 計算式 |
6,000万円以下 | 長期譲渡所得額×10% |
6,000万円を超える | (長期譲渡所得額-6,000万円)×15%+600万円 |
ただし、長期譲渡所得に該当する全ての場合に、この特例を適用できるわけではなく、一定の要件を満たす場合に限られます。
詳しい要件については、国税庁公式サイト内の以下のページに記載されています。
また、この特例は後で紹介するマイホームを売ったときの3,000万円の特別控除とも併用できるので、ぜひ活用しましょう。
参考URL:No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例(国税庁公式サイト)
2.特定のマイホームを買い換えたときの特例で課税時期を繰り延べられる
売り主の居住期間が10年以上で、売却した年の1月1日時点で対象不動産の所有期間も10年以上である場合に適用できる特例です。マイホームを買い換えた際に、売却した不動産にかかる譲渡所得税を、一定の要件のもと、将来、買い換えた不動産を売却するタイミングまで延すことが可能です。
非課税になるわけではありませんが、買い替え時の資金面での負担が減ります。また、将来にわたって住み続ける場合は、譲渡所得税を支払う必要はありません。
この特例が適用されるための詳しい条件については、国税庁公式サイト内の以下のページをご確認ください。
参考URL:No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例(国税庁公式サイト)
3.低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除
売却した年の1月1日時点において、所有期間が5年を超え、売却金額が500万円以下の土地なら、譲渡所得額から100万円を控除できます。譲渡所得額が100万円以下の場合は、全額が控除されます。
この特例が適用されるための詳しい要件については、国税庁公式サイト内の以下のページをご覧ください。
参考URL:No.3226 低未利用土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の特別控除(国税庁公式サイト)
所有期間に関係なく適用できる特例
長期譲渡所得、短期譲渡所得のどちらの場合でも適用できる特例もあります。他の特例と併用できる場合もあるため、賢く利用して節税効果を高めましょう。
1.マイホームを売ったときの特例で3,000万円特別控除
マイホームを売却した場合、その居住、所有期間にかかわらず、最大で3,000万円の特別控除を受けられます。
ただし、この特例が適用されるためには、以下の要件を満たさなければなりません。
- 売却時期が居住しなくなってから3年後にあたる日の属する年の12月31日までであること
- マイホームを売ったときの軽減税率の特例を除く、他の特例を受けていないこと
詳しい適用要件については、国税庁公式サイト内の以下のページを参照してください。
参考URL:No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁公式サイト)
2.被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例で3,000万円特別控除
相続によって誰も住まない不動産を取得した場合に適用できる特例です。譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
ただし、この特例が適用されるのは、平成28年4月1日から令和9年12月31日までです。詳しくは国税庁公式サイト内の以下のページをご確認ください。
参考URL: No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁公式サイト)
特例の適用には確定申告が必要
特例を利用すると、多額の控除を受けられる可能性があるので、積極的に利用しましょう。しかし、確定申告をしなければ適用されません。うっかり失念して損をしないためにも、確定申告は忘れずに行うようにしてください。
まとめ
今回は、長期譲渡所得・譲渡所得とは何か、長期所得と短期所得の違い、長期譲渡所得の場合の譲渡所得税の計算手順、長期譲渡所得の税額をさらに引き下げられる特例、所有期間に関係なく適用できる特例などについて解説しました。
長期譲渡所得は、短期譲渡所得に比べて、譲渡所得税がかなり安くなります。そのため、不動産の売却を考えているなら、できる限り長期譲渡所得となるよう、時期を考えて売却する方がよいでしょう。
また、特例を活用すればさらなる節税効果が期待できますが、不動産の特例は数多く、専門知識がないと、どの特例を適用するのが適切なのかわからないこともあるでしょう。譲渡所得税で損をしないためにも、専門家に相談することをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。譲渡所得税など不動産に関わる税金に関する相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一