遺産の内容にかかわらず、相続が発生したら、最初に行うべきことは相続人の範囲の確認です。誰が相続人なのかを特定したうえで、遺産分割協議を始める必要があります。一人でも漏れた人がいれば、遺産分割協議をやり直さなければなりません。
相続人の確認は、被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類を収集して行います。
「そんな面倒なことをしなくても、親族のことだし誰が相続人かなんてわかる」と思われるかもしれませんが、思わぬところから新たな相続人の存在が判明するケースもあります。多少手間はかかりますが、必ずしっかり調査しましょう。
今回は、不動産の相続人の範囲、不動産の相続人の範囲の確認方法、法定相続人と法定相続分、遺言がある場合の不動産の相続人の範囲、不動産相続で知っておきたい注意点などについて解説します。
不動産の相続人の範囲とは?法定相続人になれる人
不動産に限らず、相続人になれる人は法律で定められています。以下のように優先順位も決められており、親族であっても必ずしも相続人になれるとは限りません。
相続順位 | 相続人 |
---|---|
第1順位 | 子どもや孫など |
第2順位 | 親や祖父母など |
第3順位 | 被相続人の兄弟姉妹 |
ここでは、相続人の範囲と相続順位について解説します。
1.配偶者は必ず相続人
被相続人の配偶者は常に相続権を有します。ただし、相続発生時点で婚姻関係にあることが必要です。既に離婚している場合、内縁関係にある場合は、相続権はありません。
2.第1順位|被相続人の子ども
被相続人の子どもや孫など「直系卑属」にあたる人が第1順位の相続人です。子どもも孫もいる場合は、相続権があるのは子どものみです。
養子も実子と同じく第1順位の相続人です。非嫡出子も同様に相続権がありますが、被相続人が認知している場合に限られます。
3.第2順位|被相続人の直系尊属
被相続人に子どもや孫がいない場合、親や祖父母などの「直系尊属」が相続権を有します。親も祖父母もいる場合は、相続人となるのは親のみです。
4.第3順位|被相続人の兄弟姉妹
第1順位の相続人も第2順位の相続人もいない場合は、兄弟姉妹が相続人になります。
5.本来の相続人が既に死亡していれば代襲相続が発生する
被相続人よりも先に死亡している人がいる場合は、代襲相続が発生します。
代襲相続とは、死亡した人の代わりに、その人よりも被相続人から遠い世代の人が相続人となることです。たとえば、子どもが被相続人よりも先に死亡していた場合、代襲相続が発生し、子どもの子ども、すなわち被相続人の孫にあたる人物が相続人になります。
6.親族でも必ずしも相続人とは限らない
被相続人の親族であっても、以下の人は、原則として相続人にはなれません。
- いとこ
- おじ、おば
- 養子縁組をしていない配偶者の連れ子
- 配偶者の兄弟姉妹や親など姻族
ただし、2019年7月1日以降は改正民法の施行によって、特別縁故者であれば遺産を取得できるようになりました。特別縁故者とは、被相続人の介護をしていた、被相続人と生計を同じくしていたなど、特別な事情がある人のことです。家庭裁判所の許可を得られた場合は遺産を請求できます。
不動産の相続人の範囲はどこまで?確認方法
相続人の範囲は、しっかりと調査して確認することが大切です。ここでは具体的な相続人調査の方法を紹介します。
1.被相続人の戸籍謄本類を取得して調査
相続人の範囲は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本類を全て収集して確認します。戸籍謄本類を見れば、被相続人の親や配偶者、子どもや兄弟など相続関係が全てわかります。
また、相続人の戸籍謄本類の取得も必要です。相続人は健在か、代襲相続が発生しないかなどを確認します。
2.戸籍謄本類の取得方法と費用
戸籍謄本類は本籍のある市区町村役場で取得します。取得にかかる手数料は以下のとおりです。
謄本の種類 | 手数料 |
---|---|
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 450円 |
改正原戸籍謄本 | 750円 |
除籍謄本(除かれた戸籍全部事項証明書) | 750円 |
遠方の場合は郵送請求もできます。その場合、手数料は定額小為替で納め、返信用封筒の同封が必要です。請求用紙はダウンロードできる場合がほとんどなので、請求先のサイトを確認してみましょう。
不動産の法定相続人と法定相続分
各相続人がどれくらいの割合の遺産を相続できるかという法定相続分は、相続人のパターンによって以下のように決まっています。
相続人のパターン | 法定相続分 |
---|---|
配偶者と子 | 配偶者:1/2
子:1/2を子の人数で分割 |
配偶者と被相続人の親 | 配偶者:2/3
親:1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:3/4
兄弟姉妹:1/4を兄弟姉妹の数で分割 |
配偶者のみ | 全て |
子のみ | 子の人数で分割 |
親のみ | 全て |
兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹の数で分割 |
1.代襲相続が発生した場合の法定相続分
代襲相続が発生した場合は、本来の相続人の相続分を代襲相続した相続人で分割します。たとえば、被相続人が父親、本来の相続人がその子であるAとBとしましょう。この場合、それぞれの法定相続分は1/2ずつです。
しかし、Aは父親が亡くなるよりも前に亡くなっており、代襲相続によってAの子であるCとDが相続人になるとします。そうなると、Aの法定相続分をCとDで分割することになり、この場合の相続分はBが1/2、CとDがそれぞれ1/4ずつとなります。
2.養子や非嫡出子の法定相続分
養子や非嫡出子でも、実子と法定相続分は変わりません。
法定相続人でも相続権のない人とは
本来であれば法定相続人であっても、以下のような場合は相続権がありません。
1.相続放棄をした人
相続放棄をすると、全ての財産についての相続権を失います。最初から相続人でなかったのと同じ状態になるため、遺産分割協議にも参加できません。
代襲相続も発生しないので、被相続人の子が相続放棄をした場合、その子(被相続人の孫)に相続権が移ることはありません。
2.相続欠格となった人
欠格とは、被相続人や他の相続人を殺害したり、被相続人を脅迫するなどして遺言書を作成させたりするなど、民法第891条に定められた事由に該当する行為をした人から、相続権を剥奪することです。欠格となった場合、本来は法定相続人だったとしても相続権はありません。
3.相続廃除された人
廃除とは、被相続人が生前に家庭裁判所に申し立てをして、法定相続人から相続権を剥奪することです。被相続人に対する虐待や侮辱、著しい非行があった場合に認められます。
ただし、廃除の対象となるのは第1順位と第2順位の相続人、つまり子どもや孫などの直系卑属と親や祖父母などの直系尊属に限られます。兄弟姉妹は対象になりません。
相続人の範囲の確認後は遺産分割協議を行う
相続人の範囲を確認した後は、相続人全員で遺産分割協議を行います。特に遺産に不動産が含まれていると、分割方法を巡りトラブルに発展するケースが多いです。スムーズに協議を進めるためにも、基本的な不動産の相続方法について知っておきましょう。
1.不動産の相続方法は4つ
不動産の基本的な相続方法は以下の4つです。
- 現物分割:そのままの形で相続する方法。(例:不動産は配偶者、子どもは預貯金など)
- 代償分割:代償金を他の相続人に支払う代わりに、特定の相続人が不動産を相続する方法
- 換価分割:不動産を売却し、その売却金を相続人で分割する方法
- 共有:法定相続分をそれぞれの持ち分として、相続人全員で共有する方法
どの方法を選択するのがベストかは、それぞれの事情によって異なります。わからない場合は専門家に相談するとよいでしょう。
遺言がある場合の不動産の相続人の範囲
遺言が残されていた場合の相続人の範囲について説明します。
1.遺言で指定された相続人が最優先される
遺言が残されていた場合、遺言書の内容が優先されます。そのため、法定相続人が不動産をはじめとする遺産を相続するとは限りません。遺言で指定された人が相続します。
遺言には法律で定められたルールがあります。そのルールに則って作成されていない場合は無効になるという点には注意しましょう。
2.自筆証書遺言の場合は検認手続きが必要
被相続人が自分で作成した「自筆証書遺言」である場合は、家庭裁判所での検認手続きを経なければなりません。遺言を見つけても、開封せずに申し立てを行いましょう。
不動産相続で知っておくべきこと
不動産相続では知っておくと得することがあります。知っておきたい事項について説明します。
1.住宅ローンの残債は節税対策として有効
相続税の課税対象となるのは、プラスの財産の総額からマイナスの財産の総額を除いた分です。そのため、住宅ローンの残債が大きいほど、課税対象となる相続財産の総額は小さくなります。評価額が1億円の不動産を相続したとしても、ローンの残債が8,000万円あれば、課税対象額は大幅に低くなり、相続税の額もかなり抑えられるでしょう。
ただし、残債はもちろん相続人が引き継がなければなりません。相続税対策のために、借り入れをして不動産の購入を考えるなら、専門業者などに相談しながら、慎重に検討する方がよいでしょう。
2.配偶者は無償で相続不動産に居住可能
相続開始時点で、被相続人の配偶者が相続対象の不動産に住んでいる場合は、配偶者居住権が認められ、そのまま無償で居住することができます。これは2020年4月1日から施行された制度で、被相続人の配偶者の生活を保護するために制定されました。
ただし、居住権を第三者に主張するためには登記が必要です。不動産の所有者と共同で申請しなければならないことに注意しましょう。
3.土地は小規模宅地の特例で大幅に減税される
土地については特例によって、その評価額を最大で8割減額できます。評価額が1億円の土地であっても、2,000万円まで引き下げられるため、大幅な減税効果が期待できるでしょう。
ただし、この特例が適用されるには相続税の申告が必要です。特例の適用によって遺産総額が基礎控除額内に収まるとしても、申告するようにしましょう。
まとめ
今回は、不動産の相続人の範囲、不動産の相続人の範囲の確認方法、法定相続人と法定相続分、遺言がある場合の不動産の相続人の範囲、不動産相続で知っておきたい注意点などについて解説しました。
相続が発生したら、まずは相続人の範囲を特定することが大切です。遺産に不動産が含まれていると、分割方法を巡りトラブルに発展することが多いので、トラブルになりそうな場合は専門家に相談することをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。不動産相続についてお悩みの方はお気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一