「遺産に不動産が含まれる場合、高額な相続税を支払わなければならないのだろうか」などと不安に思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続税は、遺産総額から基礎控除額を除いた分に対してかかります。そのため、不動産を含めた遺産総額が基礎控除額を下回る場合は、相続税を支払う必要はありません。
また、特例を適用できる場合、相続税は大幅に安くなり、相続後の処分方法によっては税金で得をする可能性もあります。
今回は、不動産を相続する際の相続税の求め方や相続税を安くする特例、不動産の生前贈与、不動産を相続した場合にかかる税金などについて解説します。
不動産を相続する際の相続税の求め方
相続税は基本的に以下の手順で求めます。
- 遺産総額を計算する
- 遺産総額から基礎控除額を引いて課税遺産総額を求める
- 各人の法定相続分に税率をかけて、各人の相続税額を算出する
遺産に不動産が含まれる場合は、遺産総額の計算方法が少々特殊です。不動産を相続する際の相続税の算出方法について説明します。
1.遺産総額を計算する
遺産総額とは、各相続財産の評価額の合計です。現金や預金はその金額がそのまま評価額となりますが、不動産の場合は以下のように求めます。
① 土地の評価額の求め方
土地の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があります。不動産の所在地が路線価の定められている地域である場合は路線価方式を、それ以外の場合は倍率方式で計算します。路線価が定められているかどうかは、以下の国税庁のサイトで確認できます。
また、それぞれの場合の評価額は下記計算式で求められます。
【路線価方式の場合】
相続税評価額=路線価×土地の面積
【倍率方式の場合】
相続税評価額=固定資産税評価額×倍率
上記計算式中の路線価や倍率も、下記国税庁のサイトで確認できます。
② 建物の評価額の求め方
建物の評価額は、固定資産税評価額です。不動産所在地の市区町村から毎年送付される課税明細書で確認できます。課税明細書が見つからない場合は、役所で固定資産課税台帳を閲覧するか固定資産評価証明書を取得すれば確認できます。
③ マンションの評価額の求め方
マンションの場合も、土地(敷地分)と建物の評価額をそれぞれに求める必要があります。評価額は以下の計算式で求めます。
- 土地(敷地分)の評価額=マンション全体の土地の評価額×敷地権割合(持ち分割合)
- 建物の評価額=固定資産税評価額×倍率(=1.0)
マンション全体の土地の評価額は、上で紹介した一般の土地の評価額の求め方と同じです。不動産の所在地域に応じて路線価方式か倍率方式で求めましょう。
また、敷地権割合とは、マンション全体の土地に対する専有部分の土地の割合のことです。売買契約書か、建物の登記事項証明書で確認できます。
2.基礎控除額を除いて課税遺産総額を求める
相続税の課税対象となる「課税遺産総額」は以下の計算式で求めます。
課税遺産総額=遺産総額-基礎控除額(=3,000万円+600万円×法定相続人の数)
ここでいう遺産総額とは、各相続財産の評価額を合計するだけでなく、負債などマイナスの財産や葬式費用、生前贈与分も加味した金額です。
上記の計算式に当てはめた結果、課税遺産総額がマイナスとなり、遺産総額が基礎控除額の範囲内であった場合は、相続税を支払う必要はありません。
3.課税遺産総額に税率をかける
各相続人の相続税の額は下記の式によって計算します。また、相続税の総額は各人の相続税額を合計して求めます。
各相続人の相続税額=課税遺産総額を法定相続分により按分した額×税率
また、税率と控除額は下の表のとおりです。
法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円以上 | 55% | 7,200万円 |
特例を活用すれば相続税は安くなる
特例が適用できる場合、相続税を大幅に減税できます。不動産の相続で適用できる可能性のある主な特例を紹介します。
1.小規模宅地等の特例
「小規模宅地等の特例」が適用されると、土地の評価額を最大で80%も減額できます。評価額が4,000万円の土地なら、800万円として計算できることとなり、非常にお得です。
ただし、この特例が適用されるには、以下のような要件を満たす必要があります。
- その土地が故人の自宅のある土地であり、かつその面積が330㎡以内であること
- 故人と同居していた法定相続人がその家を相続し、かつ相続税の申告期限まで住み続けること
上記のほかにもさまざまな要件があるため、適用可能かどうか知りたい場合は、専門家に相談するとよいでしょう。
2.配偶者の税額の軽減
相続人が配偶者の場合、相続額が1億6,000万円以内であれば、相続税はかかりません。そのため、不動産の評価額が高額であったとしても、相続税を課税されない可能性もあるでしょう。
配偶者以外の相続人には相続税がかかるため、この制度を賢く利用して遺産を分配すれば効果的に節税できる可能性があります。
相続不動産の税金で得するには
相続した不動産の取得を希望する人がいない場合、売却することをおすすめします。売却時に適用される特例によって税金で得をする可能性があるからです。
1.取得費加算の特例により売却時の譲渡所得税を節税する
相続時に限らず、不動産を売却すると、通常は譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、不動産の売却によって得た利益、すなわち下記計算式で求められる譲渡所得に対してかかる税金のことです。
譲渡所得=売却金額-不動産取得費-譲渡費用
相続時には、上記式中の「不動産取得費」に相続税のうちの一定金額を加算できる「相続税の取得費加算」の特例が適用されます。税金の対象となる譲渡所得の値が小さくなるため、節税につながります。
2.空き家を売却すれば特例で3,000万円控除が受けられる
相続時に取得した不動産が、被相続人が一人で住んでいた物件であり、現在は空き家となっている場合、売却すれば、特例によって譲渡所得から最大で3,000万円の控除を受けられます。この特例は、家屋だけでなく、対象となる建物の敷地にも適用可能です。
ただし、特例の適用期間が定められており、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売却した場合に限られます。
不動産の生前贈与は相続税の節税になるか?
「相続税の節税につながるなら」と、不動産の生前贈与を考えている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、不動産の生前贈与は必ずしも節税につながるとは限りません。
ここでは不動産の生前贈与と相続税について説明します。
1.相続税の基礎控除内なら非課税
不動産の評価額を含めた相続財産の総額が、相続税の基礎控除内に収まるなら、相続税はかかりません。そのため、相続税の節税につながるかどうかだけを考えるなら、相続でも問題ないでしょう。
2.不動産の生前贈与は節税対策になる?
不動産の生前贈与が相続税の節税につながるかどうかは、贈与の方法や対象不動産の価値の変動具合などによって異なります。
贈与税には以下の2つの制度があり、どちらを利用するかでその贈与方法が変わります。
- 暦年課税:1人あたり年間110万円という基礎控除額を超えた分にのみ贈与税がかかる
- 相続時精算課税制度:子や孫への贈与について最大2,500万円まで贈与税は非課税となるが、相続時には相続税の対象となる
暦年課税制度を上手に活用して贈与すれば、贈与税と相続税の節税を実現できるでしょう。
しかし、毎回贈与契約を締結しなければならなかったり、贈与に伴う登記内容の変更手続きが必要となったりするなど、自分で行うのは難しい場合も多いです。
一方、相続時精算課税制度を利用しても、相続時に持ち戻しとなってしまうため、相続税の節税にはつながりません。しかし、持ち戻し時に相続財産に加算する不動産の評価額は贈与時点のものとなるため、将来的に不動産の価値が上がると見込まれる場合は節税効果が期待できるでしょう。
また、収益不動産については生前贈与が相続税の節税につながる可能性が高いといえます。不動産による収益が相続財産に含まれるため、早く譲渡した方が相続財産の総額が増えないからです。
参考記事:不動産の生前贈与のメリットとデメリット・相続よりも得になるケースは?
3.不動産の生前贈与をするメリット
不動産を生前贈与するメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 対象不動産を譲りたい人に譲れる
- 相続トラブルの防止につながる
- 贈与時期を選べる
生前贈与をすれば、譲りたい人に対象不動産を確実に渡せます。特にどうしても譲りたい人がいる場合、その人が取得するのを自分で確認できるので安心でしょう。
また、あらかじめ譲渡する人を決めておけば、相続が発生したときに遺産分割協議で相続人同士が揉めるなどのトラブルが起きる心配もありません。
さらに、好きな時期に贈与できる点も大きなメリットです。「子どもが結婚するタイミングで」「孫の進学で大変なときに」など、相手の状況を見ながら喜ばれそうなときに贈ることもできるでしょう。
不動産を相続した場合にかかる税金とは
不動産を相続すると、以下のような税金がかかります。
1.相続不動産を登記する際にかかる税金
不動産を相続すると、相続登記をしなければなりません。その際には「登録免許税」という税金がかかります。登録免許税の金額は以下の計算式で算出します。
登録免許税=固定資産税評価額×0.4%
2.相続不動産を所有する場合にかかる税金
相続した不動産に住むなどして、相続人が所有を続ける場合は、「固定資産税」や「都市計画税」がかかります。これらは土地や家屋に対してかかる税金で、居住しているかどうかにかかわらず、所有し続ける限り毎年発生します。
3.相続不動産を売却する場合にかかる税金
相続した不動産を売却する際には、売却によって得た利益に対して譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、具体的には所得税と住民税のことです。
まとめ
今回は、不動産を相続する際の相続税の求め方や相続税を安くする特例について、相続不動産の税金で得するにはどうすべきか、不動産の生前贈与は相続税の節税になるのか、不動産を相続した場合にかかる税金などについて解説しました。
不動産の相続税額を知るためには、まずは遺産総額を求めなければなりません。不動産の場合は、その評価額を算出することとなりますが、その方法は慣れない方には少々複雑です。専門家に確認しながら進める方がよいでしょう。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。「相続した不動産の評価額を知りたい」「不動産相続の節税方法について詳しく知りたい」などという相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一