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2024.03.18

認知症の相続人がいる場合の不動産相続の注意点と対処法を解説

認知症の相続人がいる場合の不動産相続の注意点と対処法を解説

身近な方が亡くなり、相続が発生したけれど、相続人の中に認知症の方がいるためにどうすればよいのかわからず、お困りの方もいらっしゃるでしょう。特に、遺産に不動産が含まれる場合は、全員の同意がなければ処分できないため、問題になることが多いです。

この記事では、認知症の相続人がいる場合の不動産相続における問題点、不動産相続の方法と注意点などについて解説します。相続人の中に認知症の方がいてお困りの方は、ぜひ参考にしてください。

認知症の相続人がいる場合の不動産相続の問題点

まずは、不動産相続において、相続人の中に認知症の方がいると、どのような問題があるのかを理解しておきましょう。

1.相続した不動産の売却ができない

遺産の中に不動産が含まれていた場合、認知症の相続人以外の相続人全員が不動産の売却を希望したとしても、売却することができません。不動産の売却には所有者全員の同意が必要だからです。共有者の中に認知症で意思能力が不十分な方がいた場合、その人から同意を得られないので、他の相続人が不動産の売却を希望していても売却できないのです。

2.遺産分割協議書の作成ができない

亡くなった被相続人が遺書を残していない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決めることになります。遺産分割協議で決まった内容は、遺産分割協議書に記載します。遺産分割協議書は、不動産登記や預金の相続手続きなどの際に必要な書類であり、相続人全員の署名と捺印がなければ完成しません。そのため、認知症の方が自分で署名、捺印ができなければ作成できないのです。

親族による代筆は認められておらず、代筆が発覚した場合、無効になります。私文書偽造の罪に問われる可能性もあるので、安易に行わないようにしましょう。

3.認知症であることを隠すことは危険

相続人が認知症であることを隠したとしても、どこかのタイミングで発覚する可能性が高いでしょう。具体的には以下のような場合に発覚します。

  • 預金の相続手続きの際の金融機関担当者による確認
  • 相続登記手続きの際の法務局担当者による確認
  • 専門家などへの相談

4.相続放棄や限定承認もできない

認知症で判断力が低下すると意思表示が困難になるため、相続放棄や限定承認もできません。特に限定承認は相続人全員で申し立てる必要があるため、他の相続人も限定承認を選択できなくなります。

認知症の相続人がいる場合の不動産相続の方法

相続人に認知症の方がいる場合、どのように相続の手続きを進めればよいのでしょうか。認知症の方がいる場合の適切な相続の方法を紹介します。

1.遺言書がある場合はそのとおりに相続

亡くなった方が遺言書を残していれば、その内容が優先されます。不動産についても遺言どおりに相続しましょう。

2.法定相続分どおりの持ち分で共有する

法定相続分どおりに相続すれば、遺産分割協議を行う必要はありません。この場合、不動産については法定相続分どおりの持ち分で共有します。

遺言書が残されていない場合、この方法が一番スムーズだと思われるかもしれませんが、不動産を共有することはあまりおすすめできません。売却したり賃貸物件にしたりするなど、何らかの処分をする際は共有者全員の同意が必要となるため、将来、「処分したいのにできない」という問題に直面する可能性があるからです。

3.成年後見人を選任して遺産分割協議を行う

遺書が残されておらず法定相続分どおりではない相続をしたい場合、遺産分割協議を行う必要があります。認知症の相続人がいる場合、成年後見制度を利用すれば。本人に代わって後見人が遺産分割協議に参加できるので、相続手続きを進められます。

ただし、元々後見人が付いており、さらに後見人も相続人である場合は、本人と利益相反の関係になってしまいます。そのため、遺産分割協議を行う際は、家庭裁判所に申し立てをして特別代理人を選任する必要があります。裁判所に申し立てる方法については裁判所公式サイト内の以下のページを参考にしてください。

参考URL: 特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)(裁判所公式サイト)

認知症の相続人がいる場合の不動産相続の注意点

相続人の中に認知症の方がいる不動産相続では、以下の点に注意する必要があります。

1.成年後見制度にはデメリットもある

後見人を選任すれば、認知症の方がいても、遺産分割協議を行うことができます。しかし、成年後見制度には以下のようなデメリットがあるので注意しましょう。

①親族は後見人に選任されにくい

成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。

この2種類の制度の大きな違いは、後見人を選任するタイミングで、以下のように異なります。

  • 法定後見:本人の判断能力が低下してから申し立てをする
  • 任意後見:まだ判断能力が十分にある時期に将来に備えて、後見契約を締結し、判断能力が低下してから開始する

任意後見であれば、自分で後見人を選べますが、法定後見であれば家庭裁判所が選任するため、必ずしも親族が後見人になれるとは限りません。

裁判所が公表している「成年後見関係事件の概況」によると、令和4年に申し立てられたうち、親族が後見人として選任されたケースは全体の2割に達しませんでした。司法書士や弁護士などの専門家が選任されるケースがほとんどなのが実情です。

参考URL:成年後見関係事件の概況 ―令和4年1月~12月―(最高裁判所事務総局家庭局公式サイト

②認知症の相続人が亡くなるまで報酬を支払わねばならない

後見人には月額2万~6万円程度の報酬を支払わなければなりません。

一度選任された後見人は、被後見人が亡くなるまで後見人に就任し続けるため、金銭的な負担も続きます。

③遺産分割協議がスムーズに進むとは限らない

後見人は被後見人の代理人であるため、遺産分割協議では、被後見人の利益を最優先にします。そのため、融通がきかず、協議がスムーズに進まない可能性もあるでしょう。

2.認知症の相続人が相続した場合は管理の問題がある

不動産は相続の手続きが完了した後も、定期的な管理やメンテナンスを行う必要があります。そのため、認知症の方が不動産を相続すると、適切に管理ができず、荒廃させてしまい、周辺に迷惑をかけるおそれもあるでしょう。他の方が十分にサポートする必要があります。

3.相続しないまま放置はできない

「遺産分割協議はできないし、法定相続分どおりに相続するのは問題があるなら、認知症の相続人が亡くなるまで待てばよいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながらそれはできません。

遺産分割協議が終わるまでは、遺産は相続人全員の共有財産であり、相続人全員が管理責任を負います。特に遺産の中に含まれる不動産が空き家や空き地である場合、荒廃させて周辺に迷惑をかけると責任を問われます。崩落などによって、通行人に怪我をさせた場合、損害賠償請求をされる可能性もあるでしょう。

さらに、2024年4月からは相続登記が義務化されます相続発生から3年以内に相続登記をしなければ、10万円以下の過料を科せられるため、速やかに相続登記をすることが望ましいでしょう。

認知症の相続人の意思能力の判断基準

一口に「認知症」といっても、さまざまな程度があります。軽度であれば、意思能力があるため、遺産分割協議への参加や相続放棄などの法的手続きへの同意もできます。そのため、どの程度の症状であれば成年後見制度の利用を検討すべきか判断に迷うこともあるでしょう。

しかし、後見人の選任が必要かどうかについての明確な基準はないため、医師による診断を踏まえて個別に判断するしかありません。

認知症の相続人がいる場合の不動産相続についてよくある質問

相続人の中に認知症の方がいる場合、判断に迷うことも多いでしょう。ここではよくある質問とその回答を紹介します。

1.軽い認知症でも成年後見人を選任しなければなりませんか?

認知症を発症していても程度が軽く、本人に意思能力があることが認められる場合は、成年後見人を選任する必要はありません。

その判断は、金融機関や法務局など、手続きを行う機関が行いますが、明確な基準はありません。医師の診断がある程度の指針となるため、あらかじめ診断書を取得しておくとよいでしょう。

2.一人しかいない相続人が認知症の場合、成年後見人の選任は不要でしょうか?

一人しか相続人がおらず、遺産分割の必要がなくても、本人に意思能力が十分にない場合、成年後見人を選任する必要があります。遺産分割の必要がなくても、金融機関や法務局での相続手続きは必要であり、相続手続きは本人が行うのが原則だからです。

相続人の子どもなどが代理人として手続きを進めようとされるケースも多くありますが、本人に意思能力がなければ、委任行為も認められないため、成年後見人を選任する必要があります。

3.認知症の人がいる場合、生前にできる相続対策はありますか?

以下のような対策が有効でしょう。

  • 遺言書を作成しておく
  • 生前贈与をする
  • 家族信託を利用する

これらの方法であれば、生前に遺産の承継先を決めておけるため、相続が発生しても遺産分割を行う必要がありません。生前に適切な対策をしておけば、認知症の相続人がいても、スムーズに相続手続きを進められるでしょう。

まとめ

この記事では、認知症の相続人がいる場合の不動産相続における問題点、不動産相続の方法と注意点などについて解説しました。

相続人の中に認知症の方がいる場合の不動産相続では、さまざまな問題が生じます。成年後見人を選任すれば、解決できるものがほとんどではありますが、後見人の選任には大きなデメリットもあります。被相続人となる方が、生前に対策をしておくのが望ましいといえるでしょう。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談にお答えしております。認知症の相続人がいる場合の相談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一