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2023.08.04

不動産は相続前に売却すべき?メリット・デメリットを解説

不動産は相続前に売却すべき?メリット・デメリットを解説

遺産に不動産が含まれていると相続人の間でトラブルが発生する可能性が高いという話を聞き、相続が発生する前に不動産を売却するべきか迷っているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

たしかに相続争いを避けることを重視する場合は相続前に売却することが望ましいといえます。しかし、節税対策を考えた場合は、相続後の売却の方が有利です。

今回は、不動産は相続前と相続後のどちらに売却すべきか、相続前と相続後に売却した場合のメリット・デメリット、売却する際の流れなどについて解説します。

不動産は相続前と相続後のどちらに売却すべきか

相続予定の不動産を売却するのにベストなタイミングは、何を優先するかによって異なります。基本的には以下のように考えておくとよいでしょう。

【相続前に売却した方がよいケース】

・不動産の相続を巡り相続人の間で争いが起きることが予想される場合

・所有者本人の老後資金が必要な場合

【相続後に売却した方がよいケース】

・できる限り節税したい場合

・所有者本人が売却を望まない場合

不動産を相続前に売却するメリット

相続発生前に不動産を売却するメリットとしては以下のようなことが挙げられます。

1.相続争いを回避できる

相続発生前に不動産を売却することの最も大きなメリットは、相続発生後に相続人の間で争いが起きるのを避けられるという点です。「兄弟姉妹の仲は悪くないし、大丈夫だろう」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、油断は禁物です。

最高裁判所が毎年発表している司法統計によると、2019年に申し立てのあった遺産分割事件数は約11,000件でした。同年の国内での死亡者数は、厚生労働省の発表によると約136万人ということなので、単純に計算すると死亡者のおよそ1%、つまり100人に1人程度の割合で、遺産分割協議がまとまらなかったことになります。相続争いは決して他人事ではないのです。

2.被相続人の老後資金に充てられる

不動産を売却すれば、まとまった資金が手に入ります。相続前であれば、売却資金は当然、不動産所有者本人の財産です。手に入った資金を介護施設の入居費用に充てるのも有効な使い道であり、相続前に不動産を売却するメリットといえるでしょう。

3.3,000万円特別控除の特例を適用できる

相続発生前に不動産を売却すれば、「マイホームを売ったときの特例」によって、売却時の譲渡所得から3,000万円までの特別控除を受けられます。

不動産を売却すると、その売却額から不動産の取得費と売却にかかった費用を控除した額に対して、譲渡所得税がかかります。この課税対象部分から、3,000万円を控除できるため、かなりの節税効果を期待できるでしょう。

ただし、特例が適用されるには、親族間での売却ではないことなど、いくつかの要件を満たす必要があります。利用する際は国税庁公式サイトの以下のページで確認しましょう。

参考:No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁公式サイト)

4.所有期間が長ければ軽減税率が適用される

10年以上マイホームとした不動産である場合は、相続前に所有者本人名義で売却すれば、特例によって長期譲渡所得の税額を、通常よりも軽減された税率で算出してもらえます。

長期譲渡所得とは、譲渡所得の一つであり、当該不動産を5年以上所有している場合に区分されるものです。所有期間が5年以下の場合である短期譲渡所得よりも、譲渡所得税の税率が低く設定されています。

10年以上マイホームを所有する場合で、特例の要件を満たせば、通常の長期譲渡所得の税率よりもさらに低い税率となるため、得をする可能性があります。

特例が適用される要件については、国税庁公式サイトの以下のページでご確認ください。

参考:No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例(国税庁公式サイト)

不動産を相続前に売却するデメリット

相続発生前に不動産を売却するデメリットとして、以下のようなことが挙げられます。

1.相続後であれば使える特例を使えない

相続発生前に不動産を売却した場合、当然ですが相続不動産に適用できる特例は使えません。相続後の売却に適用できる特例には節税効果の高いものも多いため、税金については損をする可能性があるでしょう。

2.売却後、本人の住居の家賃がかかる可能性がある

マイホームを売却した場合、所有者本人が別に住居を借りて住むなら、家賃が発生します。亡くなるまで家賃を払い続けることになるため、今後の費用の目途が立たず、経済的に困ることもあるかもしれません。

不動産を相続後に売却するメリット

所有者が亡くなった後に不動産を売却する場合、以下のようなメリットがあります。

1.相続財産の総額を抑えられるので節税につながる

相続税の課税対象額を算出する際に使用する不動産の評価額は、時価ではありません。土地の場合は路線価、建物の場合は固定資産税評価額であり、これらの価格は時価よりも低い場合がほとんどです。一方、現金の場合は、そのままの額が評価額になります。

そのため、不動産は売却して換価するより、現物で相続する方が相続税の課税対象額が小さくなり、節税につながる可能性が高いのです。

2.売却時に譲渡所得の特別控除の特例を使える

相続税の申告期限である相続開始から10ヵ月後の翌日から3年以内に、不動産を売却すれば、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」が適用できる可能性があります。これは、不動産を売却して得た譲渡所得を求める際に、不動産の売却価格から相続税分も控除できるために、譲渡所得税を節税できるというものです。計算式にすると以下のようになります。

【通常の譲渡所得の計算式】

譲渡所得=不動産の売却価格-取得費-売却にかかった費用

【特例が適用された場合の計算式】

譲渡所得=不動産の売却価格-取得費-売却にかかった費用-相続税の一部

特例の適用要件については国税庁公式サイトの以下のページで確認してください。

参考:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(国税庁公式サイト)

3.空き家の場合は空き家特例の利用が可能

被相続人が一人で暮らしていた物件で、相続発生後、誰も住まない空き家になっているなら、売却によって空き家特例が適用される可能性があります。この特例が適用された場合、譲渡所得から最大で3,000万円の控除を受けられるため、大きな節税効果が期待できます。

特例の適用要件については国税庁公式サイトの以下のページで確認してください。

参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁公式サイト)

不動産を相続後に売却するデメリット

相続発生後に不動産を売却する場合、以下のようなデメリットもあります。

1.相続人同士で意見がまとまらず売却できない可能性がある

不動産の売却は、原則として遺産分割協議終了後にしかできません。しかし、遺産分割協議がスムーズに進まないケースも多く、不動産の相続人が決まらないために、なかなか売却できない可能性もあるでしょう。

また、相続人が決まらないからという理由で安易に相続人全員での共有名義にしてしまうと将来トラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。共有名義の物件を売却する際は共有者全員の同意が必要なので、一人でも反対すれば売却できません。処分したくても処分ができないまま、共有者が死亡して相続が発生し、さらに共有者が増える可能性もあります。

2.相続税の納税資金に充てる場合相場より安くしか売れないことも

相続税の申告と納税までの期間は、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月しかありません。相続税の納税資金が足りないために、不動産を売却する場合、買取業者との交渉に十分な時間を取れない可能性があります。その結果、相場よりも安い価格で売却せざるを得ないこともあるでしょう。

不動産を相続前に売却する際の流れ

相続発生前に不動産を売る場合の流れは、通常の不動産売買の場合と同じです。基本的に以下のような流れで進めることになります。

  1. 不動産会社に査定を依頼する
  2. 不動産会社と媒介契約を締結する
  3. 不動産会社による売却活動
  4. 買主が決まったら、売買契約を締結する
  5. 不動産の引き渡しをする
  6. 確定申告をする

不動産の売却にかかる期間は、一般的に3ヵ月から半年程度です。

不動産を相続後に売却する際の流れ

被相続人が亡くなった後に、不動産を売却する場合は、売却前に不動産の名義変更である相続登記手続きが必要です。確定申告も忘れないようにしましょう。

1.売却前に相続登記手続き

相続した不動産を売却する前には、必ず相続登記手続きをして名義変更をする必要があります。相続登記手続きは以下の流れで進めます。

  1. 申請に必要な書類を準備する
  2. 対象不動産の所在地を管轄する法務局に書類を提出して申請する
  3. 法務局による審査
  4. 登記識別情報通知を受け取る

相続登記の申請に必要な主な書類は以下のとおりです。

  • 登記申請書
  • 収入印紙(登録免許税分。「固定資産税評価額×4%」で計算)
  • 被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本類
  • 被相続人の住民票除票
  • 対象不動産を相続する人の住民票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 対象不動産の固定資産税評価証明書
  • (遺産分割による相続の場合)遺産分割協議書・相続人の印鑑証明書
  • (遺言による相続の場合)遺言書

管轄先の法務局は、法務局公式サイトの以下のページで確認できます。

参考:管轄のご案内(法務局公式サイト)

2.不動産を売却

相続登記が完了したら不動産を売却します。売却手順は、相続発生前の手順と基本的に同じです。

3.確定申告も忘れずに

不動産を売却したら、売却時期に関わらず必ず確定申告をする必要があります。確定申告の期間は、2月15日から3月16日の間です。不動産を売却した翌年は忘れずに行いましょう。

まとめ

今回は、不動産は相続前と相続後ではどちらのタイミングで売却するのがよいか、不動産を相続前に売却するメリット・デメリット、不動産を相続後に売却するメリット・デメリット、不動産を相続前に売却する際の流れ、不動産を相続後に売却する際の流れなどについて解説しました。

不動産を売却するのにベストなタイミングは、何を優先するかによって異なります。判断が難しい場合は、専門家に相談することをおすすめします。適用できる特例や、遺産分割についてのアドバイスを受けることで、適切な判断ができるでしょう。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。「不動産を売却するベストなタイミングがわからない」などという相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一