被相続人の生前から、実家に兄弟姉妹や被相続人の配偶者が住んでいる場合、相続発生後にその居住権がどうなるのか気になる方も多いでしょう。
実家に住んでいる方は、相続によって突然追い出されては困ります。しかし、実家も遺産分割の対象です。元々住んでいたからという理由だけで、特定の相続人が独占してしまうと、他の相続人から不満が生じるでしょう。特に大きな遺産が実家だけである場合は、争いが起きる可能性もあります。
無用な揉めごとを避けるためにも、適切な実家の相続方法と居住権について正しく理解しておくことが大切です。
今回は、実家の相続方法、兄弟姉妹が住む実家の相続と居住権、兄弟姉妹が住む実家の相続における注意点、配偶者居住権などについて解説します。
特定の相続人が居住する実家の遺産分割を行う予定のある方は、ぜひ参考にしてください。
実家の相続方法は4つ
まずは、実家を相続する場合の分割方法について知っておきましょう。不動産を相続する方法には、以下の4つがあります。
1.現物分割|そのままの形で相続
現物分割は、実家をそのままの形で相続する方法です。現物分割のメリットとデメリットは以下のとおりです。
メリット | ・わかりやすく、手続きが簡単
・評価額を算出する必要がない |
デメリット | ・公平に分割することが難しいため、相続人の間で争いが起きやすい
・土地の場合は分筆できるが、価値が下がることがある |
以下のようなケースであれば、現物分割が向いているといえるでしょう。
・特定の相続人に遺産を集中して相続させたい
・遺産に複数の不動産がある
・不動産の他にも遺産がある
・他の相続人の理解を得やすい
兄弟姉妹や被相続人の配偶者が居住している場合も、他の相続人が納得しているなら、現物分割を選択するとよいでしょう。
2.代償分割|代償金を支払って特定の相続人が取得
代償分割は、特定の相続人が不動産を相続する代わりに、他の相続人には代償金を支払う方法です。代償分割には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット | ・平等な遺産分割を実現しやすい
・居住中の人がそのまま取得できるのでスムーズ ・「小規模宅地の特例」の適用によって節税効果が期待できる |
デメリット | ・代償金を支払えなければ実現できない
・代償金額を決める際に相続人の間で争いになる可能性がある ・贈与税や所得税が発生する可能性がある |
代償分割は、特定の相続人が実家に居住している場合に、選択されることが多い分割方法です。しかし、不動産を相続する相続人に代償金を支払える資力がなければ選択できません。また、代償金の額についても相続人の間で争いが起きやすいので、専門家に相談しながら進めることが望ましいでしょう。
3.換価分割|売却して売却代金を分割
換価分割は、不動産を売却して、その売却金を相続人で分割する方法です。換価分割には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット | ・公平な遺産分割を実現しやすい
・売却代金で相続税を支払える |
デメリット | ・不動産を手放さなければならない
・希望価格で売却できるとは限らない ・譲渡所得税がかかる |
遺産分割における平等性を実現しやすいというメリットはありますが、不動産を手放すことになるため、実家に住み続けたい方がいる場合には向かないでしょう。
4.共有|相続人全員の名義にする
共有は、不動産を複数の相続人で所有する方法です。不動産を共有するメリット、デメリットは以下のとおりです。
メリット | ・公平な相続を実現しやすい
・収益不動産の場合、その収益も公平に分割できる |
デメリット | ・売却などの処分が難しくなる
・下の世代の相続になった場合に権利関係が複雑化しやすい |
実家を相続人全員の共有名義とすれば、元々実家に住んでいた相続人にも居住権があります。他の相続人の同意を得ることができれば、今までどおり住み続けられます。
兄弟姉妹が住む実家の相続と居住権
実家に兄弟姉妹が住んでいた場合の相続の方法や居住権について説明します。
1.実家以外に遺産がある場合
実家以外にも不動産や他の財産がある場合は、現物分割ができる可能性があります。他の相続人は実家以外の不動産や財産を相続し、現在住んでいる方が実家を相続すれば、そのまま住み続けられます。
2.実家以外にほとんど遺産がない場合
実家の他に遺産がほとんどなく、現在居住している方が単独で相続すれば大きな不公平が生じる場合、代償分割を選択することになるでしょう。実家を相続する人が、他の相続人に代償金を支払えば、居住権も獲得できます。
兄弟姉妹が住む実家の相続における注意点
兄弟姉妹が既に実家に住んでおり、居住権を主張する場合、以下のことに注意しましょう。
1.実家の売却には相続人全員の同意が必要
相続不動産の売却には、相続人全員の同意が必要です。そのため、実家に住んでいる相続人が反対する場合、売却することはできません。
代償金を支払えないにもかかわらず相続や居住権を主張し、売却に反対する場合は、家庭裁判所に調停を申し立てましょう。調停とは、裁判所の仲介によって、当事者同士でもう一度話し合いをする手続きです。調停が不成立となれば、審判手続きに移行し、裁判所が判断を下します。手続き終了後に裁判所から交付される調停調書や審判書があれば、強制執行手続きを行うことが可能で、競売によって実家を売却できます。
2.共有は避けたほうがよい
実家を共有するのはできる限り避けることが望ましいです。その理由は主に二つあります。
一つは、不動産を共有すると、売却などの処分が所有者全員の同意なしではできないからです。将来的に売却しようとしても、一人でも反対する人がいれば、いつまで経っても処分できません。
もう一つの理由は、下の世代の相続では相続人が増える分、共有者の数も増え、権利関係が複雑化するからです。疎遠になって連絡が取れない相続人が出てくる可能性もあるでしょう。
3.代償金を分割払いする場合は滞納に注意
実家の相続を希望する人に代償金を支払う資力がなければ、分割払いで支払うことを提案される可能性があるでしょう。その際に注意したいのは、その方に完済できるだけの支払い能力があるのか、支払う意思はあるのかという点です。遺産分割協議書に、適切な文言を盛り込んでおけば、強制執行もできますが、本人に資力がなければ回収できません。
代償金を分割払いにする場合は、滞納リスクがあることも考慮しながら、相続人同士でよく話し合いましょう。
4.実家の家賃の支払い義務はない
被相続人が亡くなってから、遺産分割協議が成立するまでの間の家賃の支払い義務はありません。これは、遺産分割協議成立までは、被相続人との生前の合意により、他の相続人を貸主として、無償で居住できる契約をしていたとみなした最高裁の判例によります。
元々実家で同居していた相続人は、他の相続人から家賃を請求されても、遺産分割協議が成立するまでは支払いを拒否できるのです。
配偶者が実家にそのまま住める配偶者居住権とは
2020年4月の法改正により、新たに設けられたのが「配偶者居住権」という制度です。この制度の新設によって、配偶者は被相続人と元々住んでいた家に、相続発生後もそのまま住み続けられることになりました。
ここでは、配偶者居住権について詳しく解説します。
1.配偶者は無償で住み続けられる
この制度の大きな特徴の一つは、所有権と居住権を別に考えることです。遺産分割協議によって、他の相続人が実家を相続することになっても、配偶者は無償で住み続けられます。その期間は原則として終身です。
2.配偶者保護のために新設された権利
配偶者居住権が創設された背景には、被相続人が亡くなった後の配偶者の生活を保護する必要が高まったことがあります。日本人の平均寿命は年々延び、配偶者亡き後、残された方が一人で暮らす時間が長くなりました。従来どおりの遺産分割では、配偶者が実家を相続したために、預金などの現金をほとんど相続できなかったり、代償分割によって多額の資金を支払わざるをえなかったりするなど、生活が苦しくなるようなケースも少なくありませんでした。
配偶者居住権を利用すれば、配偶者が預金などの生活資金を相続しながら、実家に住み続けることができます。他の相続人との平等性を確保しながら、残された配偶者の生活も保護できるようになったのです。
3.配偶者居住権の取得方法
配偶者居住権は自動的に付与されるものではありません。以下の方法で取得する必要があります。
- 遺産分割協議や家庭裁判所での調停手続き
- 遺言による遺贈
- 死因贈与契約書の存在する贈与
- 家庭裁判所の審判
4.配偶者居住権は登記が必要
配偶者居住権を第三者に主張するためには、登記が必要です。登記手続きは、権利者である配偶者と、所有者である実家の相続人と共同で行う必要があります。
また、配偶者居住権の登記ができるのは建物のみです。土地の登記はできませんので注意しましょう。
5.配偶者居住権を活用するのがおすすめのケース
以下のようなケースでは、配偶者居住権を活用するとよいでしょう。
- 配偶者が実家に住み続けたい場合
- 遺産が実家以外にほとんどない場合
- 配偶者に生活資金を確保させたい場合
6.6カ月間は配偶者短期居住権により無償で住める
配偶者短期居住権とは、遺産分割協議が成立するまでの間か、相続発生から6カ月間かどちらか長い方の期間、それまで住んでいた家に無償で住み続けられる権利です。配偶者居住権と異なり、相続が発生すれば自動的に付与されます。相続発生後に、被相続人名義の家だからと、直ちに追い出されることはないのです。
まとめ
今回は、実家の相続方法、兄弟姉妹が住む実家の相続と居住権、兄弟姉妹が住む実家の相続における注意点、配偶者居住権などについて解説しました。
被相続人の配偶者は、配偶者居住権を活用することで、被相続人が亡くなった後も、元々居住していた家に住み続けられるうえ、相続によって生活資金も確保できます。この場合、実家の所有権は他の相続人にあるため、公平性も担保でき、相続人同士の争いも防ぎやすいでしょう。
また、実家に住み続けたい兄弟姉妹がいる場合は、現物分割か代償分割かどちらかの方法で遺産分割するのがよいでしょう。しかし、どちらの方法もデメリットがあるため、トラブルを避けるためにもよく検討しながら進めてください。当事者同士での話し合いが上手くいかない場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。ご実家の相続の相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一