傾斜地にある不動産を相続することになり、相続するリスクや相続税評価額の計算方法などについて調べている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
傾斜地は自然災害によるリスクが平坦地よりも高い分、そこに建てる建築物には、規制が課されます。ニーズが限られてしまうため、価格は低くなる傾向があり、税金も安いでしょう。相続不動産がある場合は、その相続税評価額も低く、固定資産税も安いはずです。ただし、活用しにくい土地である分、売却などの処分が難しい可能性もあります。
今回は、傾斜地の概要、傾斜地の家の相続税評価額、傾斜地の家を相続するリスク、相続した場合の活用法、売却する際の注意点などについて解説します。
傾斜地とは
まずは傾斜地の概念について理解しておきましょう。どのような土地が該当するのか、がけ地とはどのような違いがあるのかについて説明します。
1.法律上の正確な定義はない
実は建築基準法などの法律には「傾斜地」という表現はありません。傾斜地には法律上の定義がなく、何度傾いていれば傾斜地であるという決まりはないのです。
一方、「がけ」の場合、建築基準法19条4項に以下のような記載があります。
“第19条4項
建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。
引用:e-GOV 法令検索 “
がけ崩れによる被害を防止するために、擁壁の設置などの安全措置を講じる必要があるという内容のみで、定義はありません。
しかし、都道府県ごとに定められている「がけ条例」の中であれば、がけの定義が記載されています。ただし、条例は地方自治体ごとに定めるものなので、がけの定義も自治体ごとに異なります。たとえば、神奈川県では「こう配が30度をこえる傾斜地」を「がけ」としています。
参考:第1節神奈川県建築基準条例の解説(神奈川県公式サイト)
2.がけ地との違い
傾斜地にはその定義がないため、がけ地との違いも明確に定義されてはいません。しかし、以下のように整理できるでしょう。
傾斜地 | がけ地 | |
---|---|---|
一般的な定義 | 土地にこう配があり、そのままでは通常通りに利用できない土地 | 傾斜地よりもこう配が急な土地 |
法律上の定義 | なし | こう配が30度を超える土地とされている場合が多い |
傾斜地の家の相続税評価額
傾斜地にある不動産の相続税評価額は次のように計算します。活用しにくい土地であるため、一般的な不動産よりも安く済むケースがほとんどでしょう。
1.土地が宅地で路線価地域ならがけ地補正率が適用される
不動産の相続税評価額の算出方法には、路線価方式と倍率方式の2種類があります。どちらが適用されるかは地域によって異なり、国税庁公式サイト内の以下のページで調べられます。
参考:路線価図・評価倍率表
また、それぞれの相続税評価額の基本の算出方法は以下のとおりです。
【路線価地域の場合】
相続税評価額=路線価×土地の面積
【倍率地域の場合】
相続税評価額=固定資産税評価額×倍率
相続不動産が、路線価方式の対象地域にあり、かつ、宅地である場合は、その相続税評価額は次の計算式で求められます。
相続税評価額=路線価×土地の面積×がけ地補正率
計算式中の「がけ地補正率」は以下のページの「付表8」で調べられます。
参考:奥行価格補正率表(昭45直資3-13・平3課評2-4外・平18課評2-27外改正)
がけ地補正率が適用できるのは「通常の用途に供することができないと認められる部分を有する宅地」のみです。
そのため、2階に玄関があり、1階は斜面に沿って作られているような建物には適用できません。
2.土地が宅地以外なら宅地造成費の控除ができる
がけ地補正率を適用できるのは宅地のみです。相続不動産が宅地以外の土地である場合は、代わりに宅地造成費の控除によって節税が期待できます。
宅地造成費とは、その土地を宅地として利用するために必要な費用のことです。具体的な金額は路線価図・評価倍率表の「宅地造成費の金額表」で確認できます。
3.家屋の相続税評価額は通常どおり
傾斜地に建っている家屋の相続税評価額は、一般的な宅地の家屋と同様に「固定資産税評価額×1.0」で計算した額です。毎年自治体から送付される納税通知書などで確認しましょう。
傾斜地の家を相続するリスク
平坦地と違い、傾斜地の相続には以下のようなリスクが伴います。相続するかどうかはこれらのリスクをよく理解したうえで検討しましょう。
1.安全性の問題がある
傾斜のある土地は、地滑りや土砂崩れなどが発生する可能性があり、平坦地に比べると自然災害による被害を受けるリスクが高いでしょう。
その対策として、がけ地付近の建物には、擁壁の設置が義務付けられています。また、経年劣化に備えて、定期的な点検や補修も必要です。しかし、実際には、メンテナンスがしっかりされていないケースもあり、自然災害による被害を受ける可能性もあります。
2.法律によって利用が制約される場合がある
がけ地にある不動産は、法律や条例によってさまざまな制約を受けます。建築場所の制限や擁壁の設置義務があるために、自由に建物を建築できなかったり、費用がかかったりすることもあるでしょう。最悪の場合、建物を建てられず、固定資産税を払い続けるしかないという可能性もあります。
相続した傾斜地の家を活用するには
傾斜地の家を相続したら、どうすればよいのでしょうか。リスクを軽減し、活用する方法について紹介します。
1.専門家に調査をしてもらう
がけ地の活用を考える際、最も問題となるのは安全性です。がけ地を相続したら、専門家に依頼して、安全性や活用の可能性について調べてもらいましょう。地盤や地質を調査し、改良や造成工事の必要性を判断してもらうことができます。
改良工事を行う場合は、土地の広さに応じて費用が必要です。一戸建てであれば数十万から数百万円程度、マンションやアパートであれば数千万円程度かかる可能性もあります。さらに建築費用もかかるため、慎重に検討する必要があるでしょう。
2.必要に応じて補強工事をする
擁壁が劣化していれば補強工事が必要です。点検や調査をしてもらった上で、必要に応じて行いましょう。場合によっては、作り直しが必要かもしれません。多額の費用がかかる可能性もありますが、安全性を確保するためにもしっかり対応することが大切です。
また、工事実施前には、擁壁の所有者と検査済証の有無を確認しなければなりません。所有者が他人であれば、擁壁の調査や工事は勝手にできません。また、検査済証がなければ建築確認申請ができない可能性があるので注意しましょう。
3.活用できない場合は売却を検討する
がけ地を活用するには、調査や工事のために多額の費用がかかるほかにも、規制によって建築物を建設できない、擁壁所有者と話ができないなどという事態も考えられます。そうなると活用はできないので、売却を検討した方がよい場合もあるでしょう。
しかし、がけ地の売却は難しいケースが多く、売れない可能性もあります。売却が難しい場合は、買い取りを検討するとよいでしょう。
相続した傾斜地の家を売却する際の注意点
がけ地を売却する際は以下の点に注意しましょう。
1.擁壁の安全性が売却に影響する
がけ地の家にとって、擁壁の安全性は非常に重要です。しかし、中にはその安全性を確認できない擁壁もあります。2000年以前に建物が建てられた土地などがその例です。この時期には、建築確認申請の際に、その安全性を保証する資料の提出が必要ありませんでした。そのため、中には必ずしも安全とはいえない建物も含まれるのです。
そのような建物であれば、擁壁を作り直さない限り、建築物の新築や建て替えは認められません。買い主に擁壁の費用の負担を求められ、相場よりも低い価格でしか売却できなくなる可能性もあるでしょう。
2.擁壁の安全性は正確に告知しなければならない
売却の際には、擁壁の安全性が大きく影響します。問題があれば隠したくなるかもしれませんが、正確に告知しなければなりません。
万一、劣化状態や検査済証の有無を告げないまま売却してしまうと、後で問題が発生した場合に契約不適合責任を問われます。損害賠償請求を受けたり、売買契約の解消を求められたりする可能性があるので注意が必要です。
3.ニーズが限られるため売却が難しい
がけ地はその活用に多くの制約を受ける上、利用する際には調査や工事のために多額の費用を要します。平坦地と比べると建物を建設しにくく、買い主のニーズが限られるため、売却が困難なケースもあるでしょう。
4.売却が難しい場合は買い取りも検討する
がけ地は売却が難しいため、積極的に取り扱ってくれない不動産業者も多いでしょう。
しかし、買い取りであれば応じてもらえる可能性もあります。買い取りは売り主にとってもメリットのある方法です。売却活動が不要なため短期間で現金化できますし、不動産業者へ仲介手数料を支払う必要もありません。契約不適合責任がない点も安心です。
売却が難しい場合は、信頼できる専門業者を探し、買い取りの相談をするとよいでしょう。
まとめ
今回は、傾斜地の概要、傾斜地の家の相続税評価額、傾斜地の家を相続するリスク、相続した場合の活用法、売却する際の注意点などについて解説しました。
傾斜地ががけ地に分類される場合、相続する際、いくつかのリスクを伴います。活用しようとしても制約があったり、高額の費用がかかったりする可能性もあり、手放すことを検討することになるケースもあるでしょう。しかし、売却も容易にできるとは限りません。何らかの対策を試みる必要があるため、不動産業者に相談しながら検討することをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。傾斜地の家の相続に関する相談にも応じておりますので、お気軽にお問い合わせください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一