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2023.08.31

賃貸併用住宅は相続税の節税対策になる?その仕組みと注意点を解説

賃貸併用住宅は相続税の節税対策になる?その仕組みと注意点を解説

高齢の親が賃貸併用住宅に住んでいる、または建築や建て替えを検討していて、「賃貸併用住宅の相続税はどうなるのか」「節税効果は高いのだろうか」などと疑問に思われている方もいらっしゃるでしょう。

賃貸併用住宅は、相続税の節税効果が期待できる財産です。不動産は、現金よりも相続税の節税効果が高いうえ、賃貸併用住宅であれば相続税評価額はより低くなります。さらに、大きな節税効果を期待できる小規模宅地の特例も使えるため、相続においては有利といえます。

ただし、デメリットもあるため、これから建築や建て替えを考えているなら、慎重に検討した方がよいでしょう。

今回は、賃貸併用住宅の相続税の節税効果、賃貸併用住宅の相続税評価額の算出方法、賃貸併用住宅と小規模宅地の特例、賃貸併用住宅の相続税以外の節税効果、賃貸併用住宅を建てるデメリットなどについて解説します。

賃貸併用住宅は相続税の節税効果が期待できる

賃貸併用住宅は、以下のような理由から、相続税の節税効果が期待できます。

1.不動産は相続税評価額が低い

相続税は、各相続財産の評価額をもとに算出します。現金であれば、手元にある金額がそのまま評価額となりますが、不動産の場合は、時価の8割程度になるため、現金で相続するよりも相続税額は少なくて済むのです。

2.賃貸物件は相続税評価額が低い

賃貸物件の場合、相続税評価額の算出式は以下のとおりです。借地権割合や賃貸割合分が差し引かれる分、自用地や自宅建物よりも低くなります。

土地の評価額=自用地としての価額×(1-借地権割合×借地権割合×賃貸割合)
貸家の評価額=自宅建物としての固定資産税評価額×(1-借地権割合×賃貸割合)

3.賃貸併用住宅でも小規模宅地の特例を使える

小規模宅地の特例とは、亡くなった人の自宅不動産を相続する際、要件を満たせば、その土地の評価額を最大で8割安くしてもらえるという制度です。賃貸併用住宅でも、この特例が適用されるため、大幅な節税効果を期待できます。
適用されるために満たすべき要件は以下のとおりです。

  • 相続開始前から亡くなった人と居住していた建物の土地である
  • 相続人は相続税の申告期限まで対象の土地を継続して保有している
  • 相続開始3年前から貸し付けており、相続税の申告期限まで継続している

賃貸併用住宅の相続税評価額の算出方法

賃貸併用住宅を相続する場合の、土地、建物の評価額の算出方法は以下のとおりです。

1.賃貸併用住宅の土地の評価

賃貸併用住宅の場合、土地の評価額は自用地として計算した評価額と借地として計算した評価額の合算になります。
自用地と借地の評価額の算出方法は、以下のとおりです。

自用地の評価額=路線価×地積
借地の評価額=自用地としての価額(=路線価×地積)×(1-借地権割合×借地権割合×賃貸割合)

それぞれの地積は、建物のうち自宅として使用している部分の床面積と、貸家として使用している部分の床面積で按分して決めます。
例えば、建物の1階部分を自宅として、2階、3階部分を貸家として使用している建物を相続するとしましょう。それぞれの床面積は100㎡、建物のある土地の面積は150㎡とします。この場合の自宅部分、貸家部分のそれぞれの地積は以下のとおりです。

自宅部分の地積=150㎡×100/300=50㎡
貸家部分の地積=150㎡×200/300=100㎡

また、借地の評価額の計算式中の「借地権割合」とは、土地の権利のうち、借地が占める割合のことであり、下記国税庁の公式サイトで調べられます。
さらに、「賃貸割合」とは、実際に借り主が使用している貸家の割合です。部屋の数ではなく、床面積で算出します。

先ほど例に挙げた不動産で、路線価を20万円、借地権割合は60%、実際に貸している部屋の床面積の合計を120㎡としましょう。
この場合、自用地、借地部分それぞれの評価額は以下のように計算できます。

自用地の評価額=20万円×50㎡=1,000万円
借地部分の評価額=(20万円×100㎡)×(1-60%×60%×120㎡/200㎡)=1,568万円

つまり、この賃貸併用住宅の土地部分の評価額はこれらの合計額である2,568万円です。
なお、土地全てが自用地である場合の評価額は、3,000万円(=20万円×150㎡)です。賃貸併用住宅の方が、その評価額は500万円ほど低くなることがわかります。

参考:国税庁|路線価図・評価倍率表

2.賃貸併用住宅の建物の評価

建物部分についても土地と同様に、用途に応じて算出します。自宅部分と貸家部分の建物の評価額の算出式はそれぞれ以下のとおりです。

自宅部分の建物評価額=固定資産税評価額
貸家部分の建物評価額=自宅建物としての固定資産税評価額×(1-借地権割合×賃貸割合)

建物の借地権割合は、全国一律で30%です。
先ほど例に挙げた賃貸併用住宅の固定資産税評価額が2,400万円とすると、それぞれ以下のように計算できます。

自宅部分の建物評価額=2,400万円×100/300=800万円
貸家部分の建物評価額=(2,400万円×200/300)×(1-30%×120㎡/200㎡)=1312万円

つまり、この賃貸併用住宅の建物の相続税評価額は、これらを合計した2,112万円です。建物全てを自宅とした場合に比べて、その評価額は約300万円低くなります。

賃貸併用住宅に小規模宅地の特例を活用するには

賃貸併用住宅でも、小規模宅地の特例を適用できます。ただし、評価額算出時と同様、居住用部分と賃貸用部分に分けて考える必要があります。

1.居住用部分と賃貸用部分について適用される

小規模宅地の特例で適用される面積の限度と減額割合は、特定居住用宅地と貸付事業用宅地でそれぞれ以下のとおりです。

土地の種類 限度面積 減額割合
特定居住用宅地等 330㎡ 80%
貸付事業用宅地等 200㎡ 50%

居住用宅地と貸付事業用宅地で構成される賃貸併用住宅の場合、それぞれ要件を満たせば特例が適用され、それぞれの土地の評価額から減額されます。
ただし、この方法で評価額を算出できるのは、以下の計算式を満たす範囲のみです。計算式で求めた値が200㎡を超える場合は、居住用宅地と貸付事業用宅地のどちらか一方にしか、特例は適用できません。

特定居住用宅地等の面積×200/330+貸付事業用宅地の面積≦200㎡

2.二次相続でも適用可能

小規模宅地の特例は、適用回数に制限がありません。そのため、二次相続でも利用できます。一次相続で配偶者が相続し、一人で居住していたとしても、二次相続においても、貸付事業用宅地については再び適用可能です。もちろん、要件は満たさなければならないので、二次相続開始3年前までに事業を継承し、申告期限まで土地を保有のうえ貸付事業を継続している必要があります。

また、場合によっては、一次相続で賃貸併用住宅を別居親族が相続した方が、二次相続も含めた相続税の総額を抑えられる可能性もあります。誰が相続するのがもっともよいかは、専門家に相談しながら、よく検討する方がよいでしょう。

賃貸併用住宅の相続税以外の節税効果

賃貸併用住宅には、相続税の節税対策以外にも、以下のようなメリットがあります。

1.固定資産税を軽減できる

固定資産税には住宅用地の特例があり、建物が建っている土地は以下のとおり、固定資産税が安くなります。

土地の種類 対象部分 課税標準額
小規模住宅用地 住宅1戸につき200㎡まで 6分の1
一般住宅用地 住宅1戸につき200㎡を超える部分 3分の1

ただし、賃貸併用住宅の場合、自宅部分の割合が4分の1未満であれば、住宅用地として認められず、固定資産税も安くはなりません。

2.住宅ローン控除を使える可能性も

賃貸併用住宅をこれから建設する場合、自宅部分の割合が2分の1以上で、ローンの返済期間を10年以上とすれば、自宅部分については住宅ローンを利用できます。
さらに、控除を受ける年の年収が3,000万円以下であれば、住宅ローン控除の利用もでき、年末時点での住宅ローン残高の最大1%を所得から控除することが可能です。

3.賃貸部分は損益通算による節税効果が期待できる

賃貸併用住宅の賃貸部分についてかかる固定資産税や建物減価償却費、火災保険料、修繕費用などは経費として計上できます。損失額と利益額を相殺できる損益通算が利用できるので、所得税の節税も期待できるでしょう。

賃貸併用住宅を建てるデメリット

賃貸併用住宅には以下のようなデメリットもあります。

1.入居者を確保しにくい

賃貸併用住宅は、入居者の確保が難しいケースもあります。家主と同じ家に住むことになるため、その距離の近さから抵抗を感じる人が多く、通常の物件よりも入居者を集めにくいかもしれません。

2.途中でローンの返済が苦しくなる可能性がある

賃貸併用住宅は住宅ローンを利用できますが、利用できるのは自宅部分だけです。賃貸部分については不動産投資ローンやアパートローンなど、住宅ローンよりも金利の高いサービスを利用しなければなりません。
そのため、負債額が大きくなりやすく、空き室が埋まらず家賃収入を確保できなければ、ローンの返済は苦しくなりやすいでしょう。

3.売却が簡単ではない

賃貸併用住宅は簡単に売却できない可能性があります。なぜなら、買主が賃貸併用住宅の購入希望者に限られてしまうためです。
マイホームが欲しい人にとっては、賃貸部分が不要ですし、投資用不動産が欲しい人にとっては、自宅部分は必要ありません。そのため、限られた層にしか検討してもらえないでしょう。

4.入居者のトラブル対応が必要

賃貸住宅では、入居者同士のトラブルも起きることもあります。管理会社に委託している場合、入居者同士のトラブル対応は管理会社が行います。しかし、家主が近くにいる賃貸併用住宅では、入居者は直接家主に対応を求める可能性があります。入居者同士のトラブルに巻き込まれ、余計なストレスを抱えてしまうかもしれません。

まとめ

今回は、賃貸併用住宅の相続税の節税効果、賃貸併用住宅の相続税評価額の算出方法、賃貸併用住宅と小規模宅地の特例、賃貸併用住宅の相続税以外の節税効果、賃貸併用住宅を建てるデメリットなどについて解説しました。

賃貸併用住宅は相続において、大きな節税効果を期待できる財産です。さらに固定資産税や所得税の軽減もできるため、節税対策としては有利といえるでしょう。

しかし、入居者集めや売却が難しい、ローンの返済で苦労する可能性があるなどのデメリットもあります。親の自宅の建て替えを検討する際には、賃貸併用住宅のメリットとデメリットの両方をよく理解することが大切です。検討する際に不安な点がある場合は、後悔のない選択をするためにも、専門家に相談することをおすすめします。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。賃貸併用住宅の相続に関する相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一