初めての相続では、わからないことばかりで、戸惑うことが多いでしょう。「相続税評価額」など、聞き慣れない言葉も多く、一つ一つ調べている方もいらっしゃるかもしれません。
相続税評価額とは、遺産がどれくらいあるのかを知るために、まず調べる必要があるものです。評価方法は財産によって異なるため、一つずつ確認しながら進めましょう。
この記事では、不動産の他、預貯金、上場株式、生命保険金、退職手当金、その他の財産の相続税評価額の求め方、不動産の相続税評価額を減額する方法、相続税評価額と時価の違いなどについて解説します。
相続税評価額とは相続税の計算に必要な価額
相続税評価額とは、相続税の計算をする際に必要な値であり、遺産それぞれの金銭的価値を示すものです。
遺産に含まれる財産として、現金や預貯金、不動産、株式などさまざま挙げられますが、相続税評価額を求めるための方法はそれぞれ異なります。財産に応じた方法に従って、算出しなければなりません。
さらに、各財産の相続税評価額を合計したものが、遺産総額です。相続税は、この遺産総額が以下計算式で算出される基礎控除額を超えた場合にのみ発生します。
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
不動産の相続税評価額の求め方
相続税評価額の算出が最も複雑であるといわれるのが、不動産です。あまりなじみの価額を用いたり計算方法が複雑であったりするなど、専門知識がなければ難しいケースが多いでしょう。ご自身で計算しにくい場合は、迷わず専門家や専門業者に相談することをおすすめします。
1.土地の相続税評価額の求め方
土地の相続税評価額は基本的に路線価方式か倍率方式と呼ばれる方法で計算します。どちらの方式を利用するかは相続不動産の所在地によって異なりますが、いずれの方法を用いてもその評価額は公示価格の80%程度です。
また、不動産の種類によって計算方法が異なるため、故人の遺産に該当する方法を確認しながら進めましょう。
①路線価方式
路線価とは、路線、すなわち道路に面する土地1㎡あたりの価額のことです。
路線価方式とは、この路線価を用いて土地の相続税評価額を算出する方法をいいます。この場合の土地の相続税評価額の算出式は以下のとおりです。
土地の相続税評価額=路線価×土地の面積×奥行価格補正率
路線価は、下記国税庁の公式サイトで調べられます。
また、奥行価格補正率とは、減額補正率の一つであり、道路に面しているのが一面だけである土地に対して用いられる数値です。具体的な値は、国税庁の公式サイトの以下のページで調べられます。
参考URL:路線価図・評価倍率表(国税庁公式サイト)
また、地域によっては路線価が定められていないところもあり、その場合は次に紹介する倍率方式で評価します。
②倍率方式
倍率方式は、相続の対象となる土地が、路線価が定められていない地域にある場合に用いられる評価方法です。以下の計算式で評価額を求めます。
土地の相続税評価額=固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額は、各自治体から毎年4月~5月に納税通知書といっしょに送られてくる「固定資産税課税明細書」に記載されている土地の価格欄を確認すればわかります。見つからない場合は、市区町村役場で固定資産税課税台帳を閲覧するか、固定資産税評価証明書を取得して確認しましょう。
また、倍率は、路線価と同様に国税庁の以下のページで確認できます。
参考URL:路線価図・評価倍率表(国税庁公式サイト)
③貸地の場合
誰かに貸している土地の場合は、通常の土地よりも相続税評価額は低くなります。貸地の場合の相続税評価額の計算式は以下のとおりです。
貸地の相続税評価額=土地の相続税評価額×(1-借地権割合)
計算式中の「土地の相続税評価額」とは、通常の土地の価額のことであり、路線価方式、または倍率方式で求めた価額です。借地権割合は、地域ごとに30~90%の間で定められており、国税庁公式サイト内の以下のページで確認できます。借地取引があまり行われていない地域の場合は20%です。
路線価と同様に国税庁公式サイト内の以下のページで確認できます。
参考URL:路線価図・評価倍率表(国税庁公式サイト)
④マンションの場合
相続した不動産がマンションの一室である場合、まずは敷地全体の相続税評価額を求めた後、敷地権の割合を掛けて、故人が所有していた部屋の分の評価額を求めます。
相続税評価額=土地の相続税評価額×敷地権の割合
敷地権の割合は、土地の登記事項証明書で確認できます。「表題部」の欄に記載されているはずです。
⑤ 共有名義の場合
土地の名義人が複数いる場合、相続税評価額は土地全体の相続税評価額に故人の持分割合を乗じて求めます。
相続税評価額=土地の相続税評価額×故人の持分割合
故人の持分割合は、土地の登記事項証明書か固定資産税通知書で確認できます。
2.建物の相続税評価額の求め方
建物の相続税評価額とは、固定資産税評価額です。土地の固定資産税評価額と同様、固定資産税課税明細書か、市区町村役場で固定資産税課税台帳を閲覧、または固定資産税評価証明書を取得すれば確認できます。
賃貸されている建物の場合は、以下の計算式で相続税評価額を計算します。
相続税評価額=建物の固定資産税評価額×(1-借地権割合(=30%)×賃貸割合)
建物の場合の借地権割合は全国一律で30%です。
また、賃貸割合とは、建物全体の床面積に対して、賃貸している部屋の床面積の合計の割合をいいます。空室率が低いほど賃貸割合は大きくなり、相続税評価額は低くなります。
預貯金の相続税評価額の求め方
相続税評価額は相続開始時点での残高です。金融機関で残高証明書を取得して確認しましょう。
ただし、定期預金の場合は、相続開始時点の残高に既経過利子の額が加算されます。既経過利子とは、相続開始日に解約した場合に得られる利子の額です。残高証明書に加えて利息計算書も発行してもらえば確認できます。
上場株式の相続税評価額の求め方
上場株式の評価額は、基本的に「1株あたりの価額×株数」で求めます。相続税評価額を算出する場合、「1株あたりの価額」は、以下に挙げる4つの価額のうち最も低いものを採用します。
- 相続が発生した日の終値
- 相続が発生した月の終値の平均値
- 相続が発生した月の前の月の終値の平均値
- 相続が発生した月の前々月の終値の平均値
複数社分の株式がある場合は、それぞれの最安値を採用できます。少々手間がかかりますが、相続税額を抑えるためにも必ず確認しましょう。
また、相続開始日が土日や祝日などで、市場休場日であった場合、「相続が発生した日の終値」はありません。この場合、前日以前または翌日以降のうち、相続発生日にもっとも近い日の終値を「相続が発生した日の終値」とします。
生命保険金の相続税評価額の求め方
生命保険金は残された遺族の生活を守るという意味が強いこともあり、非課税枠が設けられています。具体的な計算式は以下のとおりです。
相続税評価額=受け取った金額-生命保険金非課税金額(=500万円×法定相続人の数)
退職手当金の相続税評価額の求め方
退職手当金にも、非課税枠が設定されています。退職手当金の相続税評価額の計算式は以下のとおりです。
相続税評価額=受け取った金額-退職手当金非課税金額(=500万円×法定相続人の数)
その他の財産の相続税評価額の求め方
その他の主な財産の相続税評価額の求め方は下の表のとおりです。
投資信託上場しているものは上場株式の場合と同様、それ以外は種類や形態によるゴルフ会員権種類による
取引相場があり、預託金がない場合は、取引相場×0.7自動車中古自動車買取業者による査定価格美術品や骨とう品専門家による鑑定価格や売買実例価格など
美術品や骨とう品 専門家による鑑定価格や売買実例価格など
財産の種類 | 相続税評価額の求め方 |
---|---|
投資信託 | 上場しているものは上場株式の場合と同様、それ以外は種類や形態による |
ゴルフ会員権 | 種類による 取引相場があり、預託金がない場合は、取引相場×0.7 |
自動車 | 中古自動車買取業者による査定価格 |
不動産の相続税評価額を減額する方法
相続する土地が、自宅や事業用、賃貸物件用の土地であれば、「小規模宅地の特例」を適用できます。この特例が適用されると、土地の相続税評価額を最大で80%減額できるため、相続税の節税対策として非常に有効です。
実際に適用できる土地の区分と要件、減額割合は以下のとおりです。
相続開始直前時点での利用区分 | 要件 | 限度面積 | 減額される割合 |
---|---|---|---|
故人の居住用宅地 | 特定居住用宅地等 | 330㎡ | 80% |
貸付事業用の宅地 | 貸付事業用宅地等 | 200㎡ | 50% |
貸付事業以外の事業用の宅地 | 特定事業用宅地 | 400㎡ | 80% |
特定同族会社事業用宅地 | 400㎡ | 80% |
この特例が適用されるためには、遺産総額が基礎控除額以下であっても、相続税の申告をしなければなりません。相続の発生を知った日の翌日から10カ月以内に必ず申告手続きをするようにしましょう。
相続税評価額と時価の違い
相続税評価額と時価とは異なるもので、それぞれ以下のようなものをいいます。
- 相続税評価額:相続税の計算に用いられる価格
- 時価:市場で売買する際の取引成立価格
相続税法第22条で定められているとおり、相続や遺贈で取得した財産の価額は、取得時点の時価です。しかし、不動産や非上場株式のように、財産によっては時価を求めるのが容易ではないものもあります。
そこで、国税庁が定めたのが「財産評価基本通達」です。これは相続税評価額を求める際の基本ルールを定めたものです。この通達に従って計算したものが相続税評価額であり、実際に相続税の計算をする際に用いられています。
まとめ
この記事では、不動産の他、預貯金、上場株式、生命保険金、退職手当金、その他の財産の相続税評価額の求め方、不動産の相続税評価額を減額する方法、相続税評価額と時価の違いなどについて解説しました。
相続税評価額とは、相続税を計算する際に必要な各財産の評価額です。その評価方法は財産の種類によって異なり、中には専門知識がなければ算出が難しいものもあります。
相続税額の計算の他、遺産分割の際にも用いられる重要な金額であるため、ご自身で計算するのが難しい場合や、相続人同士で意見がまとまらなかったりする場合は、できる限り早い段階で専門家や専門業者を頼りましょう。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。「不動産をどのように相続するべきかわからない」「相続した不動産を売却すべきか迷っている」などという相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一