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2023.07.18

相続した不動産の売却時に使える相続税の取得費加算の特例と手続きの方法

相続した不動産の売却時に使える相続税の取得費加算の特例と手続きの方法

不動産を相続したものの誰も住む予定がなく売却を検討している方の中には、売却時にかかる税金を少しでも安くする方法を調べている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

相続した不動産の売却時には、「相続税の取得費加算の特例」を利用すれば、売却時にかかる譲渡所得税を節税することが可能です。

今回は、「相続税の取得費加算の特例」の概要、特例を利用して売却する際の注意点、特例を利用するための手続、相続税の申告が未了の場合の対処法、相続した不動産の売却時に使えるその他の特例などについて解説します。

相続税の取得費加算の特例とは

「相続税の取得費加算の特例」とは、適用要件を満たして売却すれば、売却時にかかる譲渡所得税を軽減できる特例制度です。まずはその概要や適用要件などの仕組みについて説明します。

1.相続税の取得費加算の特例の概要

「相続税の取得費加算の特例」とは、相続した不動産を売却することで得た譲渡所得から、先に支払った相続税分を控除することで、譲渡所得税を節税できる制度のことです。

不動産を売却すると、売却によって得た金額に対して譲渡所得税がかかります。譲渡所得税の課税対象である譲渡所得は、通常、以下の計算式で求めます。

譲渡所得=収入金額-取得費-譲渡費用

計算式中の各項目の概要は以下のとおりです。

  • 収入金額:買主から受け取る売却金額
  • 取得費:当該不動産取得時の購入代金や購入手数料などの合計で、建物の場合は所有期間中の減価償却費分を差し引く
  • 譲渡費用:仲介手数料、印紙税、立退料など不動産売却にかかった費用

一方、この特例を利用した場合の譲渡所得を求める際の計算式はこちらです。

譲渡所得=収入金額-相続税の取得費加算-取得費-譲渡費用

相続税の取得費加算とは、既に支払った相続税のうちの一定金額のことをいいます。相続税の取得費加算分を控除できる分、譲渡所得税は安くなります。これが、「相続税の取得費加算の特例」の概要です。

2.相続税の取得費加算の特例の適用要件

相続税の取得費加算の特例の適用を受けるための要件は以下のとおりです。

  • 相続や遺贈によって当該不動産を取得した人であること
  • 当該不動産を取得した人に相続税が課税されていること
  • 当該不動産を、相続発生日の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に譲渡していること

特に注意したいのは、売却期間についてです。相続税の申告期限は、相続発生から10ヵ月以内なので、この特例を利用したい場合は、相続発生から3年10ヵ月以内に売却する必要があります。

3.取得費に加算される相続税額の計算方法

譲渡所得から控除できる「相続税の取得費加算」分は以下の計算式で算出します。

相続税の取得費加算分=「申請する人の支払った相続税額」×(「申請する人の相続税の課税価格の計算の基礎とされた当該不動産の相続税評価額」÷(「申請者の相続税の課税価格」+「申請者の債務控除額」))

例えば、相続財産が預金2,000万円と被相続人が5年以上居住していた4,000万円の自宅不動産であるとし、相続税を350万円収めたとします。

債務控除額はなしとすると、相続税の取得費加算分は、350万×4,000万÷(2,000万+4,000万)で計算して約233万円となります。

さらに、当該不動産の購入額が3,000万円、今回の売却額が4,500万円、売却時にかかった費用が100万円だったとすると、譲渡益は、4,500万-233万-3,000万-100万で計算して1,167万円となります。この場合に支払う譲渡所得税は、これに20.315%の税率をかけた237万760円です。

相続税の取得費加算の特例で相続した不動産の売却をするための注意点

相続した不動産の売却時に「相続税の取得費加算の特例」の適用を受けたい場合は、以下の点に注意しましょう。

1.売却はできるだけ早期に

取得費加算の特例の適用要件の一つは、「当該不動産を、相続発生日の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に譲渡していること」です。つまり、相続発生から3年10ヵ月以内に売却していなければ、この特例の適用は受けられません。そのため、相続した不動産の売却はできる限り早めにすることが望ましいといえます。

2.遺産分割協議も早期に完結させる

不動産を売却するためには、まずは誰が当該不動産を相続するのかを決めなくてはなりません。相続方法や遺産の分割方法は、遺言書が残されていなければ、相続人全員で遺産分割協議をして決定する必要があります。

また、遺産分割協議は、相続人同士の関係が悪くなくても、スムーズに進まないケースも少なくありません。確実に特例の適用期間内に売却するためにも、話し合いが進まなければ、早めに専門家に相談して解決することをおすすめします。

3.代償分割は避けるのが無難

代償分割とは、特定の相続人が当該不動産を取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払う分割方法です。代償金を支払って、当該不動産を取得した相続人が売却する場合、相続税の取得費加算分が調整され、代償分割以外の方法で相続した場合よりも、取得費加算分が少なくなる可能性があります。特例による譲渡所得税の節税効果が小さくなる可能性があるため、注意が必要です。

4.併用できない特例がある

相続不動産を処分する際に適用できる特例は他にもあります。取得費加算の特例と併用できるものもありますが、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」とは併用できないので注意しましょう。

「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」とは、いわゆる「空き家特例」と呼ばれるものです。相続した空き家を売却した場合、適用要件を満たせば、最高3,000万円を譲渡所得から控除できます。「相続税の取得費加算の特例」とどちらを適用すべきかは個々のケースによって異なります。どちらの適用要件も満たす場合は、専門家に相談して決めるとよいでしょう。

相続税の取得費加算の特例を利用するための手続き

取得費加算の特例の適用を受けるには、確定申告が必要です。ここでは、申告期限と必要書類について説明します。

1.売却した翌年に確定申告をする

取得費加算の特例を受けるためには、相続した不動産を売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告をしましょう。

確定申告は自分で譲渡所得金額を計算して行うこともできますが、万が一計算内容に間違いがあり、実際よりも少ない金額で申告していれば過少申告加算税を課せられる可能性があります。余計な税金を支払わないためにも、不安な場合は専門家に相談しながら準備することをおすすめします。

2.必要書類を準備

確定申告時に準備する必要があるのは、以下の書類です。

  • 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書

これらの書式は国税庁の公式サイトからダウンロードできます。確定申告書類に添付して提出しましょう。

参考URL:申告書・申告書付表と税額計算書等 一覧(申告所得税)(国税庁公式サイト)

相続税の申告が未了の場合の対処法

相続した不動産を早期に売却した場合など、相続税の申告期限よりも先に、確定申告の期限となるケースもあるかもしれません。そのような場合は、以下の手順で対処しましょう。

  1. 取得費加算の特例の適用の申請をせずに確定申告をする
  2. 相続税の申告をする
  3. 相続税申告の2ヵ月以内に更生の請求をする

更生の請求をすれば、支払い過ぎた所得税を還付してもらえます。

相続した不動産の売却時に使えるその他の特例

相続した不動産の売却時に利用できる特例には、取得費加算の特例以外にもあります。併用できるものもあるので、上手に活用して節税を試みましょう。

1.マイホームを売ったときの特例(3,000万控除)

居住用財産(マイホーム)を売却した場合、所有期間に関係なく、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です。適用されるには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  • 売却対象が、自分が居住している家屋、または、その敷地権や借地権も売却対象とすること
  • 売却した年の前年・前々年にこの特例、マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例、マイホームの買換えやマイホームの交換の特例、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと
  • 災害で滅失した場合は、居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却する
  • 売主と買主が親子や夫婦などの関係にないこと

2.事業用の資産を買い換えたときの特例

事業用不動産であれば、「事業用の資産を買い換えたときの特例」により、一定の要件を満たせば、当該不動産の売却時に発生する譲渡所得税の一部を将来に繰り延べることができます。免除ではないため、節税ができるわけではありませんが、手元に十分な資産がない場合には検討するとよいでしょう。

3.マイホームを売ったときの軽減税率の特例

相続した不動産を、マイホームとして居住し、売却する場合に適用できる可能性のある特例です。譲渡所得税の税率が軽減されるため、節税効果が期待できます。

この特例を適用できるのは、主に以下のような場合です。

  • 相続した不動産をマイホームとしていた
  • 被相続人がマイホームとして居住していた期間と相続人がマイホームとして居住していた期間の合計が、売却した年の1月1日時点で10年を超える
  • 売主と買主が親子や夫婦などの関係にないこと

この特例は、「マイホームを売ったときの特例(3,000万円控除)」と併用できます。

4.被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

被相続人が居住していたものの、今は空き家となっている不動産を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までに売却した場合、適用要件を満たせば、譲渡所得から3,000万円を控除できます。

この特例の主な適用要件は以下のとおりです。

  • 相続発生直前まで被相続人が一人で居住していた物件であること
  • 昭和56年5月31日以前に建築され、区分所有建物登記がされていないこと
  • 同一の被相続人の相続において、他にこの特例の適用を受けていないこと
  • 売却金額が1億円以下であること
  • 売却時に一定の耐震基準を満たしていること、または解体して土地のみにしていること
  • 相続発生から売却するまでに貸したり、相続人が居住したりしていないこと
  • 売主と買主が親子や夫婦などの関係にないこと

なお、取得費加算の特例など、他の特例との併用はできないので注意しましょう。

まとめ

今回は、「相続税の取得費加算の特例」の概要、特例を利用して売却する際の注意点、特例を利用するための手続、相続税の申告が未了の場合の対処法、相続した不動産の売却時に使えるその他の特例などについて解説しました。

相続した不動産の売却時に適用できる特例には、「取得費加算の特例」をはじめいくつかありますが、どの特例を適用できるか、またどの特例を適用するのが最もお得かは個々のケースによって異なります。専門知識がないと判断が難しいケースもあるので、不安な場合は専門家に相談しましょう。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。特例を活用した節税などに関する相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一