特定の人に遺産を独占されてしまったら、せめて遺留分だけでも請求したいところです。遺留分を取り戻す制度として「遺留分減殺請求」というものがあることを知り、どのような制度なのか気になっている方もいらっしゃるでしょう。
「遺留分減殺請求」というのは、旧民法の制度です。そのため、現在は利用できません。代わって、「遺留分侵害額請求」という制度が新しく設置されました。
「遺留分侵害額請求」は、「遺留分減殺請求」と同様に、本来であれば請求できるはずの遺留分を請求できる制度です。両者の違いは、取り戻す対象と、遺留分の額を計算する際に加味すべき生前贈与の時期だけです。他はほとんど変わりません。
今回は、遺留分減殺請求との概要や計算方法、請求の方法と時効などについて解説します。
遺留分減殺請求とは旧民法の制度
遺留分減殺請求とは、相続人に取得が保証された相続分である遺留分を請求できる制度です。ただし、これは旧民法の制度であり、現在では「遺留分侵害額請求」となりました。
遺留分減殺請求の概要と、新しい制度である遺留分侵害額請求との違いについて説明します。
1.遺留分とは
遺留分とは、法律によって>一定範囲の相続人に取得が保証された、最低限の遺産の取り分のことです。遺言に「全財産を特定の相続人に遺贈する」と記されていたとしても、遺留分には影響しません。遺留分権利者である限り、遺留分に相当する分の財産は取得できるのです。
2.遺留分減殺請求とは
本来取得できるはずの遺留分をもらえず、遺留分の侵害を受けている場合、贈与や遺贈によって遺産の独占状態にある人に対して、侵害を受けている分の範囲内で遺留分の支払いを請求できます。その際、支払いの対象となるのは財産そのものであり、その財産が物の場合は、現金ではなく、物の返還請求を行うことになります。これが遺留分減殺請求です。
3.遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求の違い
遺留分減殺請求は旧民法の制度です。民法の改正により現在では廃止され、遺留分侵害額請求になりました。遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求との違いを以下の表にまとめました。
遺留分減殺請求 | 遺留分侵害額請求 | |
---|---|---|
取り戻す対象 | 現物 | 現金 |
生前贈与の範囲 | 制限なし | 相続開始前10年 |
それぞれについて、もう少し詳しく解説します。
①取り戻す対象が違う
遺留分減殺請求と遺留分侵害額請求の最も大きな違いは、取り戻す対象です。
遺留分減殺請求では、財産そのものを取り戻します。たとえば、遺留分の対象となる財産が不動産であるなら、遺留分に相当する分を共有持ち分とすることで取得するのです。
一方、遺留分侵害額請求の場合、侵害された遺留分は現金で取り戻します。たとえ遺産が不動産しかない場合でも、遺留分に相当する額を現金で支払ってもらうのです。
②遺留分の対象となる生前贈与の時期が違う
遺留分に含める生前贈与の時期も民法改正によって変更されました。
改正前の遺留分減殺請求では、いつ行われた生前贈与であっても遺留分額を計算する際の対象とされました。
一方、改正後の遺留分侵害額請求においては、遺留分額の計算に含める生前贈与の時期が限られるようになり、相続開始前10年間のものに限定されています。
4.遺留分減殺請求が遺留分侵害額請求に改正された理由
民法改正によって遺留分減殺請求が遺留分侵害額請求になった背景には、財産の共有によるトラブルが発生しやすかったことが挙げられます。
遺留分減殺請求は、財産そのものを取り戻す制度です。預貯金などであれば問題ありませんが、不動産や株式など「物」の場合は共有するしかありません。
共有する財産の処分には、共有者全員の同意が必要です。そのため、売却などをしたくても、共有者の中に反対する人がいればどうすることもできず、トラブルの元となっていたのです。
遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)をできる人・できない人
遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)は相続人であれば、誰でもできるわけではありません。遺留分侵害額請求をできる人、できない人について紹介します。
1.遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)をできる人
遺留分侵害額請求ができるのは、法定相続人のうち以下の方です。
- 配偶者
- 子どもや孫など直系卑属
- 親や祖父母など直系尊属
2.遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)をできない人
以下の方には、遺留分請求権はありません。
- 故人の兄弟姉妹
- 遺留分放棄をした人
- 相続放棄をした人
- 相続廃除され、相続権を失った人
- 相続欠格となり、相続権を失った人
遺留分侵害額(遺留分減殺額)の計算方法
実際に請求できる遺留分侵害額(遺留分減殺額)は、以下の手順で計算します。
- 遺産総額を求める
- 自分の遺留分の割合を確認する
- 遺産総額に遺留分の割合を掛けて、自分に認められる遺留分額を計算する
- 認められる遺留分額から取得済みの相続分を差し引いて、遺留分侵害額を求める
1.遺留分の基礎となる遺産総額を求める
まずは遺留分の基礎となる遺産の総額を知る必要があります。遺産総額は以下の計算式で求められます。
遺留分の基礎となる遺産の総額=プラスの財産+生前贈与された財産-マイナスの財産
また、各項目の具体的な内容は以下のとおりです。
- プラスの財産:現金や預貯金、不動産、株式など
- 生前贈与された財産:①相続開始前1年に行われた贈与分②相続開始10年以内に行われた「特別受益」に該当する分③遺留分の侵害が起こることを知ったうえで行われた贈与分
- マイナスの財産:借金やローンなど
2.遺留分の割合を確認する
遺留分の割合は、相続人のパターンや、各相続人によって異なります。主な相続人のパターンと各相続人の遺留分の割合は以下のとおりです。
相続人のパターン | 各相続人の遺留分の割合 |
---|---|
配偶者のみ | 1/2 |
子どものみ | 1人の場合:1/2 2人の場合:1/4 3人の場合:1/6 |
親のみ | 片親のみの場合:1/3 両親とも健在の場合:1/4ずつ |
配偶者と子ども1人 | 配偶者:1/4 子ども:1/4 |
配偶者と子ども2人 | 配偶者:1/4 子ども:1/8ずつ |
配偶者と片親 | 配偶者:2/6 片親:1/6 |
3.自分に認められる遺留分の金額を求める
自分に認められる遺留分の金額は、以下の計算式で求められます。
自分に認められる遺留分の金額=遺留分の基礎となる遺産の総額×遺留分の割合
4.遺留分侵害額(遺留分減殺額)を求める
実際に請求できる遺留分侵害額は以下の計算式で求めます。
遺留分侵害額=自分に認められる遺留分の金額-受け取った、これから受け取る金額
遺留分侵害額(遺留分減殺)請求の方法と時効
遺留分侵害額の請求は以下の手順で行います。
1.相手方に遺留分侵害額(遺留分減殺)請求をする
まずは相手に遺留分侵害額を支払ってもらえるように伝えましょう。直接対面で請求したり、電話で伝えたりしてもかまいませんが、文書やメールなど、こちらが請求した事実が残る方法で行うのが望ましいです。
特に相手と疎遠であったり、あまり関係がよくなかったりするなど、後で争いに発展する可能性がある場合や、時効期限が迫っている場合は、内容証明郵便を利用するとよいでしょう。内容証明郵便を利用すれば、郵便局によって遺留分侵害額請求権を行使したことを証明してもらえるため、有効な証拠として活用できます。
2.相手方に直接交渉する
遺留分侵害額の支払いを相手に請求したら、相手方と交渉して支払いについて具体的に取り決めましょう。交渉が成立すれば、合意書を作成して、交渉で決まった内容を記載しておきます。
3.交渉が決裂すれば調停を申し立てる
相手が支払い義務を認めない、支払うべき遺留分額についての意見が一致しない、など、交渉がまとまりそうになければ、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てましょう。
調停手続きとは、裁判所が間に入って、もう一度当事者同士で話し合いをする手続きです。裁判官の他、調停委員という専門家が間に入ってくれるため、平等、公平な解決が期待できます。
4.調停不成立の場合は訴訟提起
調停手続きを経ても、話がまとまらなかった場合は、地方裁判所に訴訟提起をします。今度は話し合いではなく、裁判官が双方の主張をもとに判決を下します。支払われるべき遺留分額も裁判所が算出します。
5.遺留分侵害額(遺留分減殺)請求権の時効は1年
遺留分侵害額の請求は、遺留分の侵害を受けていることを知ってから1年以内に請求する必要があります。1年以内に請求しないと、時効が成立し、請求できなくなってしまいます。時効成立によって、本来もらえるはずの遺留分を取得できなくなることのないよう、請求は早めに行いましょう。
遺留分侵害額(遺留分減殺)請求についてのよくある質問
遺留分侵害額の請求をするにあたり、よくある質問とその回答について紹介します。
1.時効期限が迫っている場合はどうすればよいでしょうか?
遺留分侵害額請求権を行使することです。すなわち、相手に遺留分侵害額の請求をしましょう。
請求の方法に決まりはありませんが、遺留分侵害額請求権を時効期限内に行使したということを確実に残すためにも、内容証明郵便を利用して遺留分侵害額の請求をすることをおすすめします。請求文書には、以下の内容を記載しておきましょう。
- 請求相手の住所、名前
- 故人の名前、住所、亡くなった日
- 請求する人の住所、名前
- 遺留分侵害額請求を行う旨
さらに配達証明サービスを付けておけば、相手が受け取ったことの証明もできるので、より安心です。
2.遺留分を放棄した相続人がいる場合、もらえる遺留分は増えますか?
遺留分を放棄した人がいても、他の相続人の遺留分に影響しません。このことは民法第1049条2項に定められています。
一方、相続放棄の場合は、取得できる遺留分が増える可能性があります。相続放棄をすれば、最初から相続人でなかったとされるため、相続人の数が減る分、残りの相続人の遺留分割合が増えるためです。
まとめ
今回は、遺留分減殺請求との概要や計算方法、請求の方法と時効などについて解説しました。
遺留分減殺請求とは、民法改正前の制度のことです。現在は、遺留分侵害額請求に変更されました。両者の違いは、その請求対象となるものと、遺留分の額を計算する際に含める生前贈与の期間です。しかし、侵害された遺留分を請求できるという点では変わりません。
遺留分の侵害に気づいたら、遺留分侵害額を適切に計算し、相手に請求しましょう。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一