「親が住んでいた田舎の実家を相続することになったけれど、帰る予定もないし、どうしたものか」「遺産分割協議をしているが、田舎の実家を誰も取得したがらず、相続人で話がまとまらない」などとお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このような場合に相続放棄という方法を思いつくかもしれませんが、田舎の実家だけを放棄することはできないため、慎重に検討しなければなりません。また、たとえ相続放棄をしたとしても保存義務は残る可能性があります。
また、とりあえず相続してしまった場合は、さまざまな不利益を被る可能性もあるため、早めに対処するのが賢明です。
今回は、田舎の実家を相続放棄または相続する場合の注意点、田舎の実家を売却したいけれど売却できない場合の対処法などについて解説します。
田舎の実家は相続放棄できるのか
相続財産の中に、誰も住む予定がない田舎の実家が含まれていると、思い切って手放そうと、相続放棄を考える方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、田舎の実家の相続放棄について解説します。
1.田舎の実家だけを相続放棄することはできない
相続放棄をすると、全ての財産についての相続権を放棄することになります。特定の財産のみの相続放棄はできないので、田舎の実家だけを相続放棄することはできません。一度裁判所に申述を受理されると取り消すことができないため、相続放棄を選択するかどうかは、遺産全体を把握した上で慎重に判断することが大切です。
2.自分も住んでいる場合は相続放棄をしても保存義務がある
これまでは、相続放棄をしても、相続人だった人は全員、田舎の実家の管理義務を負うこととされていました。
しかし、2023年4月に施行された改正民法により、被相続人と一緒に住んでいた相続人のみ、相続放棄をしても元々住んでいた家の保存義務を負うことに変更されています。
保存義務とは、「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存」することです。相続放棄が認められたとしても、元々住んでいた家を出て、空き家にして放置することは認められません。
3.保存義務も放棄したければ相続財産清算人の選任が必要
被相続人と田舎の実家に同居していた方は実家の保存義務を負うことになりますが、半永久的に負わねばならないわけではありません。相続財産清算人を選任すれば、保存義務はなくなります。相続財産清算人とは、相続財産の管理や保存、清算を行い、財産が残れば国庫に帰属させる役割を担う人のことです。相続財産清算人を選任してもらうには、家庭裁判所に申し立てを行い、予納金を収める必要があります。
田舎の実家を相続したらどうなる?
田舎の実家を相続してしまったら、どのようなことが起こるのでしょうか。ここでは、田舎の実家を相続した場合に所有者が負うことになる義務について説明します。
1.2024年以降は必ず相続登記をしなければならない
2024年4月1日以降は、改正民法により相続登記が義務化されます。相続によって不動産を取得した人は、相続した日から3年以内に相続登記手続きを行わなければなりません。正当な理由なく、登記せずに放っていた場合は、10万円以下の過料という罰則も設けられています。
また、2024年3月31日以前に相続で取得した不動産については、法改正日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
どのタイミングで相続した不動産であれ、相続登記の手続きは必ず行わなくてはならないのです。
2.定期的に訪問管理しなければならない
人が住まず、空き家状態になった建物は劣化するのが早いです。劣化した建物は、資産価値が下落し、売却時に不利になります。
また、盗難や火災に遭うリスクがあるほか、倒壊の危険性が高まる場合もあり、近隣住民に迷惑をかけるかもしれません。
そのような事態を避けるためにも、相続した田舎の実家には定期的に訪問し、適切に管理する必要があります。
3.毎年、固定資産税を支払わねばならない
誰も住んでいなくても、不動産には毎年必ず固定資産税が発生します。自分も住まず、何の活用もしない場合、無駄なお金を支払い続けることになるでしょう。
さらに、管理が不十分であるために、自治体から「特定空き家」に指定されると、住宅用地特例が適用されず、固定資産税は6倍になるので注意が必要です。
田舎の実家を相続したら早めに売却すべき
誰も住まず、活用もしない田舎の実家を相続した場合、早めに売却するのが賢明です。その理由について説明します。
1.所有していると税金や維持費用がかかる
田舎の実家を所有し続けると、固定資産税や修繕費などの維持費用がかかります。
更地にすれば建物の固定資産税と維持費用を節約できますが、建物がなければ住宅用地特例は適用されないため、固定資産税は増額します。
2.特例によって3,000万円が控除される
「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」を活用すれば、田舎の実家を売却した際にかかる譲渡所得金額から、最大で3,000万円の控除を受けられます。この特例が適用されるには、2016年4月1日から2023年12月31日までの間の売却で、さらに以下の要件を満たす必要があります。
【不動産について】
- 昭和56年5月31日以前に建てられた建物
- 区分所有建物登記がされていない
- 相続開始直前に被相続人以外に居住していた人がいない
【売却について】
- 相続または遺贈によって取得した人が売却人であること
- (建物の場合)相続時から売却時まで、賃貸に出したり誰かが居住したりしていなかったこと
- (建物の場合)売却時に一定の耐震基準を満たしていること
- (土地の場合)相続時から売却時、または取り壊してから売却時までの間、貸したり居住用に使われたりしなかったこと
- (土地の場合)取り壊しから売却時まで建物や構築物の敷地として利用されなかったこと
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- 売却代金が1億円以下であること
- 売却した不動産が他の特例を受けていないこと
- 同一の被相続人から相続や遺贈で取得した他の不動産で、この特例の適用を受けたものがないこと
- 売却先が親子や夫婦など特別の関係がある人ではないこと
田舎の実家を売却できない場合はどうする?
活用用途があまりない田舎の実家は、なかなか売却できないことも多いでしょう。そのような場合はどうすればよいのでしょうか。売却できない場合の対処法について説明します。
1.不動産会社に買い取ってもらう
なかなか買い手が見つからない場合は、不動産会社に直接買い取ってもらうという方法があります。第三者に売却するよりは、売却金額は低くなる傾向にありますが、早期に確実に処分できるため、なかなか売れない場合には検討する価値があるでしょう。
2.活用できないか検討する
実家がなかなか売れない場合は、売るのではなく、他に有効な活用方法がないか検討してみるのもよいでしょう。別荘として活用すれば、立地によっては趣味を楽しみやすくなるかもしれません。自分たちが使わないなら、知人や親戚に有料で貸し出すのもよいでしょう。
更地にした場合は、事業用の借地として活用できる可能性もあります。大きな売上は期待できないかもしれませんが、固定資産税の支払いの足しにはなるはずです。
3.寄付する
売却できず、出費だけがかさむなら寄付するのも一つの方法です。一般財団法人やNPO法人の中には遺贈や相続財産の寄付を受け付けている組織もあります。ただし、みなし譲渡所得税が発生することには注意しましょう。
また、隣人などの個人に寄付するのもよいでしょう。隣接する不動産であれば、他に寄付するよりも活用してもらいやすいはずです。ただし、個人への寄付の場合は、寄付された側に贈与税が発生します。また、所有権移転登記が必要となる点にも留意しておきましょう。
4.解体して土地を国庫帰属にする
建物を取り壊して更地にした場合、令和5年4月27日に開始した「相続土地国庫帰属制度」を利用して、相続した土地を国に引き取ってもらえる可能性があります。
ただし、この制度を利用するためには審査手数料や負担金を納付しなければならず、一定の要件を満たす必要があります。
しかし、所有を続ける限り半永久的にかかる手間や費用を考えると、利用した方がよいケースもあるでしょう。検討する場合は、法務省公式サイト内の以下の申請の手引きを参考にしてください。
参考URL:相続土地国庫帰属制度のご案内(法務省公式サイト)
また、建物の解体は処分行為に該当します。相続財産の処分行為を行うと、単純承認をしたとみなされるため、相続放棄ができなくなるという点には注意してください。
田舎の実家の相続について迷った場合の判断基準
田舎の実家を相続するか、相続放棄するか迷った場合はどのように判断すればよいでしょうか。
相続するか、相続放棄をするかを判断するためには、まず他の相続財産とのバランスを確認してみましょう。田舎の実家にかかるコストを他の相続財産分で賄えるかを判断します。ほかにも売却や活用ができるかどうか、相続土地国庫帰属制度を利用できるかどうかも検討し、最終的な判断を下すとよいでしょう。
ただし、専門的な知識がないと、これらの判断を適切にすることは難しいため、専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、田舎の実家は相続放棄できるのかどうか、田舎の実家を相続したらどうなるか、田舎の実家を相続したら早めに売却すべき旨、売却できない場合の対処法、田舎の実家の相続に関するFAQなどについて解説しました。
田舎の実家を相続すると、相続人に手間や費用がかかるので、可能な限り早く売却することが望ましいでしょう。
しかし、需要があまりなく、売却が難航するケースも珍しくありません。その場合は、活用や寄付など他の方法を検討することになりますが、一筋縄ではいかないケースもあります。「最初から相続放棄をした方がよかった」などと後悔することがないよう、田舎の実家の相続について迷った場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。田舎の実家の相続に関する相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一