遺産に不動産が含まれる場合、相続人の間で不動産の相続を巡ってトラブルが起きることは少なくありません。実際、相続を巡るトラブルを経験した人のうち8割近くが、「遺産に不動産が含まれていた」と回答したというデータもあります。
相続を巡るトラブルを回避するためには、事前に典型的なトラブルの事例と対処法を知っておくことが大切です。
今回は、不動産相続を巡る典型的なトラブルの事例と対処法、トラブルを回避するための対策などについて解説します。
不動産相続を巡るトラブルは多い
一般社団法人相続解決支援機構が2022年10月に実施したアンケート調査の結果によると、相続トラブルを経験した人のうち、8割近くの人が不動産を相続していました。
さらに、不動産相続がトラブルの原因であったと回答した人は、そのうちの40%以上でした。これは、不動産は財産としての価値が高いうえ、分割が難しいことが原因と考えられます。
参考URL:「相続トラブルに関する調査(2022年)」(一般社団法人相続解決支援機構)
不動産相続を巡る10の典型的なトラブル事例と対処法
不動産相続を巡るトラブルを回避するためにも、典型的なトラブル事例とその対処法を知っておくことが大切です。典型的な10の事例と、それぞれの対処法について説明します。
1.誰が不動産を相続するかで揉める
不動産は価値の高い財産であるため、誰が相続するかで争いになるケースは多いです。他の相続人が納得できない理由で不動産の取得を強く主張する相続人がいると、いつまでも遺産分割協議がまとまりません。主張されることが多い理由と対処法について説明します。
① 「長男だから」という理由で取得を主張する
「実家不動産は長男である自分が当然相続すべきだ」と主張する方がいらっしゃいますが、これは何の法的根拠もなく、相続の理由になりません。遺産分割における相続人の権利は平等です。
【対処法】
他の相続人が説得しても本人が主張を曲げない場合は弁護士などの専門家に相談したり、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたりするとよいでしょう。第三者に法律を根拠として説得することにより、本人が受け容れざるを得なくなり、解決できる可能性が高くなります。
② 寄与分を主張する
「長年親の面倒をみたから」「自分がほとんど一人で介護をしたから」などと寄与分を根拠に不動産を相続する権利を主張する相続人がいて、話がまとまらないケースも多いです。寄与分とは、被相続人の財産の増加や維持に貢献した人が、他の人よりも多く遺産を分けてもらえることをいいます。
しかし、寄与分の主張は容易に認められるものではありません。証拠が必要になりますし、どれくらいの金額に相当するのかという算出も難しいからです。
【対処法】
専門知識がないと難しい議論であるため、弁護士などの専門家に相談するか、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることをおすすめします。
2.不動産の平等な分割の仕方がわからない
不動産は分割が難しい財産です。土地であれば分筆できますが、それでも完全な平等性を実現するのは難しいでしょう。建物であればなおさら分割は困難です。
【対処法】
一般的な不動産の分割方法として以下の4つが挙げられます。どの方法を取るかは相続人全員で協議して決めましょう。どの方法が適切なのかわからない場合は専門家に相談することをおすすめします。
- 現物分割:不動産をそのままの形で分割する方法
- 代償分割:特定の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払う方法
- 換価分割:不動産を売却し、売却金を分配する方法
- 共有:相続人全員の共有名義にする方法
3.不動産の評価額について揉める
遺産分割をする前には相続財産調査を行い、それぞれの評価額を算定します。不動産の評価額の算出方法には、地価公示価格、実勢価格、路線価、固定資産税評価額の4種類があり、どの方法を用いて求めるかで金額が異なります。そのため、どれを用いるかで揉めるケースは多いです。
【対処法】
相続人同士では話がまとまりそうになければ、弁護士などの専門家に相談するか、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てましょう。
4.不動産を取得した人が代償金を支払わない
代償分割では、特定の相続人が他の相続人に代償金を支払うことで不動産を取得します。しかし、代償金を用意できずにトラブルに発展するケースも少なくありません。
【対処法】
弁護士に相談するか、家庭裁判所に遺産に関する紛争調整調停を申し立てて解決を図りましょう。
5.誰も相続したがらない
「立地や環境が悪く、活用や売却が難しい」、「維持するためにお金がかかる」などという理由から、誰も不動産を相続したがらないケースもあります。相続人同士で、お互いに押し付け合って争いになる場合も少なくありません。
【対処法】
不動産業者に相談してみましょう。プロに相談すれば、自分たちでは思いつかなかった活用方法を提案してもらえたり、売却先を見つけてもらえたりする可能性があります。
また、2023年4月から始まった「相続土地国庫帰属制度」を活用するのもよいかもしれません。条件を満たせば、国に土地を引き取ってもらえる可能性があります。詳しくは法務省の公式サイト内の以下のページをご参照ください。
他に財産がなければ、相続放棄を検討するという方法もあります。ただし、相続放棄を選択するかどうかは慎重に判断する必要があり、専門家に相談のうえ判断するのが望ましいでしょう。
参考URL:相続土地国庫帰属制度について(法務省公式サイト)
6.前の代で相続登記がされていなかった
「不動産登記簿謄本を確認したら、名義人が祖父のままだった」というケースもよくあります。相続登記は義務ではないため、前の代の相続で登記をしないまま放置してしまったのです。
【対処法】
この場合は、前の代にさかのぼって登記手続きを行う必要があります。しかし、前の代の遺産分割協議書まで作成する必要があったり、入手困難な書類があったりするために、容易に進められないケースも多いでしょう。自分たちで行うのが難しいと感じたら、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
また、2024年4月1日より不動産の相続登記は義務化されます。相続によって不動産を取得した日から3年以内に手続きをする必要があるため、注意しましょう。
7.空き家のまま放置してしまう
「思い出がたくさん詰まった実家を残しておきたい」といった理由から、誰も活用しないにもかかわらず不動産を残して空き家にしてしまうケースもあります。誰も住まないと、家は急速に老朽化が進みます。また、放火などの犯罪が起きたり、ネズミなどの害獣の住処になったりするなどして周辺住民に迷惑をかける恐れもあるでしょう。
さらに、自治体によって「特定空き家」に指定された場合、固定資産税が6倍になります。
【対処法】
感傷的な気持ちを早めに切り替え、合理的な判断を下すことが大切です。不動産会社に相談して、売却や活用などの方法を検討しましょう。
8.相続税を支払えない
遺産に不動産が含まれていると、相続税が基礎控除額を超え、多額の税金を納めなければならないケースも多いです。相続税は、相続発生から10ヵ月以内に、現金で一括で支払わなければならないため、納税資金を用意できずに困ることも少なくありません。
【対処法】
納税資金がない場合の対処法としては、以下の4つが挙げられます。
- 延納する(要件を満たせば年払いできるが、担保の提供が必要)
- 物納する(延納できない場合に、不動産や船舶などの物で納める)
- 不動産を売却し、売却金で納税する
- 金融機関から融資を受ける(相続税用のローン商品のある金融機関もある)
9.売却時に発生した譲渡所得税の負担で揉める
不動産を売却すると、譲渡所得税がかかります。遺産分割当初に想定していなかった支出が発生したことで、その負担を巡って争いが起きることもあるでしょう。
また、譲渡所得税は、売却金を受け取った人に対して請求されます。そのため、特定の相続人が代表で売却手続きを行った場合、他の相続人に請求できない可能性があるでしょう。
【対処法】
本来、遺産分割協議の時点で取り決めをしておくことが望ましいです。譲渡所得税の負担は、相続分に応じて按分するのが一般的であるため、遺産分割協議書にその旨を記載しておくとよいでしょう。
遺産分割協議後である場合は、売却金の分配をまだ行っていないなら売却金で調整するとよいでしょう。既に分配してしまった場合は相続人同士で話し合って調整しましょう。
10.固定資産税や維持管理費の負担でもめる
不動産はそのままにしておくと、固定資産税や維持管理費がかかります。複数の相続人で共有する場合は、これらの費用の負担を巡ってトラブルになる可能性があるでしょう。
【対処法】
遺産分割協議の際にこれらの費用負担をどうするか決めておくことが望ましいです。決めていなかった場合は、早急に相続人同士で話し合って決めましょう。
不動産相続トラブルを防ぐために今からできる3つの対策
不動産相続でのトラブルを回避するには、親の生前から対策をしておくことが望ましいでしょう。具体的には以下のような対策を講じておくと有効です。
1.遺言書を作成する
遺言書を残しておけば、その内容が優先されます。そのため、相続人の間の争いを避けられる可能性が高いでしょう。
ただし、法律で決められた形式に従って作成しなければ、無効になる可能性があるため、注意が必要です。弁護士などの専門家に相談しながら作成するか、公証役場で公正証書遺言を作成するとよいでしょう。
2.不動産の処分を検討する
不要な不動産や、誰も相続したい人がいない不動産がある場合、生前に処分することを検討しましょう。現金化しておくことで、分割しやすくなり、相続人同士の争いを回避できます。
ただし、相続税が高くなる可能性もあるため、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
3.家族みんなで話し合う
家族全員で相続について話し合っておくことも効果的な対策の一つです。それぞれの希望を聞いたうえで相続方法を決めておけば、全員が納得できる相続を実現できる可能性も高まります。
まとめ
今回は、不動産相続はトラブルが起こりやすいこと、不動産相続でよくある10のトラブル事例と対処法、不動産相続トラブルを防ぐために今からできる対策などについて解説しました。
遺産に不動産が含まれる相続では、相続人同士のトラブルが起きやすいです。トラブルを避けるためには、あらかじめ起こりやすいトラブル事例と対処法を知り、対策を講じておくことが大切です。
既に相続人同士のトラブルが発生している場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。「不動産をどのように相続するべきかわからない」「相続した不動産を売却すべきか迷っている」などという相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一