「不動産は相続対策として有効」と聞き、不動産を購入してみようかと考えている方もいらっしゃるでしょう。たしかに、不動産で相続すれば、同額の現金で相続するよりも相続税は安く済みます。相続税評価額を大幅に引き下げられる特例もあるので、適切に活用すれば大きな減税効果を得られるでしょう。
ただし、あからさまな相続税対策は、税務署に見抜かれてしまいます。相続対策に適した物件を慎重に選び、適切な対策をすることが大切といえるでしょう。
今回は、不動産が相続対策に有効な4つの理由、相続対策に適した不動産の3つの特徴、相続対策のために不動産を購入する場合の注意点、現在所有している不動産に有効な相続税対策などについて解説します。
不動産が相続対策に有効な4つの理由
相続税のことを考えると、財産は現金のまま渡すよりも、不動産を購入した方が有利です。その理由として、以下の4つのことが挙げられます。
1.相続税評価額は時価よりも低い
相続税評価額とは、相続税を計算する際に用いる、遺産の価額のことです。財産の種類によって評価方法が決められており、それに従って算出します。
不動産の相続税評価方法は以下のとおりです。
- 土地の相続税評価額=路線価×面積、または、固定資産税評価額×国税庁の定める評価倍率
- 建物の相続税評価額=固定資産税評価額
このように、不動産の相続税評価には路線価や固定資産税評価額が用いられますが、これらの価額は実勢価格の7~8割程度に設定されています。
たとえば、実勢価格が1億円の土地を購入したとしても、相続税評価額は7,000~8,000万円程度となるのです。同じ額を現金で所持していれば、相続税評価額はそのままの額であるため、同額の不動産を購入することによって2,000~3,000万円分得をする計算になります。
2.賃貸物件の場合は相続税評価額はさらに下がる
賃貸物件の場合は相続税評価額がさらに下がります。賃貸不動産の相続税評価額の計算式は以下のとおりです。
- 貸家建付地の相続税評価額=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
- 賃貸用建物の相続税評価額=固定資産税評価額-(固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合)
上記の計算式中のそれぞれの値は以下のとおりです。
- 借地権割合:地域によって異なり、国税庁公式サイト内の「路線価図・評価倍率表」で調べることが可能
- 借家権割合:全国一律で30%
- 賃貸割合:賃貸されている部屋の面積の合計÷建物の床面積の合計
たとえば、自用地評価額が1億円の土地で、固定資産税評価額が8,000万円の賃貸マンションが遺産として残された場合を考えてみましょう。借地権割合は70%、入居率は100%とします。この場合、土地、建物の相続税評価額は以下のとおりです。
土地の相続税評価額=1億円×(1-0.7×0.3×1)=7,900万円
建物の相続税評価額=8,000万円-(8,000万円×0.3×1)=5,600万円
賃貸物件でなければ、相続税評価額の合計が1億8,000万円となるところが、合計1億3,500万円となり、4,500万円下がります。
3.借り入れにより相続税評価額の総額が下がる
相続税の課税対象となるのは、預金や不動産などのプラスの財産だけではありません。借入金などマイナスの財産も含めた額も対象です。
たとえば、現金2,000万円を所持している人が、5,000万円の不動産を購入するために、3,000万円の借り入れをし、相続発生時に借入額がそのまま残ったとしましょう。不動産の評価額は時価の8割である4,000万円とします。この場合、相続税の課税対象となる相続税評価額の合計額は、4,000万円-3,000万円=1,000万円です。
不動産を購入せずに現金で所持していた場合、相続税評価額は2,000万円なので、1,000万円分も相続税評価額を下げることができます。
4.お得な特例を適用できる
居住用の宅地や賃貸事業用の土地の相続には小規模宅地の特例を適用できます。この特例は、自宅用の土地なら80%、賃貸用の土地なら50%、相続税評価額を減額できる制度です。その節税効果は非常に大きく、現金で所持しているよりも大幅に得できるでしょう。
相続対策に適した不動産の3つの特徴
相続対策のために不動産を購入する際は、相続対策に適した物件を選ぶことが大切です。相続対策に適した不動産には、以下のような特徴があります。
1.相続税評価額が時価より低い
不動産が相続対策として有効な理由の一つは、時価に比べて相続税評価額が低いことです。つまり、時価と相続税評価額との差が大きいほど、大きな節税効果を得られます。
そのため、相続対策のために不動産を購入する際は、以下の条件を満たす不動産を狙うとよいでしょう。
- 都心部など人口の多いエリアにある
- 駅から近いなど交通の便がよい立地
- 道路に接している部分が多い、接している道路の幅が広いなど接道条件がよい
- 長方形や正方形など形の整った土地
都心部では、一般的に借地権割合も高く設定されているので、賃貸用としても有利です。
2.利回りが良く収益性が高い
相続人が不動産を所有し続ける場合、収益性の高さは重要です。家賃収入は、借入金の返済や固定資産税などの納税資金、管理費や建物の修繕費に充てなければなりません。収益を確保しなければ赤字経営になり、相続人が経済的な負担を負うことになります。
相続対策のために不動産を購入する場合の注意点
相続税を節税するために不動産の購入を検討している場合、以下の点に注意しましょう。
1.税務署に認めてもらえないことがある
不動産の購入が「明らかに相続税対策である」「被相続人の意思によるものではない」などと税務署に判断された場合、認めてもらえないケースがあります。被相続人がかなりの高齢である場合や、認知症を発症して判断能力が低下している状態で購入したことが発覚した場合、時価を課税対象とされてしまう可能性があるので注意が必要です。
2.相続税の申告後すぐに売却しない
通常、相続税の申告から1~2年以内に税務署による税務調査が行われます。その時点で、不動産が売却されていれば、相続税対策のために購入したとみなされてしまうでしょう。
税務調査は、相続税の申告から5年の間は行われる可能性があります。不動産を売却する場合は、時期に注意することが大切です。
3.不動産経営に苦戦することがある
賃貸不動産の場合は、入居者を集められず、空室の状態が続いて赤字経営に陥るリスクもあります。赤字経営が続くと物件を所有し続けるのが難しくなり、相続発生前に売却せざるをえなくなる可能性もあるでしょう。そのため、不動産の購入を検討する際は、収益性についてしっかり確認することが大切です。
4.すぐに売却して手放せるとは限らない
相続後に売却したいと考えても、すぐに売れるとは限りません。売却できなければ、経費がかかるばかりで大変な思いをする可能性もあります。不動産の購入を検討する際は、流動性についても確認しましょう。
5.相続人同士で争いが起きることがある
不動産は公平に分割することが難しい財産です。売却をして現金化すれば分割しやすくなりますが、税務調査があるため、相続後すぐに売却することはリスクが伴います。
特に遺産が不動産しかなく、相続人が複数いる場合は、相続人の間で遺産分割を巡る争いが起きやすいでしょう。
不動産以外の財産を用意する、遺言書を残すなど、相続人同士の争いを防ぐための対策も講じておきたいところです。
6.相続税の納税資金がなくなることがある
相続税は原則として現金で納付しなければなりません。そのため、不動産の購入によって、現金をほとんど残せなければ、相続人は相続税の納付に苦労することになるでしょう。
相続税の支払いのための現金を残しておく、または換価できる他の財産を残しておくなど、納税資金についても考慮する必要があります。
現在所有している不動産に有効な相続税対策
現在所有している不動産についても、適切に対策をすることで相続税を節税できます。
1.親子で同居を始める
親子で同居すると、小規模宅地の特例の適用対象になり、相続税の節税対策になります。
小規模宅地の特例の適用対象となるのは、以下のいずれかに該当する人です。
- 被相続人の配偶者
- 被相続人と同居していた親族
- 被相続人と別居していた親族で、過去に持ち家に住んだことがない人
2.配偶者に贈与する
夫婦間で居住用不動産や、居住用不動産の購入資金の贈与をした場合は、贈与税の基礎控除額である110万円に加えて、最高2,000万円の控除を受けられます。
この制度を利用して生前贈与をすれば、遺産総額を減らすことにより効果的な相続税対策ができます。
3.相続時精算課税制度で生前贈与をする
相続時精算課税制度とは、生前贈与を受けた人が納めるべき贈与税を2,500万円まで控除される制度です。相続発生時には、その財産の贈与時点の評価額を相続財産に含めて相続税を計算します。
そのため、贈与時点よりも、相続発生時に価値が上昇している可能性の高い財産に適した方法といえます。
4.更地や空き家は収益物件として活用する
賃貸用不動産は、居住用不動産よりも相続税評価額が低くなります。更地や空き家など、誰も利用していない不動産を所有している場合は、収益物件として活用することを検討するとよいでしょう。
まとめ
今回は、不動産が相続対策に有効な4つの理由、相続対策に適した不動産の3つの特徴、相続対策のために不動産を購入する場合の注意点、現在所有している不動産に有効な相続税対策などについて解説しました。
不動産は、相続税評価額が時価よりも低く設定されていますし、節税対策に有効な特例が設けられているので、適切に活用すれば相続対策として非常に有効です。
しかし、収益性が低い、売却が難しいなどのリスクもあるため、相続対策用に物件を購入するなら、適した物件をしっかりと見極める必要があります。税務調査対策も必要なので、確実に節税効果を得るためには、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。不動産の相続対策の相談にも対応しておりますので、お気軽にお問合せください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一