実家を相続したけれど、誰も住まないので解体を検討している方もいらっしゃるでしょう。
しかし「どのような流れで進めればよいのか」「費用はどれくらいかかるのか」など気になる点も多くあるかと思います。
相続した家の解体をスムーズに進めるためにも、家の解体に関する基本的な知識を身に付けておくことが大切です。
今回は、相続した家を解体する場合の流れ、解体するメリット・デメリット、解体にかかる費用相場、解体費用を安く抑えるコツ、解体する際の注意点などについて解説します。
相続した家を解体する場合の流れ
相続した家の解体は、以下のような流れで進めるのが一般的です。
1.まずは不動産登記簿謄本を確認
まずは法務局で不動産登記簿謄本を取得し、所有者や権利関係などの内容を確認します。
「確認するまでもない」と思われる方も多いかもしれませんが、実際に確認してみると、前の代で相続登記がされていなかったり、複数の所有者による共有状態であったりするケースもあります。また、抵当権が設定されたままになっているケースもあります。
そのまま解体を進めてしまうとトラブルになる可能性もあるので注意しましょう。
なお、確認に必要な不動産の登記簿謄本の取得方法は以下のとおりです。
取得場所 | 最寄りの法務局
参考URL:管轄のご案内(法務局公式サイト) |
---|---|
請求方法 | ・法務局で交付申請書を記入し申請
・郵送請求 参考URL:土地,建物の登記事項証明書の郵送請求(鹿児島地方法務局公式サイト) ・オンライン請求 参考URL:登記・供託オンライン申請システム |
取得費用 | ・書面請求の場合:600円(収入印紙で納付)
・オンラインで郵送請求した場合:500円 ・オンラインで窓口交付をうけた場合:480円 |
申請には、対象不動産の地番や家屋番号が必要です。あらかじめ確認しておきましょう。
2.相続人を確認
遺産分割協議を終えておらず、相続登記をしていない状態の場合、家の所有者は法定相続人全員です。解体には相続人全員の同意が必要なので、誰が法定相続人になるのかを調査、確認する必要があります。
相続人調査は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本類を取得して行います。戸籍謄本類は本籍地の役所で取得することが可能で、費用は以下のとおりです。
書類 | 費用 |
---|---|
戸籍謄本 | 450円 |
改正原戸籍 | 750円 |
除籍謄本 | 750円 |
3.解体にかかる費用の見積もりを依頼する
解体業者に見積もりを依頼します。費用は業者によって異なるので、複数の業者に見積りを依頼して比較するとよいでしょう。
4.相続人全員の同意を得る
家の相続人が決まっておらず、相続登記をしていない場合、解体をするには相続人全員の同意が必要です。本当に解体をするのか、解体費用の負担はどうするか、解体後の土地はどうするかなどをよく話し合っておきましょう。
決まった内容は、遺産分割協議書に記載しておきます。家を解体する旨も記載しておきましょう。
5.解体工事を依頼する
家を解体することが決まったら、解体工事を依頼しましょう。
解体工事のために相続登記をする必要はありません。被相続人の名義のまま解体できます。
6.解体後に滅失登記の手続きを行う
滅失登記とは、建物を解体したときに行う登記手続きです。申請は解体から1ヵ月以内に行わなければならず、怠った場合は10万円以下の過料を科せられます。解体後、速やかに手続きをしましょう。
相続した家は解体すべき?メリット・デメリット
相続した家を本当に解体すべきか、迷っている方に向けて、家を解体するメリットとデメリットを紹介します。
1.相続した家を解体するメリット
家を解体するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 管理負担から逃れられる
住まない家を相続すると管理負担が生じます。定期的に清掃をしたり修理などのメンテナンスをしたりしなければなりません。空き家を放置していると、近隣に迷惑をかけるほか、自治体に「特定空き家」に指定され、ペナルティを科される可能性もあるからです。
しかし、相続人が遠方に住んでいる場合などは大きな負担となるでしょう。そのため、家を解体して管理負担から逃れられることは、大きなメリットといえます。
- 売却しやすくなることがある
家を処分するには、売却する方法もありますが、古い建物の場合、なかなか買い手が見つからず、難航する可能性が高いでしょう。建物を解体し、土地だけにした方が売りやすいケースも多くあります。
- 「空き家特例」を適用できる可能性がある
空き家を解体して売却すれば、空き家特例が適用され、売却時の譲渡益に対して最大3,000万円の控除を受けられます。建物を解体せずに売却するよりも、大幅に節税できる可能性があり、大きなメリットといえるでしょう。
ただし、この特例の対象となるには、他にも満たすべき要件があります。要件については、国税庁公式サイトの以下のページで確認してください。
参考URL:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁公式サイト)
2.相続した家を解体するデメリット
家を解体する主なデメリットとして、以下の2つが挙げられます。
- 土地に対して課税される固定資産税が高くなる
住宅が建っている土地には、特例が適用され、固定資産税が最大6分の1になります。建物を解体すれば、この特例の適用を受けられなくなり、固定資産税は高くなってしまいます。売却が難航し、長い期間、納税義務者であり続ける場合は、負担になるでしょう。
- 解体しなくても売れる可能性もある
建物の解体には、当然費用がかかります。しかし、売却時に解体費用の上乗せはできません。そのまま売却できるのに解体してしまうと、損をすることになるでしょう。
ただし、家を解体した方が売却しやすいかどうかは、実際に売却活動をしてみなければわかりません。まずはそのままの状態で売却し、需要がなさそうであれば解体に踏み切るという流れが望ましいでしょう。専門的な知識や経験がなければ判断に迷うことも多いので、不動産業者に相談することをおすすめします。
相続した家の解体にかかる費用相場
解体費用の相場は、構造によって異なります。構造ごとの坪単価と30坪、50坪の場合の費用の目安は以下のとおりです。
構造 | 坪単価 | 30坪の場合 | 50坪の場合 |
---|---|---|---|
木造 | 3~5万円 | 90~150万円 | 150~250万円 |
鉄骨造 | 5~7万円 | 150~210万円 | 150~350万円 |
鉄筋コンクリート造 | 6~8万円 | 180~240万円 | 300~400万円 |
さらに付帯物の撤去費用もかかる場合もあります。正確な額を把握したい場合は、業者に見積もりを依頼するとよいでしょう。
家の解体費用は相続人が支払います。すなわち、遺産分割協議で特定の相続人が相続することになったのであればその方が、それ以外の場合は相続人全員で負担します。
相続した家の解体費用を安くするコツ
解体費用をできる限り安く抑えるには、以下のようなコツがあります。
1.複数の業者に見積りを依頼する
見積もりは複数の業者に依頼して、比較・検討しましょう。金額も大切ですが、それだけで決めてはいけません。安ければ安いだけの理由がある可能性もあります。後から理由をつけて追加で費用を請求する業者もあるため、明細は必ず確認しましょう。不明点は遠慮なく質問し、納得してから依頼することが大切です。
2.自治体の補助金を活用する
老朽家屋解体撤去補助金制度を設けて、古い家屋を解体する際に補助金を支給している自治体もあります。支給額は自治体によって異なりますが、半額以上を負担してくれる自治体も多いので、一度調べてみるとよいでしょう。
3.自分でできることは自分でやっておく
業者に任せなくてもできることは、自分でやっておくと費用を抑えられます。例えば、庭の植木や雑草の処分をしておけば除去費用を負担せずに済みますし、家電などを無料回収業者に引き取ってもらえば処分費用を安く抑えることができるでしょう。
相続した家を解体する際の注意点
後になってトラブルになったり、損をしたりしないためにも、家を解体する際は以下のことに注意しましょう。
1.借地の場合は地主と相談してから解体する
借地の場合は、解体する前に、必ず土地賃貸借契約書で返還の際の取り扱いについて確認しましょう。また、勝手に解体せず、地主に相談してから進めてください。
2.売却する場合は相続登記が必要
解体してからでも、解体せず家付きのままでも、売却するのであれば相続登記をして、所有者を変更しなければなりません。売却は登記名義人しか行うことができないからです。
売却をするなら、解体する・しないにかかわらず必ず相続登記手続きをしましょう。
3.解体費用は相続税の控除の対象にはならない
相続した家を解体するのにかかった費用は、相続財産の評価額とは無関係です。相続税額を算出する際の控除の対象にもなりません。これは、解体費用発生時の家の所有権は相続人であると考えられるためです。
ただし、不動産の売却の際に発生する譲渡所得税の控除の対象になるので、譲渡費用として売却益から控除することは可能です。
4.解体時期は年末を避ける
相続した家を解体するなら、年末を避けることをおすすめします。固定資産税は毎年1月1日時点での状況に基づいて算出されるからです。
家を取り壊してしまうと特例が適用されなくなるため、土地の固定資産税は6倍になる可能性があります。固定資産税を抑えるためにも、1月1日時点では建物付きの土地であることが望ましいといえます。
まとめ
今回は、相続した家を解体する場合の流れ、解体するメリット・デメリット、解体にかかる費用相場、解体費用を安く抑えるコツ、解体する際の注意点などについて解説しました。
相続した家を解体するのがよいかどうかは、それぞれのケースによって異なるので、一概にどちらがよいとはいえません。売却する予定がある場合は、安易に解体に踏み切らない方がよいかもしれません。有利な条件で売却するためには、専門業者に相談しながら進めるとよいでしょう。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。相続した家の解体に関する相談も可能なので、お気軽にお問い合わせください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一