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2024.10.03

取得費加算の特例とは?要件や計算方法、併用可能な特例を解説

取得費加算の特例とは?要件や計算方法、併用可能な特例を解説

相続した家を売却すると、相続税に加えて譲渡所得税を支払わなければならず、負担に感じることもあるでしょう。その負担を軽減するために役立つのが「取得費加算の特例」です。

この特例を利用することにより、売却時に生じる譲渡所得税を減額して、より多くの遺産を手元に残すことが可能になります。併用できる特例も多いので、賢く利用すれば大きな節税効果が期待できるでしょう。

ただし、「取得費加算の特例」はどのような場合でも適用できるわけではなく、3つの要件を満たす必要があります。また、利用する際には注意すべき点もあります。

この記事では、取得費加算の特例の内容、利用するための3つの要件、利用できない場合、取得費に加算できる額の計算方法と計算例、利用する際の注意点、併用できる特例などについて解説します。

取得費加算の特例とは

不動産を売却すると、譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、売却によって得た利益に対して課税される税金です。課税対象となる譲渡所得は以下の計算式で算出されます。

【特例を適用しない場合の譲渡所得の計算式】

譲渡所得=不動産の売却額−(取得費+譲渡費用)

式中の取得費とは、購入費用など、その不動産を手に入れるのにかかった費用のことです。また、譲渡費用とは、仲介手数料や印紙税など、不動産の売却のためにかかった費用を指します。

特例が適用されれば、取得費加算として相続税額の一部を不動産の売却額から差し引けます。その分、課税対象となる譲渡所得を減らせるため、節税効果を期待できるでしょう。

【取得費加算の特例を適用した場合の計算式】

譲渡所得=不動産の売却額−(取得費+譲渡費用)−取得費加算

取得費加算の特例を利用するための3つの要件

取得費加算の特例は、相続不動産の売却であれば、どのような場合でも適用できるわけではなく、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 相続や遺贈によって取得したこと
  2. 取得者に相続税が課税されたこと
  3. 相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に売却したこと

それぞれの要件について説明します。

1.対象財産を相続や遺贈によって取得した

取得費加算の特例を適用できるのは、相続や遺言による遺贈によって取得した財産を売却した場合のみです。被相続人から譲り受けた財産でも、贈与など、別の方法で取得した場合は適用できません。

2.対象財産を取得した人に相続税が課税された

取得費加算額は、すでに納めた相続税を元に計算されます。そのため、相続税が発生しなかったケースでは適用できません。

3.対象財産の売却時期は相続開始から3年10ヵ月以内

この特例が適用されるためには、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に、対象となる財産を売却する必要があります。相続税の申告期限とは、相続開始の翌日から10ヵ月です。すなわち、相続発生から3年10ヵ月以内に売却しなければなりません

4.要件を満たしているかはチェックシートで確認

ご自身のケースで、取得費加算の特例を適用できるかどうかは、国税庁が用意しているチェックシートを用いて確認できます。譲渡所得税を申告する際の確定申告書に添付の必要がある書類でもあるので、早めに取得するとよいでしょう。チェックシートは国税庁公式サイト内の以下のページからダウンロードできます。

参考:相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例チェックシート・措法39条(令和5年分)(国税庁公式サイト)

取得費加算の特例を利用できない場合

以下のような場合は、取得費加算の特例を利用できません。

1.配偶者が相続する場合

対象となる財産を相続したのが配偶者である場合は、この特例を適用できない可能性が高いでしょう。なぜなら、配偶者には相続税の軽減措置が適用され、遺産の額が1億6,000万円か、配偶者の法定相続分に相当する額のどちらか多い金額まで課税されないからです。相続税が発生せず、特例の要件を満たせないために、適用されない場合がほとんどでしょう。

2.法人が取得した場合

遺贈によって法人が取得した財産についても、この特例は適用できません。法人が財産を売却した場合にかかるのは法人税だからです。譲渡所得税は発生しないので、利用できません。

3.生前贈与された財産の場合

原則として、生前贈与された財産の場合は、要件を満たさないため適用できません。しかし、相続時精算課税制度を利用して生前贈与をした場合や、相続開始前7年以内に暦年贈与をした場合で、相続税が発生した場合は対象となります。

取得費に加算できる額の計算方法と計算例

この特例を利用した場合、取得費に加算できる額はどのように計算すればよいのでしょうか。譲渡所得から差し引ける取得費加算分の求め方について解説します。

1.取得費に加算できる相続税額の計算式

取得費に加算できる金額は以下の計算式で算出します。

取得費に加算する相続税額=【その人の支払った相続税額】×【売却した財産の相続税評価額】/(【その人の相続した遺産の相続税課税価格】+【債務控除分】)

2.取得費に加算できる相続税額の計算例

次のような事例の場合、取得費加算額はどうなるか考えてみましょう。

【事例】

2023年6月に父の相続が発生。

5,000万円の不動産の他に1億円分の資産、債務控除はなしの合計1億5,000万円を相続。3,000万円の相続税を支払った。

その後2024年6月に不動産を6,000万円で売却。取得費は不明(概算取得費5%を適用)、譲渡費用は500万円かかった。

【取得費加算分を求める計算式】

取得費に加算する相続税額=3,000万円×5,000万円/(1億5,000万円+0円)=1,000万円

つまり、譲渡所得から通常よりも1,000万円を多く差し引くことができ、譲渡所得税は差し引いた下記の額についてかかるのです。

譲渡所得=6,000万円−(6,000万円×5%+500万円)−1,000万円=4,200万円

譲渡所得税は譲渡所得に税率をかければ求められます。税率は不動産の所有期間によって異なり、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は39.63%、5年よりも長い場合は20.315%です。

取得費加算の特例を利用する際の注意点

確実に取得費加算の特例の適用を受けるためには、以下の点に注意しましょう。

1.適用期限があるため売却は速やかに

取得費加算の特例が適用されるための要件の一つは、相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内、すなわち3年10ヵ月以内に財産を売却することです。「十分な時間があるし、問題なく間に合うだろう」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、不動産の売却には時間がかかります。少なくとも3ヵ月から6ヵ月程度は必要でしょう。

期限が迫った頃に慌てて売却活動を始めても間に合わない可能性があるため、早めに専門業者に相談することをおすすめします。

2.遺産分割協議も速やかに

取得費加算の特例を適用するには、誰が対象となる財産を相続するか決めなければなりません。遺言がない場合は遺産分割協議をして決める必要があり、相続税の申告期限である相続発生から10ヵ月までには話をまとめておくことが望ましいでしょう。

申告期限までに遺産分割協議が成立しなくても、修正申告によって対応できますが、財産の売却もしなければならないことを考えると、早めに進めたほうが安心です。相続人同士で意見が対立する場合は、専門家や裁判所の力を借りて、早めに成立させるように努めましょう。

3.代償分割後の売却の場合は節税効果が減少する

代償分割とは、特定の相続人が遺産である不動産を取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払う方法です。代償分割をした不動産を売却し、取得費加算の特例を適用しようとする場合は取得費加算額に調整が加えられ、節税効果が減少する可能性があります。

取得費加算の特例と併用できる特例

不動産相続や売却においては、高い節税効果の期待できる特例がいくつかあります。取得費加算の特例とも併用できるものもあるので知っておくとよいでしょう。

1.小規模宅地等の特例

小規模宅地の特例は取得費加算の特例と併用できます。ただし、加算する取得費の計算に用いるのは、小規模宅地の特例を適用した後の金額となるため、取得費加算の特例による節税効果は小さくなるでしょう。

また、小規模宅地の特例を利用するには、相続したのが同居の親族や賃貸不動産である場合、相続開始から10ヵ月間は売却できません。特例を併用するには売却のタイミングを図る必要があります。

2.居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除

マイホームを売却した場合に、要件を満たせば譲渡所得から3,000万円を控除できるという特例です。取得費加算の特例と併用できるので、かなり大きな節税効果が期待できるでしょう。

3.居住用財産の買い替え等にかかる特例措置

マイホームを買い替える場合に、要件を満たせば、売却益への課税を将来に繰り延べられる特例です。取得費加算の特例との併用も可能で、うまく組み合わせることで大幅な節税効果が期待できます。

4.取得費が不明である場合の概算取得費5%

譲渡所得を計算する際に必要な取得費がわからない場合に、その金額を売却金額の5%とできるルールです。取得費加算の特例を利用するときも、このルールを適用できます。

5.空き家特例は併用できない

空き家特例とは、空き家を売却した場合に、その譲渡所得から最高3,000万円を控除できるという特例です。取得費加算の特例とは認められていないので、どちらの適用を受けるのが有利か判断する必要があります。判断が難しい場合は、専門家に相談して、アドバイスを受けるとよいでしょう。

まとめ

今回は、取得費加算の特例の内容、利用するための3つの要件、利用できない場合、取得費に加算できる額の計算方法と計算例、利用する際の注意点、併用できる特例などについて解説しました。

取得費加算の特例が適用できれば、譲渡所得税を節税できます。併用できる特例もいくつかあるので、うまく利用することで大きな節税効果を得られるケースもあるでしょう。

ただし、この特例が適用されるには、財産の売却時期に注意する必要があります。特に不動産の売却にはある程度の時間を要するため、早めに専門業者へ相談するのが望ましいでしょう。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。相続した不動産の売却などを検討している方は、お気軽にお問い合わせください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一