遺産相続の流れ
被相続人死亡後に必要な
手続きや期限も解説
「親が亡くなってしまい、相続手続きをしなくてはならないけれど、具体的に何から始めればよいのかわからない」などとお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続手続きをスムーズかつ適切に進めるためには、まずは全体の流れを把握しておくことが大切です。中には期限のある手続きも含まれているので、計画的に進めましょう。
また、自分たちで進めるのは難しいと感じたら、なるべく早い段階で専門家に相談することをおすすめします。後悔しないためにも、早めの相談を心掛けましょう。
この記事では、遺産相続の流れに関する基礎知識、必要な手続きと期日、具体的な進め方などについて解説します。
遺産相続の前に必要な手続きと期日
被相続人が亡くなった後、すぐに遺産相続を開始するわけではありません。死亡届を提出する、お通夜やお葬式などを執り行うなど、悲しむ暇もない程、やるべきことは多いです。
被相続人が亡くなった後にすぐに必要な手続きとその期日について説明します。
死亡届の提出
親族が亡くなったら、7日以内に死亡届を提出する必要があります。提出先は被相続人の本籍地または死亡地、届出人の所在地のある市区町村役場です。届け出用紙は市区町村役場で入手できます。死亡診断書・死体検案書も一体となっているので、医師に記入してもらいましょう。
また、死亡届を提出する際には、併せて火葬許可申請書も提出しておくとスムーズです。火葬許可証は、火葬や納骨などの際に必要な書類で、死亡届と同じ市区町村長によって発行されます。
葬儀社へ連絡
被相続人が亡くなったら、葬儀屋を手配する必要があります。連絡は亡くなった直後など、できる限り早急に行うことが望ましいでしょう。
保険証の返却
保険証に関する手続きは、被相続人が加入していた健康保険の種類によって異なります。
国民健康保険に加入していた場合は、死亡から14日以内に被相続人の居住していた市区町村役場に国民健康保険資格喪失届を提出し、保険証を返却しましょう。
被相続人が会社員や公務員だった場合は、加入していた健康保険組合に届け出る必要があります。資格喪失届の提出や保険証の返却の手続きについては、被相続人の勤務先に確認して下さい。
公的年金の停止手続き
年金の支給停止手続きも必要となります。年金受給者死亡届を年金事務所に提出すれば、手続きを進めてもらえます。
提出期限は加入先によって異なり、国民年金の場合は死亡から14日以内、厚生年金の場合は死亡から10日以内です。
介護保険資格喪失届の提出
以下に該当する場合は介護保険資格喪失届の提出も必要です。
- 介護保険喪失届の提出
-
- 被相続人が65歳以上の場合
- 被相続人が40歳以上65歳未満で要介護・要支援認定を受けていた場合
提出が必要な場合は、死亡から14日以内に被相続人の居住していた市区町村役場に提出します。
なお、市区町村によっては死亡届の提出や介護保険被保険者証の返却だけで対応してくれるケースもあります。被相続人が住んでいた市区町村に確認してみましょう。
公共料金の名義変更
遺産からの余計な支出を防ぐためにも、公共料金の名義変更や解約も早めに行うことが大切です。電力会社やガス会社、水道局に電話で連絡をし、指示に従って手続きを進めましょう。電力会社やガス会社の多くは、ネットで名義変更や解約の手続きを受け付けています。利用していた会社の公式サイトを確認してみるとよいでしょう。
遺産相続の流れ
遺産相続の大きな流れは遺言書の有無で大きく変わります。
遺言書の有無の確認から始まる遺産相続の流れを時系列で説明します。
遺言書の有無の確認
まずは被相続人が遺言書を残していないか確認しましょう。遺言書には大きく下記の二つの種類があり、その種類によって保管方法が異なります。
- 自筆証書遺言:自分で作成し、保管する遺言書
- 公正証書遺言:公証人に作成してもらい、公証役場で保管してもらう遺言書
自筆証書遺言であれば、被相続人が自分で保管場所を決めます。被相続人の生前に保管場所を聞いていれば問題ありませんが、知らない場合は相続人が探さなければなりません。保管場所に決まりはないため、どこを探せばよいか見当がつかないかもしれませんが、よく探してみましょう。よくある保管場所としては、金庫、仏壇、机やたんすの引き出しなどが挙げられます。
また、貸金庫や弁護士など遺言執行者に預けているケースもあるので、心当たりがあるなら確認してみましょう。
一方、公正証書遺言であれば公証役場に保管されています。全国どこの公証役場で保管されていても、遺言検索システムで探すことが可能なので、最寄りの公証役場に問い合わせてみましょう。
有効な遺言書がある場合の流れ
遺言書が見つかったら、以下の流れで手続きを進めます。
遺言の検認手続き
自宅で遺言書を見つけた場合、勝手に開封してはいけません。未開封のまま家庭裁判所に申し立てて遺言の検認手続きをする必要があるからです。検認手続きは、相続人が立ち会いのもと、遺言書の存在とその内容を確認する手続きです。
検認手続きを行うためには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書類を提出して申し立てる必要があります。
管轄の裁判所や具体的な申立書類については、裁判所公式サイトの以下のページでご確認ください。
なお、公正証書遺言の場合、検認手続きは不要です。
参考URL:遺言書の検認(裁判所公式サイト)
遺言の執行
遺言の検認手続きが完了したら、遺言書の内容に従って相続手続きを進めましょう。
遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、指定された人が手続きを進めてください。遺言執行者は必ず選任しなければならないものではありません。しかし、相続人の数が多いなど選任した方がスムーズに進められるケースもあります。必要に応じて選任するとよいでしょう。
ただし、子の認知をする場合や相続人の廃除や廃除の取り消しをする場合は遺言執行者の選任が必要です。裁判所公式サイトの以下のページを参考に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てましょう。
参考URL:遺言執行者の選任(裁判所公式サイト)
有効な遺言書がない場合の流れ
遺言書が見つからなかった場合や、遺言書が見つかっても不備などがあっために無効とされた場合は、以下の流れで進めます。
相続人調査
まずは被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本類を集めて、相続人の特定から始めます。
誰が相続人かは調査しなくても自明だと思われるかもしれませんが、きちんと調べるべきです。遺産分割協議は必ず相続人全員で行う必要があるため、一人でも欠けていれば無効となり、最初からやり直さなければならないからです。
後になって思わぬところから相続人が発覚し、トラブルになるケースも実は少なくありません。
「他に相続人がいるはずはない」などと決めつけずに、相続人調査はしっかり行いましょう。手間がかかって大変な場合は、専門家に依頼するのも一つの方法です。
相続財産の調査
被相続人がどのような財産をどれくらい残したのかわからなければ、相続方法を決められませんし、遺産分割もできません。相続財産の調査を行い、遺産の全容を把握しましょう。
まずは、遺品整理の際に通帳や土地の権利証など財産に関するものを探してください。通帳を見ればお金の動きがわかるので、どのような財産を所有していたかがわかるでしょう。固定資産税が引き落とされていれば不動産を所有していることがわかりますし、配当金の振り込みがあれば株式を持っていることがわかります。
また、郵便物も重要な資料です。請求書やカードの請求明細があればマイナスの財産も調査できます。
さらに、見つかった財産はそれぞれ評価額を算出しなければなりません。預金などは簡単に算出できますが、不動産や株式は評価方法が少々複雑です。遺産の中に不動産や株式などが含まれる場合は、専門家に評価を依頼することが望ましいでしょう。
遺産分割協議
相続人や財産の調査が完了したら、遺産の分割方法について話し合います。相続人全員で遺産分割協議を行いましょう。
協議するといっても全員が一堂に会す必要はありません。遠方に住んでいる、体調が良くないなどの理由で全員が集まるのが難しい場合は、電話やメールなどで個別に協議をしましょう。最終的に全員が合意に至れば問題ありません。
また、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。一人でも欠けていれば無効になるので注意しましょう。
協議で決まった内容は、遺産分割協議書に記載します。遺産分割協議書には、全員が合意した証として、全員の署名、捺印と印鑑証明書の添付が必要です。基本的に全員分を作成し、それぞれが持っておくようにします。
遺産分割協議で相続人の意見が対立して、話し合いによる解決ができない場合は、家庭裁判所に申し立てて、遺産分割調停を行うことになります。遺産分割調停の手続きについて詳しく知りたい方は、裁判所公式サイトの以下のページを参考にしてください。
参考URL:遺産分割調停(裁判所公式サイト)
遺産分割
遺産分割協議で決まった内容どおりに遺産を分割し、相続手続きを進めます。
相続手続きは各人が自分の取得分の手続きをしても構いませんし、相続人代表者が一人で全て進めてもかまいません。
しかし、特に金融機関などでは、代表者が手続きをするのが望ましいでしょう。代表者を決めなければ、手続き書類に相続人全員分の署名、捺印が必要となり、手間がかかるからです。
遺産分割の具体的な方法と手順
遺産分割の具体的な方法を知りたい方もいらっしゃるかと思いますので、財産の種類別に遺産分割の手順をご紹介します。
預貯金払い戻し・名義変更
金融機関で相続手続きをする際は、以下の手順で進めます。
- 金融機関に被相続人が亡くなった旨を連絡する
- 金融機関から手続き書類や必要な添付書類についての連絡が送付される
- 手続き書類に記入、必要書類を揃えて金融機関に提出する
添付が必要な書類は以下のとおりです。
- 預貯金払い戻し・名義変更に必要な書類
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- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の通帳
これらの書類はほとんどの金融機関で希望すれば返却してもらえます。金融機関が複数ある場合は、少々時間はかかりますが、一社ずつ進めるとよいでしょう。
自動車の売却、名義変更
被相続人が自動車を所有していた場合、相続するにしても売却するにしても名義変更をしなくてはなりません。
自動車の名義変更は以下の必要書類を準備し、車を保管している地域を管轄する陸運局で手続きをします。
- 自動車の名義変更に必要な書類
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- 遺産分割協議書
- 自動車検査証
- 車庫証明書
- 被相続人が死亡した旨の記載がある
戸籍謄本類 - 相続人全員の戸籍謄本
- 相続する人の実印
- 相続する人の印鑑証明書
また、名義変更後に売却する場合は、売却先に以下の書類を提出します。
- 自動車の売却に必要な書類
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- 自動車検査証
- 自動車賠償責任保険証明書
- 納税証明書
- リサイクル券
- 印鑑証明書・実印(普通自動車の場合)
不動産の名義変更
不動産を相続する場合は、必ず相続登記手続きをして名義を変更しなくてはなりません。不動産の所在地を管轄する法務局に以下の書類を提出して手続きをします。
- 不動産の相続登記に必要な書類
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- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本類
- 相続人の戸籍謄本
- 相続人の住民票
- 相続人の印鑑証明証
- 相続登記をする不動産の固定資産税評価証明書
- 遺産分割協議書
遺産相続に関する期限と注意点
相続手続きの中には、期限が定められているものがあります。期限を守らなければ不利益を被ったり、ペナルティを受けたりする場合もあるので注意しましょう。
期限が定められている手続きと注意点について説明します。
相続放棄・限定承認は3か月以内
全ての遺産の相続を放棄する相続放棄を希望する場合や、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかわからないために限定承認を選択したい場合は、被相続人が亡くなったことを知った時から3か月以内に手続きをしなければなりません。
期限を過ぎると、全ての財産を相続する単純承認を選択したとみなされます。必ず期限内に、家庭裁判所に申し立てをするようにしましょう。
また、相続財産を勝手に処分したり、消費したりしても単純承認をしたとみなされるので、注意しましょう。
準確定申告は4か月以内
被相続人が自営業者だった場合や、不動産所得などがあって確定申告をしていた場合は、4か月以内に準確定申告を行う必要があります。準確定申告とは、被相続人の代わりに相続人が行う確定申告のことです。
申告期限を過ぎると、加算税や延滞税などのペナルティを課される可能性があるので、忘れずに行いましょう。
相続税の申告は10か月以内
相続税の納付が必要な場合、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に申告しなければなりません。期限を過ぎた場合は、加算税や延滞税を支払わなければならなくなります。どうしても間に合わない場合、未分割の状態かが遺産で申告し、後で修正申告をする方法を取るのが一般的です。
相続税を納付する必要性については、基礎控除額を計算して判断します。相続税の基礎控除額は下記の計算式で求められます。
- 相続税の基礎控除の計算方法
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- 基礎控除額=3,000万円+(600万円×
法定相続人の数)
- 基礎控除額=3,000万円+(600万円×
基礎控除額を超えている場合は、相続税の納付が必要になります。
まとめ
この記事では、遺産相続の流れに関する基礎知識や必要な手続きと期日、具体的な進め方などについて解説しました。
相続手続きは、全体の流れを知って計画的に進めることが大切です。特に遺産分割は、遺言書の有無で、その流れが大きく変わります。有効な遺言書があれば比較的短期間で完了することが多いですが、遺言書がなければ時間や手間がかかるケースも多々あります。
相続手続きの中には期限が儲けられているものもあるので、自分たちで進めるのが難しいと感じたら、なるべく早い段階で専門家に相談しましょう。