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2023.08.30

相続した既存不適格物件は売却できる?活用方法や注意点も解説

相続した既存不適格物件は売却できる?活用方法や注意点も解説

相続した不動産や、相続予定の実家が「既存不適格物件」であることが発覚し、「どうすればよいのだろうか」と不安に思っている方もいらっしゃるでしょう。

「既存不適格物件」とは、建築当初は適法だったけれど、法律等の改正により、現在の基準では不適法となってしまった不動産のことです。違法建築ではないので、相続したとしても必ず是正しなければならないわけではありません。また、売却が禁止されているわけでもありません。ただし、一部の場合を除き、売却は難航するケースが多く、処分に苦労する可能性が高いでしょう。

今回は、既存不適格物件とはどのような物件か、既存不適格物件を相続した場合の是正の必要性、相続した既存不適格物件は売却できるのか、相続した既存不適格物件はどうするのがよいか、相続した物件が既存不適格物件か調べる方法などについて解説します。

既存不適格物件とは

既存不適格物件とは、違法建築とは異なります。どのような物件のことを指すのか、「既存不適格物件」の定義を知っておきましょう。

1.違法建築とは異なり元々適法だった

既存不適格物件とは、建築当時は適法だったけれど、その後の法改正等により、現在の基準では不適法となってしまった物件のことです。元は法に則した建物であった点で、違法建築とは異なります。
「不適格」というネガティブな言葉が含まれるために、よくない印象を受ける方も多いかもしれませんが、法を犯した悪い建築物という意味ではありません。
というのも、法律は時代に即して変わっていくものだからです。建築に係る建築基準法や、自治体の条例も例外ではありません。建物が建築された時から、法律が変わったというだけであり、その意味では、どのような建物も「既存不適格物件」となる可能性があるのです。

2.既存不適格物件となるよくある原因

具体的に何をもって既存不適格物件とされるのでしょうか。よくある原因を紹介します。

① 建ぺい率が超過している

建ぺい率とは、土地の面積に対する建物の割合のことです。都市計画法や条例により定められていますが、その制限が変更される場合もあるために、現在の基準を超過していることがあります。

② 容積率が超過している

容積率とは、土地の面積に対する建物の床面積の割合のことです。建ぺい率と同様、都市計画法や条例の変更により、超過となってしまうことがあります。

③ 高さ制限を超えている

建物の高さについても、都市計画法や条例で定められています。改正により、不適格物件となることがあります。

④ 斜線制限を違反している

斜線制限とは、隣地の日照や通風を確保し、良好な環境を保つ目的で定められた、建物の高さに対する制限です。建築基準法で定められており、道路境界線や隣地境界線からの距離に応じて決められます。

⑤ 接道義務違反である

接道義務とは、建築基準法で定められた「建物を建築する場合は、幅員4m以上の道路に、2m以上接していなければならない」という決まりです。以前は、接する道路の幅員は2.7m以上とされていました。

⑥ 用途違反

都市計画法では、計画的な市街地の形成を目的に、用途に応じて、工業地域や商業地域、住居地域など13種類のエリアに区分しています。基本的に、用途地域に応じた建物しか建設はできません。法改正によって用途地域が変更されるなどしたために、不適格物件が発生しているケースもあります。

⑦ 耐震基準を満たしていない

耐震基準は、1981年に大きく改正されました。改正前の基準を「旧耐震」、改正後の基準を「新耐震」と呼んで区別しています。古い建物は、旧耐震しか満たしていないことが多く、不適格物件となる可能性が高いでしょう。

既存不適格物件を相続しても是正する必要はない

相続不動産が、既存不適格物件であるとわかっても、直ちに改修工事や建て直しをする必要はありません。建築基準法3条2項で定められているとおり、既に存在する建築物や法改正以前に建築中、またはリフォーム工事中だった建物は、改正内容を適用しないとされているためです。改正後の法律に適合していなくても、自治体からの是正命令は、基本的に下りません。
ただし、あまりに危険な状態にあり、倒壊して周囲に被害が及ぶ可能性が高いと判断されれば、撤去や使用禁止などの命令が下される場合もあります。

相続した既存不適格物件は売却できるのか

「実家を相続しても、誰も住まないし売却したい。しかし、既存不適格物件なので売れるだろうか?」などと不安に思う方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、相続した既存不適格物件の売却について解説します。

1.既存不適格物件の売却は禁止されていない

既存不適格物件を売却することは、法律などで禁止されているわけではありません。そのため、法律上の責任などを問われることなく売却可能です。

2.既存不適格物件の売却は難しい理由

既存不適格物件の売却は違法ではないとはいっても、実際には買い手を見つけるのは難しいかもしれません。
その大きな理由は、住宅ローンが組みにくいことにあります。住宅ローンの対象となるのは、現行法に適合した物件のみだからです。不適格物件が対象であれば、審査に通らない可能性が高いでしょう。購入できるのは、現金で支払える人に限られるため、売却先がなかなか見つからないケースが多いのです。
ただし、金融機関によっては、不適格とされる原因次第で審査を通過できるケースもあります。地域差もありますが、一概に住宅ローンがまったく組めないとはいえません。

①既存不適格物件であることは隠せない

不動産の売却は、不動産業者に仲介を依頼して行うことがほとんどです。売却の際、不動産業者による物件調査が行われるため、既存不適格物件であればそのときに発覚するでしょう。
業者が調査した内容は「重要事項説明書」に明記され、売買の際に買い手に提示されます。そのため、買主にも既存不適格物件であることは隠せません。

②高値で売却できる場合もある

都心部など立地条件がよい場所にある建物であれば、既存不適格物件であっても、高額で売却できる可能性があります。需要が大きいと、たとえ古い建物であっても買い手がつきやすいのです。さらに、建て替えが可能な土地であれば、問題なく売れることも多いはずです。

相続した既存不適格物件はどうするべきか

相続した不動産が既存不適格物件であるために、そのままでは売却できそうにない場合はどうすればよいのでしょうか。主な対処法を紹介します。

1.そのまま活用する

既存不適格物件には、是正義務はありません。そのため、そのまま住んだとしても、法的な問題は何もないのです。
ただし、接道義務を満たしていないという理由で既存不適格物件とされる場合は、「再建築不可物件」とされ、建て替えができません。万一、地震や火事などで消失してしまえば、再び建物を建築することはできませんので注意しましょう。

2.建て替える

建て替えをして、現在の法律基準を満たす状態にするのが、最も安心できる方法といえます。ただし、現状よりも建物が小さくなったり、費用が高くなったりする可能性もあるので、専門家や業者によく確認のうえ決めた方がよいでしょう。
また、再建築不可物件でもリフォームはできます。ただし、この場合もリフォーム費用が通常より高くなる可能性が高く、さらにリフォームできる範囲が限られることもあります。よく検討して決めましょう。

3.更地にして売る

築年数が古い物件であれば、取り壊して更地にすることで売却しやすいケースもあるでしょう。ただし、再建築不可の土地であれば、建物を建築できず、活用方法が非常に限られます。そのため、売却が難しくなることも多いでしょう。
また、更地にすれば、建物があった場合と比べて固定資産税が6倍にもなります。思わぬ不利益を被らないためにも、無計画に取り壊すのは避けましょう。

4.買い取り業者に売却する

不動産業者の中には、買い取りが難しい物件を多く扱うところもあります。そのような業者を探して相談してみるのもよいでしょう。

5.空き家バンクを活用する

空き家バンクとは、空き家の売り手と買い手をつなげるサービスで、自治体が運営しています。専用サイトに物件情報を掲載しておけば、買い手が見つかる可能性があります。掲載したからといって、買い手が必ず見つかるわけではありませんが、無料で利用できますので、気軽に登録しておくとよいでしょう。

相続した物件が既存不適格物件か調べる方法

相続した不動産が既存不適格物件なのかわからない場合は、以下の手順で調べましょう。

1.建物の詳細がわかる資料を準備する

まずは、以下の資料を用意してください。

  • 検査済証
  • 確認申請図書

検査済証とは、建物の工事完了後に、建築基準法で定められた基準をクリアしていることを検査のうえ確認したことを示す証明書です。民間の指定調査機関によって発行されます。
確認申請図書とは、着工前に自治体による建築基準法違反がないかのチェックを受けるための申請書類です。受理後に副本の交付を受けているはずですので、探してみましょう。

万一、これらの書類が見つからない場合は、建築計画概要書を役所の窓口で取得すれば代用できます。

2.「現況調査チェックリスト」で違法な点がないか確認する

準備した資料を元に、「現況調査チェックリスト」で現在の法律や条例に違反している点はないか確認してみましょう。「現況調査チェックリスト」は自治体が用意しているもので、各自治体の公式サイトからダウンロードできます。
ただし、専門知識がなければ難しい点も多いため、専門家や業者に相談することをおすすめします。

まとめ

今回は、既存不適格物件とはどのような物件か、既存不適格物件を相続した場合の是正の必要性、相続した既存不適格物件は売却できるのか、相続した既存不適格物件はどうするのがよいか、相続した物件が既存不適格物件か調べる方法などについて解説しました。

既存不適格物件とは違法建築とは異なるため、不適格部分を直ちに是正する必要はありません。そのため、現状のままで活用用途があるなら、相続してもしばらくは特に困ることはないでしょう。
しかし、処分したい場合は、なかなかスムーズにいかない可能性があるので、専門家に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。

特に相続税が発生する場合は、相続税の申告期限に間に合わせるためにも、できるだけ早期に処分したいところです。対処の遅れから困った事態に陥らないよう、早めに専門家に相談することをおすすめします。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。既存不適格物件の相続に関する相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一