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2024.01.29

相続した不動産の取得費とは?売却時に活用できる特例も紹介

相続した不動産の取得費とは?売却時に活用できる特例も紹介

相続した不動産を売却すると、譲渡所得税がかかります。譲渡所得税額を計算するには、まず譲渡所得金額を求める必要があり、以下の計算式で算出します。

譲渡所得=譲渡価格-取得費-譲渡費用

しかし、計算式中の「取得費」とは具体的にどのような費用で、どのように算出すればよいのかわからず、お困りの方もいらっしゃるでしょう。

取得費とは、文字通り不動産を取得したときにかかった費用のことですが、購入代金の他にも登記費用や取得税など、さまざまな費用を含みます。また、建物の場合は減価償却費を差し引かなければならないことにも注意が必要です。

今回は、相続した不動産の取得費と求め方、相続した不動産の取得費に含まれる費用と確認方法、不動産の取得費がわからない場合の対処法、相続した不動産の売却で活用できる特例などについて解説します。

相続した不動産の取得費とは?求め方について

まずは不動産の取得費の概要と求め方について説明します。

1.譲渡所得の計算に用いる

相続した不動産の取得費が問題になるのは、主に相続不動産の売却後に、譲渡所得税の額を計算するときです。譲渡所得税額は、譲渡所得を基に算出し、譲渡所得は以下の計算式で算出します。

譲渡所得=譲渡価格-取得費-譲渡費用

譲渡所得の算出において、取得費の額は重要です。取得費を実際よりも少なく計上すると、余分に税金を支払うことになるからです。税金で損をしないためにも、取得費は正確に算出する必要があります。

2.土地の取得費とは

土地の場合、主な取得費は購入代金です。後述する登記費用や取得税なども含めます。

土地の取得費=購入代金

3.建物の取得費とは

建物の場合、購入代金がそのまま取得費の計算に用いられるわけではありません。建物の購入費用や建築費用から減価償却費を差し引く必要があります。減価償却費は、以下の式で計算します。

減価償却費=購入代金×0.9×償却率×経過年数

計算式中の償却率は、建物の構造によって異なります。構造ごとの償却率は以下のとおりです。

 

建物の構造 耐用年数 償却率
鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造 70年 0.015
れんが造、石造又はブロック造 57年 0.018
金属造

 

骨格材の肉厚4mm超 51年 0.020
骨格材の肉厚3mm超4mm以下 40年 0.025
骨格材の肉厚3mm以下 28年 0.036
木造又は合成樹脂造 33年 0.031
木骨モルタル造 30年 0.034

引用元:「減価償却費」の計算について(国税庁公式サイト)

また、計算式中の経過年数の1年未満の端数については、6月以上であれば切り上げて1年とし、6月未満であれば切り捨てます。

建物の取得費=建物の購入や建築代金-減価償却費

4.不動産の所有期間と税率

不動産売却時の譲渡所得は、対象不動産の所有期間に応じて「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」に分類され、譲渡所得税の税率が以下のように異なります。

概要 税率
長期譲渡所得 売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える 20.315%

(=所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)

短期譲渡所得 売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以内 39.63%

(=所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%)

なお、相続の場合、長期譲渡所得か短期譲渡所得かを決める所有期間の起点は、被相続人が対象不動産を取得した時点です。相続後1年で売却したとしても、被相続人が取得したのが5年以上前だった場合は譲渡所得に分類されます。

相続した不動産の取得費に含まれる費用と確認方法

譲渡所得の計算をする際の取得費に含まれるのは、不動産の購入代金だけではありません。ここでは、取得費に含められる費用と、その金額の確認方法について紹介します。

1.土地や建物の購入代金

前述したとおり、土地や建物の購入代金は取得費に含まれます。金額は売買契約書のほか、工事請負契約書、領収書などで確認できます。

2.所有権移転登記費用

不動産を取得すれば、必ず登記手続きを行う必要があります。その際、登録免許税のほか、司法書士に依頼した場合は司法書士費用がかかります。登記手続きにかかったこれらの費用も取得費に含めることが可能です。司法書士からの請求書や領収書が残されていないか確認してみましょう。

3.不動産取得税

不動産は購入時に、不動産取得税がかかります。被相続人が支払っているはずなので、納税証明書を探して確認しましょう。

4.土地の造成費用や測量費用

土地の埋め立てや地ならしなどの整地をしたり、隣地との境界線を確定するために測量をしたりするなど、購入した土地を適切に利用するために、被相続人が支払った費用は取得分に含められます

実際にかかった費用は、領収書で確認するしかありません。被相続人が保管していないか探してみましょう。

5.建物の取り壊し費用

建物付きの土地を購入し、約1年以内に建物を取り壊した場合、取り壊しは土地の利用のために行われたものと判断されるため、取得費用に含められます。代金の確認は、取り壊し工事に関する契約書や領収書などで可能です。

6.立ち退き費用

被相続人が不動産を取得した際に、賃借人を立ち退かせるなどした場合は、立ち退きにかかった費用を取得費として計上できます。金額は、賃借人からの領収書で確認してください。弁護士に依頼していた場合は法律事務所からの領収書などを探してみましょう。

7.訴訟費用

被相続人が、所有権をめぐって争いのある不動産を購入し、さらに争いが訴訟となった場合、その訴訟費用は取得費として含められます。法律事務所から発行された領収書を探してみましょう。

ただし、訴訟費用でも、遺産分割のための訴訟費用は含められません。対象となる不動産の分割を巡って調停や訴訟を起こしたとしても、取得費用にはならないので注意しましょう。

8.違約金

売買契約締結後に別の不動産の購入を決めて、契約を解除したことで発生した違約金も取得費用に含めることが可能です。金額は売主が発行した領収書で確認できます。

不動産の取得費がわからない場合の対処法

不動産の購入代金など、取得費に含まれる費用は、領収書がなければ確認できません。特に相続した不動産の場合、被相続人が取得してから、かなりの年月が経っているケースも多く、領収書が見つからずに困ることもあるでしょう。

その場合はどうすればよいのでしょうか。対処法を解説します。

1.売却額の5%が原則

不動産の購入価額がわからない場合は、取得費用は売却額の5%で計算するのが原則です。これは譲渡所得額を計算する際に非常に不利なルールといえるでしょう。

たとえば、相続した不動産を5,000万円で売却しても、被相続人の取得額がわからなければ、取得費は250万円にしかなりません。売却額の大部分が課税対象となるため、譲渡所得税の額はかなり大きくなるでしょう。

また、実際の購入価額が売却額の5%を下回った場合でも、このルールが適用されますが、そのようなケースは非常に稀です。

2.合理的な算出方法であれば認められることも

当時の購入価額を推測で算出し、その根拠を合理的に説明できれば、税務署に認めてもらえる可能性もあります。算出方法としては、過去の路線価を調査する方法、登記簿謄本の抵当権に関する情報を調べて当時のローン金額を参考にする方法などが考えられるでしょう。

ただし、不動産に関する専門知識がなければ非常に難しい作業なので、専門家や専門業者に相談しながら進めることをおすすめします。

相続した不動産の売却で活用できる特例

相続した不動産を売却した場合は、特例を適用して節税できることが多くあります。ここでは、相続不動産の売却時に活用できる特例を紹介します。

1.相続税の取得費加算の特例

相続税の一部を取得費に含めることで、譲渡所得税額を抑えることができる特例です。取得費に含められる相続税の額は、以下の計算式で算出します。

取得費加算額=相続税額×(売却した不動産の相続税評価額÷債務も含めた相続した財産の総額)

①相続税の取得費加算の特例を利用するための要件

この特例が適用されるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 適用を受ける人が、相続や遺贈によって対象不動産を取得したこと
  • 対象不動産を取得した人が相続税の課税対象者であること
  • 対象不動産を相続発生の翌日から相続税の申告期限である10ヵ月経過後の翌日以降3年より前に譲渡したこと

②相続税の取得費加算の特例を利用する際の注意点

特例の適用を受けるには、売却期限があることに注意しましょう。

特に相続不動産の場合、遺産分割協議が進まなかったり、他の相続人の協力を得られず、相続登記ができなかったりなどという事情から、なかなか売却できない可能性もあります。そのような場合は、速やかに専門家や専門業者に相談するとよいでしょう。

2.被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

相続した不動産が空き家である場合、相続開始から3年が経過した年の12月31日までに売却すれば、譲渡所得から最大で3,000万円を控除できます。ただし、この特例が適用されるには、さまざまな要件を満たさなければなりません。対象となる不動産の要件は以下のとおりです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された建物である
  • 区分所有建物ではないこと
  • 相続開始直前まで被相続人が一人で居住していたこと
  • 相続開始から譲渡時まで居住用、事業用、貸付用として使用されていないこと

他にも、この特例の適用を受けるための要件があります。詳しくは国税庁の公式サイトの以下のページを確認してください。

参考URL: No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁公式サイト)

まとめ

今回は、相続した不動産の取得費と求め方、相続した不動産の取得費に含まれる費用と確認方法、不動産の取得費がわからない場合の対処法、相続した不動産の売却で活用できる特例などについて解説しました。

相続した不動産を売却すると、譲渡所得税を支払わなければなりません。先に相続税を支払ったこともあり、相続人にとっては重い負担となるでしょう。取得価額をできる限り正確に算出したり、特例を利用したりすることで、少しでも課税対象となる譲渡所得額を低くしたいところです。

また、特例については、この記事では相続不動産の売却時に利用できるもののみを紹介しましたが、他にも不動産売却全般に適用できる特例は多くあります。適切に活用すれば、より高い節税効果を得られる可能性もあるでしょう。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。相続した不動産の取得価額に関するご相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一