「田舎の実家を相続したけれど、空き家のまま放置しても大丈夫だろうか」などという不安を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
空き家を放置すると、地域の方に迷惑をかける可能性があるので、放置せず、適切に対処する必要があるでしょう。
今回は、空き家問題が深刻化している背景、田舎の空き家を放置してはいけない理由、相続した場合にすべきこと、放置しそうな場合の対処法などについて解説します。
田舎の空き家をどうするべきかお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
近年、空き家問題が深刻化している背景
令和6年4月30日付で総務省が公表した「令和5年住宅・土地統計調査住宅数概数集計(速報集計)結果」という資料によると、空き家の件数は年々増加の一途をたどっており、令和5年には全国で900万戸と過去最多になりました。今後も増加が予想されており、2033年には、全住宅の3分の1にあたる2,150万戸にものぼるといわれています。
この背景には、高齢化や人口減少による影響や、実家を子どもが相続した際に適切な対処をしないことなどがあると考えられます。実際、実家を相続しても、遠方に居住していることや、取り壊すのに費用がかかることなどを理由に放置してしまうケースは多いようです。
参考:令和5年住宅・土地統計調査住宅数概数集計(速報集計)結果
田舎の空き家を放置してはいけない3つの理由
田舎の空き家を放置すると、以下の問題が起きるリスクがあります。
1.周辺地域に迷惑をかける
空き家を放置していると、以下のようなことが起きる可能性があります。
- 衛生状態の悪化
- 老朽化による倒壊の危険
- 景観の悪化
- 犯罪の温床になる
建物は、人が住まなくなり、管理や手入れが行き届かなくなると、衛生状態の悪化や老朽化が急速に進みます。湿気がこもったり、雨水が漏れたりすることで腐食が進んだり、排水トラブルなどによって悪臭や害虫が発生したりしやすくなるのです。庭や家の周辺の手入れもされず、景観も悪化するでしょう。さらに不審者に侵入されて犯罪の温床になったり、放火されたりするリスクもあります。
2.倒壊などにより損害賠償責任を負う可能性もある
老朽化が進んだ空き家は、台風や地震などの自然災害で倒壊する危険もあります。その時に万が一、人に怪我を負わせたり、物を壊したりしてしまえば、所有者が損害賠償責任を問われます。数千万円の多額の賠償金を支払わなければならない可能性もあるでしょう。
3.「特定空き家」に指定されると増税や罰則の対象になる
2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」により、自治体は放置されている空き家を「特定空き家」に指定し、対処できるようになりました。特定空き家に指定されると、自治体によって以下のような対処が行われます。
- 助言や指導
- 勧告:住宅用地特例の対象から除外され、固定資産税が最大6倍になる
- 命令:罰則(50万円以下の科料)の対象になる
- 行政代執行:自治体によって適切な措置がされる
自治体からの適切な管理についての助言や指導に従わないでいると、勧告を受けます。住宅用特例の対象外とされ、固定資産税の優遇措置を受けられなくなった結果、最大で6倍もの金額を納めなくてはなりません。
勧告に従わなければ、命令によって罰則を受けます。これは、50万円以下の科料が課せられる厳しい措置です。
それでも放置を続ければ、最終的に行政代執行となり、所有者の代わりに自治体が解体など、適切な措置をします。この場合、解体などにかかった費用は、所有者が負担することになります。
田舎の空き家を相続した場合にすべきこと
空き家を相続したら、適切に管理をすることが大切です。具体的な管理の方法について説明します。
1.定期的な掃除などの管理
衛生状態の悪化や老朽化を防ぐためにも、定期的に換気や掃除をしましょう。建物の異常に早めに気づくためにも、可能であれば月に一度は見回りに訪れることが望ましいです。
また、訪れた際にはご近所へのあいさつも忘れずにしておきましょう。礼を尽くしておくことで、トラブルなどが発生した際に力になってもらえるはずです。
2.メンテナンスやトラブル対応
雨漏りや壁材の剥落など、修繕が必要な箇所を見つけたら、適宜メンテナンスを行いましょう。害虫の発生を防ぐためにも、庭や周辺の草木の手入れも必要です。
また、蜂の巣を作られてしまうなどのトラブルが発生した際には、ご近所への迷惑を最小限にするためにも迅速に対処しましょう。
放置しそうな田舎の空き家の対処法
「実家が遠すぎてあまり通えそうにない」「仕事や日常に忙殺されて、とても適切な管理はできない」など、田舎の空き家を放置してしまう可能性が高い場合は、思い切って手放した方がよいかもしれません。以下の方法を検討しましょう。
1.売却する
実家を手放す場合、最もシンプルな方法は売却でしょう。売却益を得られるだけではなく、維持管理費、固定資産税などの支出も不要になります。また、誰が相続するかについて、兄弟姉妹でもめていた場合は、現金化によって平等な相続が実現しやすくなるでしょう。
さらに、空き家の場合はいわゆる「空き家の特例」を適用できる可能性があり、譲渡所得から最大で3,000万円の控除を受けられます。不動産を売却した際にかかる譲渡所得税を節税できるので、非常に得になる可能性があるでしょう。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁公式サイト)
2.寄付する
エリアや建物の状態によっては、売却が難しいケースもあるかもしれません。その場合は、個人や法人、自治体に寄付できないか打診してみましょう。隣地を所有する個人や法人であれば、有効活用できる可能性もあるため引き取ってくれるかもしれません。ただし、法人の場合は贈与税がかかることに注意が必要です。
一方、自治体への寄付は、良い条件がそろわない限り難しい場合が多いようですが、一度相談してみることをおすすめします。
3.相続放棄をする
相続をする前で、かつ、亡くなった方が多額の借金を残していた場合であれば、相続放棄を選択した方がよいケースもあります。相続放棄をすれば、当然空き家を管理する必要はありません。全員が相続放棄をしても、亡くなった方とその家に同居していない限り、管理義務から逃れられます。
ただし、ご近所の方に迷惑をかけないためにも、できる限り早急に相続財産清算人選任の申し立てを行いましょう。相続財産清算人が選任されれば、亡くなった方の遺産を全て管理、清算してもらえるため、田舎の空き家の対処も任せられます。
相続放棄を選択する場合、特定の遺産の相続だけを放棄することはできません。相続放棄をすると、全ての遺産の相続ができず、撤回もできません。そのため、本当に相続放棄をするべきかどうかは、専門家に相談しながら慎重に検討することをおすすめします。
田舎の空き家を処分できない場合の対処法
田舎の空き家を相続したけれど、売却できず、処分に困っている場合は、以下の方法を検討するとよいでしょう。
1.売却価格を見直す
相場からかけ離れた価格では、家は売れません。なかなか売却できない場合は、設定した価格が適正か見直してみましょう。
ただし、特に田舎では不動産の取引件数が少ないことも多く、相場がわからないケースもあります。その場合は、地元の不動産業者や、地方の物件の取り扱いを得意とする不動産業者などに相談しながら売却を進めるとよいでしょう。
2.リフォームして売却する
築年数が古く、すでに老朽化が進んでいる建物でも、リフォームによって売れる可能性があります。特に近年、古民家風の建物は、若い層を中心に人気があります。
ただし、リフォームには多額の費用がかかるため、地域の事情に詳しい業者などに相談しながら検討するとよいでしょう。
3.更地にして売却する
土地だけであればニーズがある場合もあるので、更地にすることで売却できる可能性もあるでしょう。
ただし、100万〜300万円程度の取り壊し費用がかかる上、建物がなくなると住宅用地の特例を受けられず、固定資産税が増額する可能性があります。更地にすれば、どの程度のニーズを見込めるのか、地元の不動産業者に相談しながら検討しましょう。
4.活用する
売却が難しい場合、活用することを検討してもよいでしょう。古民家や別荘として貸し出したり、ご自身や親族、知り合いで利用したりすることも一つの案です。最近は、地方でのスローライフを望む方が増えているので、案外すぐに借り主が見つかるかもしれません。
5.空き家バンクに登録する
空き家バンクとは、空き家を売りたい方や貸したい方と、買いたい方や借りたい方をつなぐマッチングサービスです。自治体などが運営するWebページに空き家情報を掲載し、興味を持った利用者が問い合わせをするという仕組みになっています。登録料はかからないので、気軽に利用するとよいでしょう。
6.買い取りを検討する
田舎の空き家を確実に手放したい場合は、買い取りを検討するのもよいでしょう。買取価格は相場より3割程度低い金額になりますが、売却するよりも手放せる可能性が高まります。仲介手数料はかかりませんし、契約不適合責任が免除される点もメリットといえます。
ただし、中には不当に安い価格での買い取りを提案してくる業者もいるため、業者選びは慎重に行いましょう。
まとめ
今回は、空き家問題が深刻化している背景、田舎の空き家を放置してはいけない理由、相続した場合にすべきこと、放置しそうな場合の対処法などについて解説しました。
相続した田舎の空き家を適切に管理できず、放置しそうな場合は、思い切って手放すことを検討するとよいでしょう。しかし、エリアや状態によっては売却が難しいことも多く、何らかの対策が必要なケースもあります。なかなか売れずに困った場合は、速やかに不動産業者に相談することをおすすめします。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。放置してしまいそうな田舎の空き家に関するご相談にも応じておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一