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2023.09.12

借地権付き建物の相続の注意点・よくあるトラブルと対処法を解説

借地権付き建物の相続の注意点・よくあるトラブルと対処法を解説

親の遺産に借地権付きの建物が含まれており、「相続はどうすればよいのだろう?」「借地権も相続できるのだろうか?」などという疑問をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

借地権とは、土地を借りて建物を建てる権利のことであり、遺産に含められるので、法定相続人であれば相続できます。そのまま誰かが居住するなどして利用するなら、特別な手続きは必要ありません。通常どおりの相続と同様、相続登記を行い、賃料を支払えば住み続けられます。

しかし、売却処分をしたい場合は、地主の許可や承諾料の支払いなど、少々特殊な手続きを踏まなければなりません。スムーズに進めるためにも、借地権付き建物の相続についての基本事項をあらかじめ知っておく方がよいでしょう。

今回は、借地権とは何か、借地権付き建物は相続可能か、相続した借地権付き建物を売却する方法、借地権付き建物の相続でよくあるトラブルと対処法などについて解説します。

借地権付き建物とは

そもそも「借地権」とはどのような権利をいうのでしょうか。借地権の概要について理解しておきましょう。

1.「借地権付き建物」とは土地を借りる権利の付いた建物

借地権とは、その土地の上に建物を建てることを目的に、土地を借りる権利のことをいいます。「借地権付き建物」とは、建物の建っている土地を借りる権利を付帯した建物のことです。
一口に「借地権」といっても、「借地借家法に基づく借地権」と「民法上の借地権」があり、それぞれ以下のような違いがあります。

  • 借地借家法に基づく借地権:建物所有を目的とするもの
  • 民法上の借地権:建物の所有を目的としないもの

借地権付き建物の場合の「借地権」とは、厳密には前者の「借地借家法に基づく借地権」です。
さらに、「借地借家法に基づく借地権」には以下のような種類があり、借地権付き建物の「借地権」とは、このうちの「賃借権」に該当します。

【借地借家法に基づく借地権の種類】

  • 賃借権:賃料を支払う代わりに、他人の土地を借りる権利
  • 地上権:他人の土地を自由に使用できる権利

2.借地権の3つの種類

建物に付帯する借地権には、さらに次の3つの種類があります。

①普通借地権

一般的に建物の「借地権」というと、この「普通借地権」を指します。平成4年8月に施行された現行の借地借家法によって定められている権利です。
普通借地権の有効期間は貸主と借主の間で契約を締結してから30年ですが、更新によって延長可能です。最初の契約更新後は20年、2回目以降は10年ずつ延長できます。
更新を原則とする権利であり、正当な事由がない限り、貸主は更新を拒否できません
ただし、更新のたびに更新料を支払う場合が多いでしょう。

②旧借地権

平成4年8月以前に借りた土地について適用される、旧・借地借家法に基づいて定められた借地権です。
現行法との大きな違いは、借地権が有効とされる期間です。建物の種類によって以下のように定められています。

建物の種類 契約時に期間の合意がない場合の借地権の有効期間 契約期間の合意がある場合の借地権の最低有効期間
堅固な建物(鉄筋や鉄筋コンクリートなど) 60年 30年
非堅固な建物(木造など) 30年 20年

また、普通借地権の場合と同様、貸主は正当な事由がない限り、契約の更新を拒絶できません

③定期借地権

契約によって、借地権が有効な期間が決められており、更新はできません。そのため、契約期間の満了時には、借りていた土地を更地にして貸主に戻す必要があります。借地権の有効期間は最低50年です。

借地権付き建物は相続できる?相続手続きについて

借地権付き建物も相続財産に含まれます。ここでは、相続の際の借地権の考え方と借地権付き建物を相続する際の手続きについて解説します。

1.借地権付き建物の相続で知っておきたい4つのポイント

相続では、亡くなった方の財産権も相続の対象とされるため、借地権も遺産に含まれます。借地権付き建物の相続にあたって、以下のことを知っておくとよいでしょう。

①相続なら地主の承諾も譲渡承諾料の支払いも不要

借地権付き建物を相続するのが法定相続人であれば、地主の承諾は必要ありません。賃貸借契約書の名義人を書き換える必要も、譲渡承諾料を支払う必要もなく、地主に相続した旨を伝えれば足ります。

②法定相続人以外への遺贈なら地主の承諾と譲渡承諾料の支払いが必要

亡くなった方が、遺言書などによって法定相続人以外の第三者へ借地権付き建物を譲った場合、地主の許可と譲渡承諾料の支払いが必要です。譲渡承諾料の額についての法律の定めはありませんが、一般的に借地権価格の10%程度を支払います。

③賃料の支払いも相続する

相続では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継ぎます。そのため、借地権付き建物を相続すれば、賃料の支払いも相続します。

④借地権も相続税の対象になる

借地権も相続財産に含まれるため、相続財産の総額が、下記計算式で算出できる基礎控除額を超えれば、相続税の課税対象となります。

相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

また、借地権の相続税評価額は以下の計算式で求めます。

借地権の評価額=自用地評価額×借地権割合

「自用地評価額」は、路線価方式または倍率方式で求められます。どちらの方式を採用するかは地域によって異なり、国税庁公式サイトで確認できます。
また、「借地権割合」も地域によって異なり、国税庁公式サイトの路線価図・評価倍率表で確認可能です。
なお、定期借地権の場合は求め方が異なります。算出方法が少々複雑なので、専門家に確認しましょう。

参考サイト:路線価図・評価倍率表(国税庁公式サイト)

2.借地権付き建物の相続手続き

借地権付き建物を相続する場合、下記の手順で手続きを進めます。

  1. 土地・建物の登記簿謄本を取得し状況を確認
  2. 地主に相続が発生した旨を連絡
  3. 借地権付き建物の相続人を決める
  4. 相続登記手続きをする

まずは法務局で、土地と建物の登記簿謄本を取得して権利関係を確認しましょう。借地権付き建物の相続登記は、基本的に建物のみで足りますが、まれに、土地に借地権の登記があるケースもあり、その場合は、土地についても相続登記が必要です。登記の状況を確認するためにも、念のため登記簿謄本を取得しておきましょう。

借地権付き建物を誰が相続するかは、遺言書によって指定されているなら、それに従います。遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行って決めましょう。

相続人が決まったら、法務局に相続登記の申請をして、名義変更します。以下の必要書類を、不動産の所在地を管轄する法務局に提出しましょう。管轄法務局は法務局の公式サイトで調べられます。

  • 【必要書類】
    亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本類
  • 亡くなった方の住民票の除票
  • 相続人全員分の戸籍謄本
  • 借地権付き建物を相続する人の住民票
  • 固定資産税評価証明書
  • (遺産分割の場合)遺産分割協議書、相続人全員分の印鑑証明書
  • (遺言書がある場合)遺言書

参考:管轄のご案内(法務局公式サイト)

相続した借地権付き建物を売却したい場合の注意点

借地付き建物を相続しても、活用の方法がなく、処分を検討することもあるでしょう。ここでは売却する場合の注意点について紹介します。

1.借地権の売却には地主の承諾と承諾料の支払いが必要

借地権付き建物は、勝手に売却してはいけません。地主の承諾が必要です。許可なく売却すると、契約違反となり賃貸借契約を解除される可能性もあるため注意しましょう。
また、売却の際には承諾料を支払う必要もあります。承諾料の額は、譲渡の場合と同じく、借地権価格の10%程度が相場です。

2.売却前には相続登記が必要

借地権付き建物に限らず、相続不動産を売買する際には、相続登記が必要です。売却手続きに入る前に、相続登記をしておきましょう。
また、土地の借地権についての登記がされている場合は、土地についても相続登記をおこなう必要があります。

借地権付き建物の相続でよくあるトラブルと対処法

借地権付き建物を相続するにあたって、地主や相続人同士でのトラブルが起きることもあります。ここでは、よくあるトラブルとその対処法について紹介します。

1.地主から立ち退きや地代の値上げを要求される

地主に相続が発生した旨を告げると、賃借人が変わったことを理由に、立ち退きを求められたり、地代の値上げを要求されたりするケースがあります。
しかし、いずれも応じる必要はありません。相続による借地権の承継に地主の許可は必要ありませんし、賃借人が変わるだけで契約内容は変わらないからです。

ただし、地代の値上げについては、相場よりもあまりにも安い場合は、借地借家法第11条で定められた地代等増減請求権の行使によって認められる可能性もあります。値上げが妥当かわからない場合は専門家に相談しましょう。

2.建物を売却しようとしても地主が許可してくれない

地主と交渉して許可を求めるしかありません。正当な理由がないのに、どうしても許可してもらえない場合は、裁判所に申し立てをして「借地権譲渡承諾に代わる許可」を求めます。

3.地主に借地権の更新に応じてもらえない

貸主は、正当な事由がない限り更新の拒絶はできません。正当な事由がないことを主張し、交渉する必要があります。
しかし、法律に即して的確に主張しなければ、貸主を説得できないこともあるため、自分では難しいと感じたら、早めに専門家に相談することをおすすめします。

4.借地権付き建物を誰が相続するか決まらない

相続人同士での遺産分割協議で揉めそうな場合は、第三者の力を借りる方がよいでしょう。裁判所の遺産分割調停手続きを利用するか、弁護士に依頼して交渉してもらうのが早期解決への道です。揉めごとになる前に、早めに手を打つことをおすすめします。

まとめ

今回は、借地権とは何か、借地権付き建物は相続可能か、相続した借地権付き建物を売却する方法、借地権付き建物の相続でよくあるトラブルと対処法などについて解説しました。

借地権付き建物の相続は、それほど複雑なものではありません。借地権も遺産に含まれるため、少々特殊な点もあるかもしれませんが、複雑な手続きはなく、苦労なく進められるはずです。

ただし、地主がいる分、少々トラブルが起きやすいかもしれません。この記事で紹介した知識を活用すれば、対処できる可能性もありますが、難航するケースも多いでしょう。

もし、トラブルになってしまったら、こじれる前に専門家に相談することをおすすめします。早い段階で専門家の指示の元、対処をすれば、早期解決を図れるはずです。「自分で解決するのが難しそうだ」と感じたら、迷わず専門家を頼りましょう。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。借地権付き建物の相続や、相続を巡るトラブルに関する相談などにも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一