遺産に投資用マンションが含まれている場合の手続きは、基本的に一般的な不動産相続と変わりません。ただし、管理会社や借主などの第三者が関わる点、ローンが残っている場合は金融機関への連絡が必要な点など、注意が必要な点もあります。
今回は、投資用マンションを相続する際の流れや注意点などについて解説します。
投資用マンションを相続するための流れ
投資用マンションを相続する場合、基本的には以下の流れで進めます。
1.誰が相続するかを決める
まずは投資用マンションの相続人を決めなくてはなりません。相続人を決める際、まずは遺言書の有無を確認する必要があります。
- 遺言書があれば遺言どおりに
遺言書が残されている場合は、原則として遺言書の内容どおりに相続します。遺言書は、故人の意思であり尊重されるべきものとして法的効力を持つからです。
そのため、遺言書で投資用マンションの相続人が指定されている場合は、指定された人が相続することになります。ただし、被相続人が認知症であったなど、遺言作成時の判断能力が疑われる場合は、遺言書の無効を主張することもできます。
- 遺言書がなければ遺産分割協議で決める
遺言書が残されていない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、投資用マンションを誰が相続するかを決める必要があります。遺産分割協議では、相続人同士の主張がぶつかり合い、スムーズに進まないことも少なくありません。スムーズに進まない場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
また、相続発生から相続登記完了までに発生する投資用マンションの賃料は、相続財産に含まれるので遺産分割の対象となります。遺産分割協議では、この間の賃料をどうするかについても決める必要があります。
遺産分割内容が決まったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、相続人全員の署名、捺印と印鑑証明書の添付が必要です。相続登記などの手続きでも必要なので必ず作成しましょう。
2.管理会社や借主に連絡する
投資用マンションの相続人が決まったら、管理会社に今後の連絡先を伝えておきましょう。借主から修繕を依頼された時や、解約の申し出があった時に、対応しなければならないからです。
また、相続登記後は、借主に家賃の振込口座を連絡する必要があります。多くの場合、管理会社が賃貸人変更通知書を作成して借主に通知をしてくれます。管理会社を利用していない場合などは、マンションの相続人が借主への通知を行わなければなりません。
3.ローンが残っている場合は金融機関に連絡する
投資用マンションのローンを組む際は、団体信用保険(団信)への加入が必須とされている場合が多くあります。団信とは、ローン返済中に借主が亡くなった場合、生命保険から金融機関へ残高相当分が支払われ、借入残高がなくなるというものです。そのため、相続が発生したら早めに金融機関に連絡する必要があります。
団信に加入していなかった場合、借入残高は債務として相続しなければなりません。抵当権が設定されていることもあり、投資用マンションの相続人が債務も相続する必要があります。債務も引き継ぐ旨の契約をすることになるでしょう。
4.相続登記の手続きをする
投資用マンションの名義変更も必要です。相続登記の手続きをして、所有者を変更しましょう。
①必要書類
相続登記の手続きに必要な書類は以下のとおりです。
- 登記申請書
- 収入印紙(登録免許税分)
- 被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本類
- 被相続人の住民票除票
- 対象不動産を相続する人の住民票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 対象不動産の固定資産税評価証明書
- (遺産分割による相続の場合)遺産分割協議書・相続人の印鑑証明書
- (遺言による相続の場合)遺言書
②費用
相続登記の際に必要な費用は、登録免許税です。登録免許税の額は以下の計算式で算出します。
登録免許税=固定資産税評価額×0.4%
登録免許税は、登記手続きの際に収入印紙で納めます。
- 相続登記手続きの流れ
相続登記手続きは以下の手順で進めます。
1.管轄の法務局へ必要書類を提出して申請
2.法務局による審査
3.登記識別情報通知を受領すれば完了
必要書類を提出するのは、投資用マンションの所在地を管轄する法務局です。管轄法務局は法務局の公式サイトの以下のページで確認できます。
参考URL:管轄のご案内(法務局公式サイト)
相続登記手続きは自分で行うこともできますが、時間と労力を要します。投資用マンションが遠くにある場合や、法務局の開庁時間である平日の昼間に時間をとれない方は、司法書士への依頼を検討するとよいでしょう。相続登記手続きを司法書士に依頼した場合の費用の相場は、5万~8万円程度です。
5.準確定申告をする
被相続人に所得があった場合は、相続の開始を知った日の翌日から4ヵ月以内に準確定申告をする必要があります。準確定申告とは、被相続人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得についての確定申告のことです。準確定申告は、相続人全員で行います。
6.相続税の申告・納税をする
相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に、相続税の申告と納税をしなければなりません。ただし、申告の必要があるのは、相続税の基礎控除額を超えた場合のみです。相続税の基礎控除額は、以下の計算式で求めます。
相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
- 相続税の計算方法
相続税は、相続人ごとに下記の計算式で求めるのが基本です。
各相続人の相続税額=(遺産総額-基礎控除額)×法定相続分×税率-控除額
上記の計算式中の税率と控除額は、下記のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
ただし、これは法定相続分どおりに遺産分割をした場合です。正確な数字は専門家に相談して確認することをおすすめします。
投資用マンションの相続における注意点
投資用マンションの相続においては、以下の点に注意しましょう。
1.共有持ち分にするのは避ける
公平性を考慮して投資用マンションを複数の相続人で共有するケースもありますが、トラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。
不動産運用では、家賃収入のほか、固定資産税や管理費修繕積立金、設備費用など、さまざまなお金の出入りがあります。複数人で所有すれば、その全てをそれぞれの共有持ち分どおりに分配しなければなりません。また、売却するとしても、全員の同意が必要であるため、簡単には処分できなくなります。
2.相続人が決まらなければ売却
遺産分割協議がまとまらず、誰が投資用マンションを相続するか決まらない場合は、売却も視野に入れた方がよいでしょう。
特に不動産の場合、分割の基準となる評価額に絶対的なものはないため、相続人全員が納得できるよう平等に分割するのは難しいです。売却して現金化した方が、平等に分割しやすくなります。
投資用マンションを相続後は売るべきか保有すべきか
投資用マンションを相続すると、収益を得られますが支出も必要になります。そのため、必ずしも保有を続けるのが得であるとは限りません。投資用マンションを売却するか保有を続けるか迷った場合の判断基準について説明します。
1.売却した方がよい場合
以下のような場合は、売却を検討した方がよいでしょう。
・相続税用資金が足りない場合
・所有する部屋が空室だったり、所有する建物に空室が多かったりする場合
・築20年以上経過している建物である場合
まず、相続税用の納税資金が足りない場合は、売却を視野に入れた方がよいでしょう。相続財産に不動産が含まれると、相続税は高くなる傾向にあります。しかし、その不動産を現物で相続すれば、納税用の現金が足りずに困るケースも少なくありません。そのような場合は、売却して納税資金を準備することを検討した方がよいでしょう。
また、区分マンションが空き室である場合や、マンション一棟で空室が多い場合も売却した方がよいかもしれません。収支がマイナスの状態が続き、損をする可能性が高いからです。
さらに、築年数が20年以上の物件の場合、大規模修繕工事が必要となる可能性もあります。十分な積立金が準備できていなければ、出費がかさみ損をすることもあるため、売却を検討した方がよいでしょう。
2.保有を続けた方がよい場合
積極的に保有を続けた方がよいのは、都心部などで、立地が良く入居者が決まりやすい物件です。特に区分マンションの場合、大規模修繕工事が必要になっても、工事費用は区分所有者全員で負担することになるため一人当たりの出費は少なくて済みます。多少築年数の長い物件でも保有を続けて問題ないでしょう。
また、入居者が長く居住してくれる物件の場合も収益率が高いため保有を続けるのがよいでしょう。
3.将来性や運営のしやすさを考慮して決めよう
相続した投資用マンションを売却するか保有を続けるかを判断するポイントは、物件の収益性や運営のしやすさです。
入居者の入れ替わりが多過ぎず安定した収益が上がるか、空室や維持管理費によって負債を負うリスクはないか、将来売却をする際に問題なく売れるかなどをよく検討して決めましょう。
まとめ
今回は、投資用マンションを相続するための流れ、投資用マンションの相続における注意点、投資用マンションを相続後は売るべきか保有すべきかなどについて解説しました。
投資用マンションでも、その相続手順は通常の不動産とあまり変わりはありません。ただし、管理会社にオーナー変更の連絡をしたり、ローンが残っている場合は金融機関に連絡したりなどの手続きも必要です。
また、相続するのではなく売却した方がよい場合もあります。相続人が決まらない場合や、相続税の納税資金が足りない場合などは、積極的に売却を検討するとよいでしょう。相続した場合は、物件の将来性や運営のしやすさを考慮して売却するべきか保有するべきかを慎重に検討することが大切です。
投資用マンションの相続手続きについて不明な点がある場合や、相続人が決まらないなどのトラブルを抱えている場合は、早めに専門家に相談しましょう。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。投資用マンションの相続に関する相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一