遺産である不動産が再建築不可物件であることが発覚し、
「相続しない方がよいのだろうか」
「相続して損をするのは避けたい」
などと、不安に思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
再建築不可物件の相続はリスクを伴いますが、メリットもあるので、一概に「相続しない方が良い」とはいえません。
今回は、再建築不可物件の概要、再建築不可物件を相続するリスクやメリット、相続する場合の注意点と対処法などについて解説します。
再建築不可物件とは
再建築不可物件とは、現在建っている建物を解体して更地にした際に新たに建物を建築できない土地のことをいいます。これは、建築基準法で定められた接道義務を果たさないためです。
都市計画区域や準都市計画区域であれば、幅員4m以上の道路に、建物の敷地が2m以上接していなければならないという決まりがあります。この決まりが接道義務であり、これを満たさない土地が「再建築不可物件」に該当します。
再建築不可物件の具体的な例としては以下のような土地が挙げられます。
・土地が道路と全く接していない
・土地が道路に接してはいるが、その幅が2m以下である
・土地が道路に接してはいるが、その道路が幅員4m未満、または私道である
再建築不可物件を相続するリスク
再建築不可物件を相続すると、以下のようなリスクがあります。
1.消失すれば更地にするしかない
再建築物件は建て替えができません。
「解体しないで修繕やリフォームをして建物を維持すればよいのではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、建物が消失する理由は人為的なものだけではありません。地震や火事など、災害によって倒壊したり消失したりするおそれもあるのです。そうなれば更地にするしかなく、二度と建物は建てられません。
2.更地にすれば固定資産税が最大6倍になる
建物が建っている土地には「住宅用地の特例」が適用され、通常、固定資産税と都市計画税の金額が安くなります。その特例率は土地の面積により以下のとおりです。
【住宅用地の特例率】
固定資産税 | 都市計画税 | |
200㎡以下の住宅用地 | 1/6 | 1/3 |
200㎡を超える住宅用地 | 1/3 | 2/3 |
更地にすれば住宅用地ではなくなるため、この特例率の適用は受けられず、固定資産税は最大6倍の額になってしまいます。
3.リフォームの際に重機を使用できない
再建築不可物件は、接道義務を満たしていないので大型車は通れません。そのため、リフォームをしようとしても重機を使うことができません。
重機を使えない分、業者の作業量が増えてリフォーム費用が通常よりも高額になる可能性があります。
4.損害賠償請求をされる可能性がある
老朽化した建物をそのままにしておけば、地震や台風などの自然災害によって、建物の一部が剥がれ落ちるなどの危険性があります。それによって、周囲の建物を損傷させたり、通行人に怪我を負わせたりする可能性もあるでしょう。被害者に損害賠償請求をされ、多額の賠償金を支払わされるリスクもあります。
5.売却が難しい
再建築不可物件は、上記のようなリスクがあるため、なかなか売れません。担保評価が低いために住宅ローンを組みにくいことも、買い手が現れにくい原因の一つです。
そのため、不動産会社に相談しても、断られるケースが多いです。個人で売却活動をしても、なかなか買い手がつかないでしょう。
再建築不可物件を相続するメリット
再建築不可物件には、以下のようなメリットもあります。
1.相続税は安くなる
不動産は、売却して現金を相続するよりも、現物のまま相続する方が相続税対策として有効です。
不動産の場合、相続税の課税対象額の算出に用いるのは、査定額ではなく、土地であれば路線価、建物であれば固定資産税評価額であり、これらは市場価格よりも低い場合がほとんどだからです。
また、再建築不可物件は、利用しにくい不利な土地であるゆえ、通常よりも評価額がさらに低くなります。そのため、不動産の相続税評価額は通常よりもかなり低くなり、相続税は安くなるというメリットがあります。
2.固定資産税も安い
再建築不可物件は、接道義務を果たしていないため、一般的な土地よりもその評価は低く設定されます。そのため、固定資産税も安いでしょう。少ない税金で所有を続けられることはメリットといえるでしょう。
再建築不可物件を相続する場合の流れ
再建築不可物件を含めた遺産を相続する場合は、以下の手順で相続手続きを進めましょう。
1.遺言書の有無を確認
まずは、亡くなった方が遺言書を残していないか確認しましょう。遺言書があれば、その内容が何より優先されるためです。家庭裁判所で検認手続きを行い、遺言書の内容どおりに相続手続きを進めましょう。
2.相続人と相続財産の調査
遺言書が残されていない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分割方法を決めなくてはなりません。まずは相続人と、分割対象となる相続財産を調査しましょう。
相続人は、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本類を全て取得して調査します。
相続人となるのは配偶者と子どもや孫、子どもがいない場合は親や祖父母など上の世代、上の世代もいない場合は兄弟姉妹です。
親族のことであるし、調べるまでもないと思われるかもしれませんが、省略せずに行いましょう。遺産分割協議後に思わぬところから新たな相続人が存在することが発覚した場合、最初から協議をやり直さなければならないからです。
相続財産の調査の際は、預金や不動産、株式などプラスの財産だけでなく、負債などマイナスの財産も調べてください。財産の内訳のほか、各財産の評価額も調べましょう。マイナスの財産がプラスの財産よりも大幅に多い場合は、全ての財産を相続する単純承認以外の方法(相続放棄や限定承認など)を検討してもよいかもしれません。
3.遺産分割協議
相続人と相続財産の調査が終わったら、遺産分割協議を行います。遺産分割協議は、必ず相続人全員で行わねばなりません。一人でも欠けた状態で成立した協議は無効となります。協議といっても必ずしも全員が一堂に会して話し合う必要はなく、遺産分割内容について全員の合意さえ得られれば、電話やメールで協議をしても問題ありません。
話がまとまれば、遺産分割協議書を作成しましょう。遺産分割協議書には、相続人全員分の署名、捺印と印鑑証明書の添付が必要です。相続登記など、協議後に行う相続手続きの際にも必要なので、必ず作成しましょう。
4.相続税の申告と納付
相続税の申告と納付は、被相続人が亡くなった日から10カ月以内に行わなければなりません。相続開始から意外に短期間であるため、遺産分割や相続税の申告について困ったことがあれば早めに専門家に相談することをおすすめします。
5.相続登記
再建築不可物件を処分するにしても、そのまま引き継ぐにしても、所有者の名義を変更しておかなければなりません。不動産の所在地を管轄する法務局で相続登記手続きを行いましょう。
また、相続登記は令和6年(2024年)4月1日以降、相続人の義務になります。怠ると罰則が科される可能性もあるので、早めに行うようにしましょう。
相続前にできる再建築不可物件の対処法
再建築不可物件を引き継ぎたくない場合、相続前であれば以下のような対処法を取ることもできます。
1.相続放棄をする
「再建築不可物件以外にほとんど財産がない」「多額の負債がある」という場合は、相続放棄を検討してもよいかもしれません。相続放棄をすれば、マイナスだけでなくプラスの財産も放棄することになるため、再建築不可物件も相続せずに済みます。
ただし、裁判所が相続放棄を認めた後は撤回することができません。そのため、本当に相続放棄をするのがベストなのか少しでも不安がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。
2.代償分割をする
もし、相続人の中に再建築不可物件に居住することを希望する人がいる場合は、代償分割を行うのもよいでしょう。
代償分割とは、希望する相続人が対象不動産を取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払う分割方法です。ただし、取得希望者に代償金を支払うだけの資力がなければ利用できないという点には注意が必要です。
相続後の再建築不可物件の対処法
再建築不可物件を既に相続してしまい、対処法に困っている場合は、以下の方法を検討するとよいでしょう。
1.再建築可能にする
再建築不可物件は、接道義務を果たせば再建築可能となり、売却しやすくなります。そのためには、以下の方法を試みるとよいでしょう。
- 隣の土地の一部を買い取り、または等価交換をして2m以上道路と接するようにする
- 隣の土地を借りて建て替えられるようにする
- 私道の場合は位置指定道路の申請を行う
- 但し書き申請を行う
幅員が4m以上ある私道の場合、位置指定道路の申請をすれば、建築基準法上の基準を満たす道路として認めてもらえます。
また、但し書き申請とは、敷地の周囲に広い空き地があるなど建築基準法43条2項2条の内容が認められた場合に建て替えができるというものです。
申請が可能か判断するのが難しい場合は、専門家に相談してみるとよいでしょう。
2.住み続ける
現状、建物に特に問題がないなら、誰かが住み続けてもかまいません。再建築不可物件は建て替えができないというだけで、普通に生活を送る分には特に問題がないからです。
3.空き家バンクを利用する
空き家バンクに登録すれば、買い手が見つかる可能性もあります。空き家バンクとは、各自治体の運営するサービスで、空き家を売りたい人と買いたい人、貸したい人と借りたい人をマッチングします。登録しても、すぐに買い手や借り手が見つかるとは限りませんが、参加料や利用料はかからないので登録しておくとよいでしょう。
4.寄付する
自治体に寄付できる可能性もあります。ただし、寄付を受ければ、自治体は固定資産税の支払いを受けられなくなることもあり、どんな物件でも引き取ってもらえるわけではありません。市民の役に立つなど、有用な土地でなければ難しいでしょう。
まとめ
今回は、再建築不可物件の概要、再建築不可物件を相続するリスクやメリット、相続する場合の注意点と対処法などについて解説しました。
再建築不可物件が遺産に含まれている場合、リスクを考慮して相続放棄を検討する方も少なくありませんが、相続放棄を選択すると全ての遺産の相続ができなくなるため、専門家に相談しながら慎重に判断することをおすすめします。既に相続してしまった場合も、専門家に相談することでよい解決策が見つかる可能性もあります。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。再建築不可物件の相続に関する相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一