どんなに関係が良好な兄弟姉妹でも、相続を巡って揉めることは少なくありません。
一般社団法人相続解決支援機構が2022年に実施した調査によると、相続トラブルを経験したことがある人は78.7%、その中で、不動産の相続が原因と答えた人は40.8%でした。
特に相続する不動産が収益物件であれば、相続後も利益が発生することもあり、誰が相続するかで揉めやすいことは想像に難くないでしょう。
相続を巡る揉めごとを回避するためには典型的なトラブルの予防法や対処法を知っておくことが非常に重要です。
今回は、アパートを兄弟で相続する際によくある典型的なトラブル、トラブルを回避する方法、兄弟で揉めた場合の対処法、アパートを相続する際の流れ、兄弟でアパートを相続する際の注意点などについて解説します。
遺産に収益物件が含まれていて、相続に不安を感じている方はぜひ参考にしてください。
参考:一般社団法人相続解決支援機構|相続トラブルに関する調査
アパートを兄弟で相続する際によくある典型的なトラブル
親が経営していたアパートを兄弟姉妹で相続する際に発生しやすい典型的なトラブルの例を紹介します。
1.アパートの相続税評価額を巡って揉める
遺産分割は、遺産ごとの相続税評価額を元に行います。建物の相続税評価額の算出方法には、固定資産税評価額を元に計算する方法、実勢価格を参考にする方法という2通りの方法があり、どちらを採用するかを巡って揉めるケースは少なくありません。なぜなら、どちらを採用するかで金額が異なり、固定資産税評価額を元にした場合の方が低くなる傾向にあるからです。
アパートの相続人は、代償金額や相続税額を低く抑えたいために固定資産税評価額で計算する方法を、その他の相続人は実勢価格の採用を主張して、争いになるケースは多いです。
また、実勢価格を採用する場合でも、実際に売買するわけではないため、正確な価格の算出はできません。そのため、依頼する不動産業者によって金額が異なり、どの業者の値を採用するかで揉めるケースもあります。
2.分割方法で揉める
不動産相続で争いになりやすい理由の一つは、平等な分割が難しいことです。土地であれば、分筆によってある程度平等性を実現できますが、建物の場合は現物の分割はできません。相続後に家賃収入が見込める収益物件の場合は、さらに不平等が生じやすく、争いに発展しやすいでしょう。
3.残債務を巡って揉める
相続の対象になるのはプラスの財産だけではありません。アパートのローンの支払いが残っている場合、残債務を誰が相続するかで揉める可能性があります。負担を負いたくないために、相続人同士で押し付け合いになり、収集がつかなくなるケースもあるでしょう。
そもそも残りのローンを支払ってまで相続する価値があるのか、相続放棄をした方がよいのではないかという判断について意見が割れることもあります。
4.共有名義にして経営を巡って揉める
相続争いを避けたいからという理由で、とりあえず相続人全員での共有名義としてしまうと、相続後に経営を巡って揉める可能性があります。家賃収益の分配はどうするか、管理負担はどのように分担するかなど、争いの種は尽きないでしょう。
アパートを兄弟で相続する際のトラブルを回避するには
あらかじめ回避方法を知っておけば、スムーズな相続を実現できる可能性が高まります。ここでは、先ほど紹介したトラブルを回避するために有効な対策を紹介します。
1.不動産の分割方法を知っておく
不動産の分割方法を知っておくことで、どのように相続するかを議論しやすくなるはずです。基本的な相続方法とそのメリット、デメリットを理解し、最適な方法を検討しましょう。不動産の基本的な相続方法とメリット、デメリットは以下の通りです。
分割方法 | 概要 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
現物分割 | そのままの形で相続する方法 | ・手続きが簡単 | ・公平な分割が難しい |
代償分割 | 特定の相続人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払う方法 | ・公平な分割を実現しやすい | ・代償金を用意できなければ実現できない |
換価分割 | 不動産を売却し、売却金額を分割する方法 | ・平等に分割できる | ・処分によって不動産がなくなる |
共有 | 複数の相続人の共有名義とする方法 | ・平等性を実現できる | ・処分が難しくなる
・将来の相続が難しくなる |
2.兄弟での共有は避ける
不動産の分割方法のうち、共有は可能な限り避けましょう。共有すると以下のようなリスクがあるからです。
- 家賃収益の分配、管理負担などで揉める
- 売却などの処分ができない
- 共有名義人が亡くなった場合の相続手続きが複雑化する
複数の相続人で収益物件を共有すると、相続後に発生する収益の分配や管理負担をどうするのかについて争いが起きる可能性があります。
また、アパート経営が難しいために売却しようしても、共有名義人全員の同意がなければ売却はできません。建て替えや担保設定などをする際も、全員の同意が必要なため、思うように処分できず、困ることもあるでしょう。
さらに、共有名義人のうちの一人が亡くなり、相続が発生した場合には、その方の持ち分を相続人全員で共有することになるため、共有者がさらに増えます。下の代になるほど権利関係が複雑化し、子どもや孫が大変な思いをすることになるでしょう。
3.共有した場合は管理会社へ委託する
管理会社へ委託すれば、アパート管理や住民の対応を任せられるため、名義人の負担は軽くなります。共有名義人同士で管理負担について話し合う必要がないため、揉める心配もないでしょう。アパートを共有するなら、管理会社へ委託することをおすすめします。
4.相続財産はきちんと調査する
遺産分割協議を行う前に、相続財産の調査は必ず行いましょう。後になって新たな遺産が見つかった場合は、再び相続人同士で話し合わねばなりません。もう一度、相続人同士で話し合わなければならないうえ、新たに見つかった財産を巡って争いになる可能性もあります。
余計な手間や争いを避けるためにも、遺産分割協議前には、必ず財産調査をしっかり行うようにしましょう。
アパートの相続について兄弟で揉めた場合の対処法
アパートの相続を巡ってトラブルになってしまった場合は、以下の方法で解決を図るとよいでしょう。
1.専門業者や専門家に相談する
当事者同士の話し合いで解決できない場合は、弁護士や相続不動産を専門に扱う業者などに相談することをおすすめします。
弁護士であれば、相続についての法律知識を備えているため、法的観点から解決策を提案してくれるはずです。代理人として依頼すれば、本人に代わって他の相続人と交渉してもらえるため、兄弟姉妹との争いによる精神的負担から逃れられるでしょう。さらに、依頼者にとって有利になるよう交渉してもらえるため、ご自身が納得する結果を得やすいはずです。
また、相続不動産を専門に扱う業者であれば、専門知識や経験も豊富に備えています。同様のトラブルも多く扱っているため、より実践的で有益なアドバイスが期待できるでしょう。
2.家庭裁判所に調停を申し立てる
調停手続きとは、裁判官の他に調停委員という専門家が当事者の間に入って、もう一度話し合いをする手続きです。調停委員が中立な立場から、法律や過去の裁判例に基づいた解決案を提案してくれるため、当事者が納得しやすく、解決に至るケースも多くあります。
調停手続きは比較的易しいため、弁護士に依頼せずに、自分でできる場合も多いでしょう。
申し立てる場合は、下記裁判所の公式ページを参照しましょう。
アパートを兄弟で相続する場合の注意点
アパートの経営を兄弟姉妹で相続することにした場合、以下のことに注意しましょう。
1.無理に経営を続けない
不動産経営は、知見や経験のない方が簡単にできるものではありません。
建物は老朽化するため、維持コストと収益のバランスを見ながら、適宜修繕をしていかなければなりませんし、タイミングを見極めて建て替えなければならない場合もあるでしょう。老朽化が進めば空室も出やすく、十分な収益を得られないためです。入居者の獲得も簡単なものではありません。
相続時点では収益が出ていたとしても、将来的には赤字になる可能性もあります。そのような場合は無理に経営を続けず、思い切って早めに売却した方がよいでしょう。収支のバランスを見ながら、冷静に検討することが大切です。自分で判断できない場合は専門業者に相談することをおすすめします。
2.連絡のとれない兄弟がいる場合
遺産分割協議は、必ず相続人全員で行わなければなりません。消息のわからない相続人がいる場合は、何とか連絡がとれるよう手をつくす必要があります。連絡先を知る人がいないか探す、戸籍附票を取得して手紙を送る、直接訪れるなどの方法で探しましょう。
それでも連絡が取れない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立をします。この手続きは、不在者財産管理人を選任し、行方のわからない相続人に代わって、当人が相続する財産を管理、保管してもらうものです。家庭裁判所の許可を得れば、遺産分割協議にも参加してもらえるため、相続手続きを進められます。
まとめ
今回は、アパートを兄弟で相続する際によくあるトラブル、トラブルを回避する方法、兄弟で揉めた場合の対処法、アパートを相続する際の流れ、兄弟でアパートを相続する際の注意点などについて解説しました。
相続トラブルの中でも、不動産相続を巡るものは特に多く、なかなか解決しないうえ、落着した後も禍根が残るケースもあります。
相続をきっかけに兄弟姉妹関係が悪化することを防ぐためにも、あらかじめ起きやすいトラブルとその予防法、対処法について知っておくことが大切です。また、トラブルが起きてしまった場合は、問題が複雑化する前に専門家に相談して早期解決を図りましょう。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。被相続人が経営していたアパートを巡る相続トラブルなどに関する相談にも応じておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一