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2024.06.06

成年後見人が不動産売却するには?必要な許可と手続きの流れを解説

成年後見人が不動産売却するには?必要な許可と手続きの流れを解説

「親が所有する不動産を売却したいが、後見人である自分だけの判断でできるのだろうか?」
「成年後見人が被後見人の不動産を売却する際に、何か制約はあるのだろうか?」
など、被後見人が所有する不動産の売却について調べている方もいらっしゃるでしょう。

被後見人の不動産の売却は、成年後見人の一存ではできません。家庭裁判所の許可、または後見監督人の同意が必要です。どちらが必要かは、対象不動産が居住用か非居住用かによります。売却までの手続きも少々異なるため、あらかじめ手順を知っておくとよいでしょう。

今回は、成年後見人が被後見人の不動産を売却するための方法、居住用不動産の売却手続きの流れ、不動産売却許可決定の申立て方法、非居住用不動産の売却手続きの流れの他、成年後見制度の種類と申し立て方法などについて解説します。

成年後見人が不動産を売却するには

成年後見人は、独断で被後見人の不動産を売却することはできません。不動産の種類によって、以下の許可または同意が必要です。

  • 居住用不動産:家庭裁判所の許可
  • 非居住用不動産:後見監督人の同意

それぞれのケースについて説明します。

1.居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要

被後見人の自宅など、居住用不動産を売却するには、家庭裁判所に申し立てをして許可を得なければなりません。これは、被後見人本人を保護する必要があるためです。成年後見人が恣意的に自宅を売却してしまい、本人が困ったり、利益を損なったりすることのないよう裁判所が監視しているのです。

許可なく売却した場合、その売買契約は無効になります。

2.非居住用不動産の売却には成年後見監督人の同意が必要

非居住用の不動産を売却したい場合は、成年後見監督人に同意を得る必要があります。成年後見監督人とは、文字通り成年後見人を監督する人です。家庭裁判所によって選任され、弁護士などの専門家が就くことが多いでしょう。必ず選任されるわけではありませんが、後見人による不正を防ぐためにも、選任されるケースが増加しています。

ただし、法定後見制度を利用している場合は、裁判所が必要と判断した場合しか監督人は選任されません。選任がない場合は、成年後見人が単独で売却できます。

これは、不動産を売却しても、住むところがなくなるなど、本人が困ることはあまりないと考えられ、保護の必要性もそれほどないと考えられるためです。

しかし、そうはいっても、裁判所には事前に相談しておく方がよいでしょう。何も知らせないまま売却をし、その必要性や相当性が不十分と裁判所に判断されると、後見人としての適性を疑われる可能性があるからです。そのような事態を避けるためにも、先に裁判所へ相談することをおすすめします。

3.居住用かどうかの判断基準

不動産が居住用か非居住用かの判断は、以下のようなことを基準とします。

【居住用不動産と判断される基準】

  • 住民票上の住所地に存在する不動産である
  • 住民票になくても、実際に本人が居住し、生活している
  • 施設へ入所する前に本人が居住していた
  • 本人が将来的に居住する可能性がある

成年後見人による居住用不動産の売却手続きの流れ

成年後見人が居住用不動産を売却する際は、以下の流れで進めるのが一般的です。

1.不動産の相場を調べる

適正な価格で売却するためにも、まずは周辺不動産の相場を調べましょう。インターネットで対象不動産と条件やエリアの近い物件の情報や過去の取引事例を調べたり、地価を調べたりすれば検討がつきます。

最も手間がかからないのは、複数の不動産業者に査定を依頼することです。また、業者が運営する一括査定サイトを利用するのもよいでしょう。

2.不動産業者と媒介契約を結び、売却活動をする

買い手を見つけるため、不動産業者と媒介契約を結びます。できる限り高く売却するためにも、業者選びはしっかり行いましょう。特に以下のようなポイントが重要です。

  • 売却実績が豊富
  • 物件の所在エリアに詳しい
  • 査定結果に根拠がある
  • インターネット広告を活用している
  • 営業担当が信頼できる

また、媒介契約締結時には、売り出し価格や不動産業者への報酬について決めておきます。

3.買主と売買契約を締結する

購入希望者が見つかり、売買の条件が決まれば、契約を締結します。売買契約書を作成し、取り引きを成立させましょう。

ただし、成年後見人による売却の場合、売買契約書の中に「停止条件」を含める必要があります。停止条件とは、裁判所による売却許可を得られなかった場合は、取り引きを停止するというものです。通常の売買契約書とは異なるため、注意しましょう。

4.家庭裁判所へ売却許可決定の申し立てを行う

買主との間で売買契約が成立すれば、家庭裁判所へ不動産売却許可決定の申し立てを行います。申立書の他、必要書類をそろえて、提出しましょう。

万が一、裁判所が不許可とした場合は、売買契約書の停止条件によって、取り引きは無効になります。

5.決済、引き渡し

裁判所による売却許可決定が出れば、いよいよ決済と物件の引き渡しです。決済日には、後見人と買主、不動産会社の他、金融機関、司法書士が一堂に会し、決済手続きや所有権移転登記手続きを行います。

成年後見人による不動産売却許可決定の申立方法

家庭裁判所への売却許可決定は、申立書の他にも必要書類の添付が必要です。提出された書類を元に、売却が適当かどうかを裁判所が判断します。

ここでは、不動産売却許可決定の申し立てに必要な書類と、裁判所の判断基準について紹介します。

1.申し立てに必要な書類

成年後見人による不動産売却許可決定の申し立てに必要な書類は以下のとおりです。

【必要書類】

  • 申立書(800円の収入印紙を貼付)
  • 対象不動産の全部事項証明書
  • 対象不動産の売買契約書の案
  • 対象不動産の評価証明書
  • 不動産業者が作成した査定書
  • 予納郵券

申立書は、各裁判所の公式サイトからダウンロードできます。

予納郵券の金額と内訳は、裁判所によって異なるため、公式サイトを確認するか、提出先の裁判所に電話して問い合わせましょう。

2.許可されるかどうかの判断基準

売却許可決定を下すかどうかを裁判所が判断する際に考慮するのは以下の5点です。

  判断基準 チェックされるポイント
1 売却の必要性 本人の財産状況と照らし、本当に必要な処分かどうか
2 本人の生活や看護の状況、本人の意向 介護施設への入所や病院への入院、帰宅の見込み、また本人の考え。特に帰宅の見込みがある場合は帰宅先をどのように確保するのか
3 売却条件 適当な内容か
4 売却代金の入金先と保管先 本人のために使われるようになっているか
5 親族の処分に対する態度 特に推定相続人である親族が反対していないか

総合的に見て、被後見人本人の利益になると判断された場合に許可されます。

3.売却以外に許可が必要な行為

居住用不動産の売却以外にも、以下のような行為をする際は、家庭裁判所の許可が必要です。

  • 抵当権、根抵当権の設定
  • 賃貸借契約の締結
  • 賃貸借契約の解除

成年後見人による非居住用不動産の売却手続きの流れ

非居住用の不動産を売却する際は以下の流れで進めます。

  • 相場を調べる
  • 不動産業者と媒介契約を締結し、売却活動をする
  • 買い手が見つかったら売買契約書案を作成する
  • 家庭裁判所や後見監督人に相談、同意を得る
  • 売買契約の締結
  • 決済、引き渡し

裁判所の許可は不要ですが、余計な不信感を抱かれないためにも事前に相談しておくことが望ましいでしょう。

成年後見制度とは?種類と申し立て方法

この記事を読んでいる方の中には、まだ成年後見制度を利用していないものの、将来的な不動産売却について心配に思い、調べている方もいらっしゃるかもしれません。

ここでは、そのような方のために、成年後見制度の概要について改めて紹介します。

1.成年後見制度の目的

成年後見制度とは、認知症などによって判断能力が低下した方が、さまざまな契約や手続きなどを行うのをサポートするための制度です。主な支援内容は以下の2つです。

  • 財産管理:預貯金や不動産などの財産を本人に代わって管理、運営をし、詐欺などの被害から守る
  • 身上監護:介護施設の入所や病院への入院手続きなど療養看護に関する手続きや生活維持のための契約をサポートする

2.成年後見制度は2種類

成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。これらの主な違いは以下のとおりです。

  任意後見 法定後見
概要 本人の判断能力がある間に、後見人となる人と契約を締結しておき、判断能力低下後に後見事務を開始する 本人の判断能力が不十分になってから、家庭裁判所によって後見人が選任され、事務が開始される
申し立てられる人 本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人になる人 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長など
後見人の権限 任意後見契約で定めた範囲内について 成年後見人、保佐人、補助人の各制度による
後見監督人の選任 必ず選任される 必要に応じて選任される

3.法定後見制度は3種類

法定後見制度には、さらに成年後見人、保佐人、補助人の3種類の制度があります。

それぞれの違いは以下のとおりです。

  成年後見人 保佐人 補助人
本人の判断能力 日常生活に支障をきたすほど低下 判断能力の低下は重度ではないが、財産の管理や処分に不安がある
権限 ・代理権(本人の財産についての法律行為の代理)

・財産管理権(本人の財産の管理)

・取消権(本人が行った法律行為の取り消し)

・同意権・取消権(不動産売買や預貯金の払い戻しなど、重要な法律行為について)

・代理権(本人の同意が必要)

・同意権・取消権(不動産売買や預貯金の払い戻しなど、重要な法律行為について、家庭裁判所への申し立てにより付与。本人の同意も必要)

まとめ

今回は、成年後見人が被後見人の不動産を売却するための方法、居住用不動産の売却手続きの流れ、不動産売却許可決定の申立て方法、非居住用不動産の売却手続きの流れの他、成年後見制度の種類と申し立て方法などについて解説しました。

成年後見人が被後見人の所有する居住用の不動産を売却するには、家庭裁判所の許可が必要です。非居住用の場合、許可は不要ですが、事前に相談をすることが望ましいでしょう。

また、実際に売却活動をする際には、不動産業者選びが重要です。できる限り高く売却するためにも、実績が豊富で信頼できる業者に依頼しましょう。

当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。成年後見人による不動産売却に関する相談にも応じておりますので、お気軽にご相談ください。

井上 悠一

クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一