そろそろ終活を始めようと、自分の所有する財産の処分を考え始めたときに、相続税額が大きくなりそうな不動産が気になるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。相続人たちが負う相続税の負担を減らすためには、生前贈与をする方が得なのではないだろうかと思っている方もいらっしゃるでしょう。
実は、相続よりも生前贈与が得かどうかを判断するのは意外と難しいです。確かに得なケースもありますが、損をする可能性もあります。
今回は、不動産を生前贈与するメリットとデメリット、不動産を生前贈与するのが得なケース、2種類の生前贈与の方法、不動産の生前贈与の手続き方法、不動産を生前贈与する場合の注意事項などについて解説します。
不動産を生前贈与するメリット
まずは生前贈与をするメリットについて説明します。
1.相続時に贈与するより得なことがある
不動産に限らず生前贈与をする方が節税につながるケースがあります。贈与税の方が相続税よりも税率が低かったり、豊富に設けられた特例によって節税できたりすることがあるからです。また、生前贈与をすればその分相続財産が減るため、相続税を減らすことが可能です。
ただし、あらゆるケースで生前贈与が得であるとは限りません。相続税と贈与税では税率の仕組みや、課税されるタイミングが違うため、相続の方が得であるケースも少なからずあります。相続税と贈与税の仕組みをしっかり理解した上で、生前贈与か相続かを選ぶことが大切です。
2.不動産を譲りたい人に贈ることができる
所有する不動産を譲りたい方がいらっしゃる場合、ご自身の亡き後にその方の手に無事に渡るか心配かもしれません。
生前贈与であれば、自分が存命中に、譲りたい相手に不動産を取得させることが可能です。自分の思いが叶うところを見届けられるので、安心して余生を過ごせるでしょう。
不動産を生前贈与するデメリット
生前贈与にはデメリットもあります。以下のデメリットについて理解した上で判断しましょう。
1.税金で損をする可能性がある
不動産の生前贈与では、贈与税だけではなく不動産取得税と登録免許税がかかります。特に登録免許税は、取得原因によって税率が変わり、贈与の場合は相続の5倍にもなります。そのため、相続時に取得するよりも損をしてしまうケースもあるでしょう。
2.小規模宅地の特例が適用されないケースがある
土地の相続において、大きな節税効果を得られる可能性が高いのが、小規模宅地の特例です。要件を満たす土地であれば、その評価額を最大80%減額できます。
しかし、この特例が適用されるのは相続の場合だけで、贈与では適用されません。そのため、節税対策として不利になる可能性があるでしょう。
不動産を生前贈与するのが得なケース
相続よりも生前贈与の方が得なケースは限られますが、以下のケースでは生前贈与の方が得である可能性が高いため、前向きに検討するとよいでしょう。
1.対象不動産が収益物件の場合
対象不動産が収益物件であれば、できる限り早期に贈与することをおすすめします。なぜなら、不動産による収益は全て相続財産に含まれるため、長く所有するほど、相続税の課税対象金額が大きくなってしまうからです。収益不動産は早期に贈与するほど、相続税の節税効果が期待できるでしょう。
2.将来的に価値が高くなる見込みがある不動産の場合
贈与税は贈与時の評価額を基に算出されますが、相続税は相続発生時点での評価額を基準に算出します。そのため、将来的に価値が上がり評価額が高くなると予想される不動産であれば、評価額が低いうちに贈与することにより大きな節税効果が期待できます。
3.婚姻期間が20年以上の夫婦間の贈与の場合
結婚から20年以上経過した夫婦間で居住用不動産の贈与をする場合は、いわゆる「おしどり贈与」と呼ばれる「贈与税の配偶者控除」の特例が適用されます。これは、贈与税の基礎控除額である110万円に加えて、最高で2,000万円までの控除を受けられる特例です。
現在夫婦で住んでいる自宅の贈与、または自宅不動産購入用資金の贈与であれば、相続よりも生前贈与をする方がよいでしょう。
生前贈与の方法は2種類
不動産の生前贈与をする場合、以下の2種類の制度を利用する方法があります。
1.暦年贈与
通常の贈与税の計算に用いられる課税方式です。その年の1月1日から12月31日までに贈与された額が、基礎控除額の110万円以下であれば非課税になります。
基礎控除額を超えた分については贈与税がかかりますが、その税率は贈与額や誰から贈与を受けたかによって異なります。親や祖父母などの直系尊属から贈られた場合を「特別贈与」、それ以外の人から贈られた場合を「一般贈与」といい、それぞれの場合の税率と控除額は以下のとおりです。
【一般贈与の場合】
贈与された額から基礎控除額(110万円)を控除した額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円を超える | 55% | 400万円 |
【特別贈与の場合】
贈与された額から基礎控除額(110万円)を控除した額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円を超える | 55% | 640万円 |
2.相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は特例の一つであり、利用するためには以下の要件を満たすことが求められます。
- 贈与する側は60歳以上の父母や祖父母などの直系尊属である
- 贈与される側は18歳以上の子または孫などの直系卑属である
- この制度を利用する場合は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に贈与税の申告をする
上記要件を満たす贈与であれば、最大2,500万円の特別控除を受けられます。控除後の金額については、贈与税がかかり、その税率は一律で20%です。
相続時には、この制度を利用して生前贈与した分が持ち戻され、相続税の対象になりますが、相続税からすでに納付した贈与税分は減額できます。なお、持ち戻す分の評価額は、贈与があった時点のものです。
また、この制度を一度利用した場合、暦年課税制度は使えないという点に注意しましょう。
不動産の生前贈与の手続き方法
生前贈与をする場合は、以下の手順で進めましょう。
1.贈与契約書を作成する
贈与契約書はどのような場合も必ず作成しておきましょう。贈与契約書がなければ、次のような事態が起きる可能性があるからです。
- 暦年贈与で、毎年数年間贈与を受けていたところ、税務署に定期贈与とみなされて課税されてしまった
- 子どもに告げずに子ども名義の口座を作って財産を移していたところ、相続時に贈与とは認められず、相続財産に含められてしまった
このような事態を避けるためにも、贈与のたびに贈与契約書を作成しておくことが大切です。贈与契約書には特に決まった書式はありませんが、「いつ」「誰が」「誰に」「何を」贈与したのかわかるように作成しましょう。さらに贈与者と受贈者のそれぞれの署名、押印があるのが望ましいです。
2.必要書類を準備する
所有権移転登記のための書類を準備しましょう。登記手続きには、主に以下の書類が必要です。
書類名 | 概要 取得方法 |
---|---|
登記事項証明書 | 対象不動産の詳細情報が記載されたもの 法務局で取得できるほか、郵送やオンライン申請も可能。 |
登記識別情報通知(登記済権利書) | 登記完了後に登記名義人に対して交付される書面。 |
固定資産評価証明書 | 対象不動産の評価額を証明する書類。区役所や市税事務所などで取得できる。 |
贈与者の印鑑証明書 | 印鑑が本物であることを証明する書類。役所のほか、コンビニでも取得可能。 |
受贈者の住民票 | 住民の氏名、住所などが記載された帳票。役所で取得できる |
贈与契約書 | 贈与時に作成したもの。 |
登記申請書 | 登記申請のために法務局に提出する書類。書式は特に決められていないが、法務局の以下のページからダウンロードすることも可能。 |
3.所有権移転登記手続きをする
不動産の所在地を管轄する法務局に準備した書類を提出して、所有権移転登記手続きをします。管轄先は法務局の以下のページで調べられます。
参考:法務局|管轄のご案内
4.贈与税を申告・納付する
贈与の対象となった不動産の評価額が基礎控除額の110万円を超えていた場合は、贈与税が課税されます。贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に、受贈者の住所地を管轄する税務署に申告して、納付しましょう。
不動産を生前贈与する場合の注意事項
不動産を生前贈与する場合は、以下のことに注意しましょう。
1.相続開始3年前の贈与分は相続財産に含まれる
相続の発生から3年以内の贈与分は、相続時精算課税制度を利用していなくても、相続財産に含まれてしまいます。相続税の納付を逃れるためだけに、慌てて生前贈与を行ったとみなされてしまうためです。生前贈与をするなら、タイミングに注意しましょう。
2.不動産を親子間で生前贈与する場合も贈与契約書は必ず作る
税務署に生前贈与を認めてもらうためにも、たとえ親子間であっても贈与契約書は必ず作りましょう。贈与される子どもが知らなかったり、合意していなかったりすれば、贈与は成立しません。どのような場合でも、贈与契約書の作成を怠らないことが大切です。
まとめ
今回は、不動産を生前贈与するメリット、デメリット、不動産を生前贈与するのが得なケース、2種類の生前贈与の方法、不動産の生前贈与の手続き方法、不動産を生前贈与する場合の注意事項などについて解説しました。
不動産を生前贈与しても、必ずしも受贈者が得をするとは限りません。税金に関しては、相続よりも生前贈与をした方が得になるケースは限られるでしょう。
生前贈与をするべきか、相続の方がよいのか迷う場合は、不動産相続に詳しい専門家に相談することをおすすめします。専門家であれば、どちらの方が得なのか的確に判断することができます。
当社では、不動産相続に関するさまざまな相談に対応しております。「不動産を生前贈与するべきか迷っている」「生前贈与を適切に進める方法を知りたい」などというご相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一