滅失登記とは、解体などによって建物がなくなったことを記録する手続きです。解体後、1ヵ月以内に行わなければなりませんが、手続き方法や必要書類などがわからなくて、なかなか進められないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、滅失登記の概要、滅失登記の申請に必要な書類、提出先と提出方法、滅失登記にかかる費用の相場、滅失登記をしない場合のリスクなどについて解説します。
滅失登記とは
建物がなくなった際に行うのが滅失登記です。
日本では、全ての不動産取引において、不動産登記制度を採用しています。不動産登記は不動産登記法に基づいて行われ、所在地や構造、所有者、設定された権利など、対象不動産に関する情報を法務局が保管し、管理しています。建物がなくなった際には、その旨も記録しておかなければなりません。これを登記記録の「閉鎖」と呼び、閉鎖するための手続きが滅失登記手続きです。
また、滅失登記をしても、記録が抹消されるわけではありません。閉鎖登記簿として保存、管理され続けます。
1.滅失登記が必要なケースとは
滅失登記は、以下のような場合に必要です。
- 建物を解体した場合
- 建物が火災や地震などの災害でなくなってしまった場合
2.滅失登記手続きをできる人
滅失登記の手続きができるのは以下のいずれかに該当する人です。
- 所有者
- (共有の場合)共有者
- (相続の場合)相続人
共有者や相続人が複数いる場合でも、特定の一人が単独で手続きできます。
3.滅失登記の手続き期限とペナルティ
滅失登記は対象の建物がなくなってから1ヵ月以内に行わなければなりません。手続きを怠れば、10万円以下の過料が科せられるため注意しましょう。
滅失登記の申請に必要な書類
ここでは、滅失登記の申請に必要な書類を紹介します。
1.基本の必要書類|所有者本人が手続きする場合
滅失登記の申請に必要な書類は以下の4つです。所有者本人が手続きをする場合は、基本的にこの4つで足ります。
- 建物滅失登記申請書
法務局の公式サイトからダウンロードできます。記載例もあるので、参考にして記入するとよいでしょう。
参考URL:不動産登記の申請書様式について「23)建物滅失登記申請書」(法務局公式サイト)
- 建物滅失証明書(取り壊し証明書)
解体業者に発行してもらう書類です。業者によって対応が異なり、何も言わなくても発行してくれる業者もあれば、発行に時間がかかる業者もあります。
- 解体業者の資格証明書
解体業者の資格証明書として以下の書類が必要です。業者から交付してもらいましょう。
- 代表者事項証明書、または履歴事項証明書
- 印鑑証明書
- 解体した建物の資料(任意)
以下のような書類を添付しておけば、法務局が申請内容を確認しやすくなり、手続きがスムーズに進みます。
- 建物図面
- 各階平面図
- 公図
- 建物の所在地の地図
- 現地の写真
建物図面、各階平面図、公図は法務局で取得できます。地図はGoogleやYahoo!などのマップを出力し、所在地に印を付ければ十分です。
2.建物の所有者以外の人が手続きする場合は委任状が必要
委任状があれば、所有者以外の人も法務局で手続きをすることが可能です。
3.相続した不動産の場合に必要な書類
相続した不動産を解体した場合は、以下の書類が追加で必要です。
- 建物の所有者が亡くなったことがわかる戸籍謄本または除籍謄本
- 建物の所有者の住民票または戸籍附票
- 申請者の戸籍謄本(所有者との関係がわかるもの。所有者と同じ戸籍の場合は不要)
滅失登記の必要書類の提出先と提出方法
実際に滅失登記の申請を行う方法を紹介します。
1.必要書類の提出先
準備した書類は、建物の所在地を管轄する法務局に提出します。管轄法務局は、法務局公式サイトの以下のページから確認できます。
参考URL:管轄のご案内(法務局公式サイト)
2.必要書類の提出方法
法務局へ提出するには持参提出と郵送提出の2つの方法があります。それぞれの注意点や知っておきたいポイントを紹介します。
- 持参提出
法務局に直接書類を持参して提出すれば、その場で書類を確認してもらえます。不備や不足書類があれば早めに対応できるので、手続きをスムーズに進められるでしょう。
ただし、法務局の窓口対応時間は、原則として、平日の午前9時から午後5時です。予約が必要な場合もあるため、管轄法務局の公式サイトなどを確認してから訪問しましょう。
- 郵送提出
平日の日中は時間が取りにくかったり、遠方に住んでいたりして訪問が難しい場合は、郵送で提出するとよいでしょう。その場合、確実に受領されたことを確認するためにも、レターパックプラスや簡易書留など追跡できる郵送方法の利用をおすすめします。
また、登記完了証を郵送してもらうための返信用封筒を同封するのも忘れないようにしましょう。
郵送提出は、提出書類に不備がある場合は、書類のやりとりに時間がかかる可能性があるという点に注意が必要です。
滅失登記にかかる費用相場
登記手続きはなじみのない手続きということもあり、費用次第では専門家への依頼も検討したいという方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、滅失登記手続きにかかる費用相場を紹介します。
1.自分で手続きをした場合
滅失登記手続きを自分でする場合は、実費しかかかりません。基本的に1,000円程度で済みます。費用の内訳は以下のとおりです。
- 登記事項証明書:600円
- (必要な場合)建物図面・各階平面図・公図など:450円
相続した不動産の場合は必要書類が増えるため、1,200~1,500円程度の費用が追加で必要になるでしょう。
2.専門家に依頼した場合
土地家屋調査士に滅失登記手続きを依頼する場合の費用相場は3~5万円程度でしょう。自分で手続きをする場合よりも費用がかかりますが、書類作成や調査など全て任せられます。手間も時間もかからず、スムーズに手続きを完了できるなどメリットは大きいでしょう。
3.司法書士には依頼できない
登記手続きといえば司法書士が行うというイメージが強いかもしれませんが、滅失登記は司法書士には依頼できません。手続きができる専門家は土地家屋調査士のみなので、注意しましょう。
滅失登記をしないとどうなる?5つのデメリット
解体などによって所有していた建物がなくなった場合は、必ず滅失登記をしなくてはなりません。怠った場合には以下のような不利益を被ることになります。
1.売却などの処分ができない
日本の不動産取引においては、当事者が安心して売買をするためにも、登記が必要とされています。そのため、滅失登記を完了していない土地は取引できません。売却や賃貸、担保設定をするなど、何らかの処分をしたい場合には、必ず滅失登記を行う必要があります。
2.新たに建物を建築できない
土地上に新たな建物を建築したい場合、土地の所在地の自治体からの許可が必要です。しかし、滅失登記を怠っていると実際には建物が存在しなくても、記録上は建物があることになり、建築許可がおりません。思い通りに土地を活用することができなくなるのです。
3.固定資産税を支払い続けなければならない
滅失登記をしなければ、記録上は変わらず建物が残っているため、固定資産税や都市計画税の課税が続きます。正しく登記していれば逃れられる負担が、いつまでも続くことになります。
4.ペナルティを科される
建物が消失してから1ヵ月以内に滅失登記をしなければ、10万円以下の過料を科せられます。申請期間を過ぎると、故意でも過失でも罰則の対象となるので、手続きは早めに行いましょう。
5.相続手続きが煩雑になる
相続した建物の場合、滅失登記をせずに放置すると、次の代の相続が発生した際に手続きが煩雑になります。所有者と申請人である相続人との関係を証明するために必要な書類も増え、余計な手間がかかるでしょう。
また、土地の現状と登記簿上の記録が異なるために法務局から経緯や事情を尋ねられても、明確な説明ができず、厄介な事態になる可能性もあるでしょう。
滅失登記についてよくある質問
滅失登記の手続きを進めようと思っても、イレギュラーなことが起きて、なかなか進められないこともあるでしょう。滅失登記についてよくある質問とその回答を紹介します。
1.建物滅失証明書(取り壊し証明書)を紛失した場合は?
上申書を作成して提出すれば、手続きができます。上申書に記載すべき事項は以下のとおりです。
- 建物の情報(所在地、家屋番号、種類、構造、床面積)
- 申請人の住所、氏名、押印
- 申請日
- 建物が存在しないこと
また、印鑑証明書の添付も必要です。
どのように作成すればよいのかわからない場合は、専門家に相談しましょう。
2.建物の登記簿謄本に載っている情報が現在の情報と異なる場合は?
所有者の住所が現在の居住地でない場合は、戸籍の附票や住民票など前の住所を確認できる書類の提出が必要です。
所有者の名前が異なる場合は、戸籍謄本など、登記簿上の所有者と申請者が同一人物であることが確認できる書類を提出しましょう。
3.登記されていない建物の場合は?
登記されていない建物の場合、滅失登記は必要ありません。代わりに自治体に家屋滅失届を提出する必要があります。届出書は自治体の窓口でもらえます。自治体の公式サイトからダウンロードできる場合もあります。
4.相続した建物の場合、先に相続登記をする必要がある?
滅失登記の手続きは相続登記をしていなくてもできます。
また、相続人全員で手続きをする必要もなく、代表者が単独で行うことが可能です。ただし、建物の取り壊しには相続人全員の同意が必要なので注意しましょう。
まとめ
今回は、滅失登記の概要、滅失登記の申請に必要な書類、提出先と提出方法、滅失登記にかかる費用の相場、滅失登記をしない場合のリスクなどについて解説しました。
建物を解体した場合には、1ヵ月以内に滅失登記の手続きを行わなければなりません。怠った際にはペナルティが科されるだけではなく、売却ができない、建物分の固定資産税の負担が続くなどのデメリットがあるので、速やかに手続きをしましょう。
クラッチ不動産株式会社代表取締役。一般社団法人住宅ローン滞納問題相談室代表理事。立命館大学法科大学院修了。司法試験を断念し、不動産業界に就職。住友不動産販売株式会社・株式会社中央プランナーを経て独立、現在に致る。幻冬舎より「あなたを住宅ローン危機から救う方法」を出版。全国住宅ローン救済・任意売却支援協会の理事も務める。住宅ローンに困った方へのアドバイスをライフワークとする。
監修者: 井上 悠一